【感想・ネタバレ】なにかが首のまわりにのレビュー

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Posted by ブクログ 2023年04月09日

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ。
アフリカからアメリカに渡って、自己のアイデンティティを見つめる移民文学。アフリカの苦しみを伝えるストーリー。
僕自身が、そんなステレオタイプで彼女の作品を捉えようとしていないかと、自問する。
この短編集は、そんな簡単に括ることはできない。

これまで無知であった...続きを読むナイジェリアに関する出来事を知るきっかけになったが、それ以上に何よりも物語の力に持って行かれた。苦悩を抱えて生きる人の心の震えを描く繊細さと、ナイジェリアの同世代と世界の両方に意識の変容を迫る揺るぎない力強さが、十二の短編に満ちている。
心が苦しくなる幕切れも多いが、一冊読み終わった後にはポジティブな気持ちになってくる。頑固なまでに私らしくあること。彼女のメッセージに背中を押される。
次は長編小説を追いかけたい。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年07月28日

彼女のTED Talksが好きで、〈The danger of a single story. 〉と〈We all should be feminists.〉を過去に何度も聴いていたのだけど、最近、友人がおすすめしていたこの本の筆者が彼女だと知って手に取った。

私もシングルストーリーしか知らずにア...続きを読むフリカを思い描いていたことを思い知らされる。

ナイジェリアの人の名前は「ン」から始まるものが多いのかな。そもそも日本語で「ン」から始まる単語はないし、その音を正しく捉えてはいないんだろうな。一体どんな響きなんだろう。

色んな短編があったけど、言葉にならない違和感の奥で、本当の私が死んでいくような感覚を覚えた。そこから個人個人がどう折り合いをつけていくか。



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個人的な話、

デンマークに留学しているとき、「世界一幸福な国の幸福」について散歩しながらペアで話し合う授業があったのだけど、その時に、南アフリカ出身の友人が私に言った言葉を思い出した。

「ここは世界一幸福な国かもしれないけど、私にとっての一番の幸福はこの国では無い。と思ったかな。」「他の国の文化や価値観も知らない現地の人が、色んな国から来たわたし達に、デンマークの幸せを考えさせてるのって、なんだか馬鹿らしくない?笑」「あ。これ秘密ね(笑)」


ナイジェリアの物語を読んでいるのに、南アフリカ出身の子を思い出すのも、これまたアフリカのシングルストーリーかもしれないけど。

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Posted by ブクログ 2021年03月16日

ナイジェリア出身のグローバルレベルの超エリート著者が書いた短編小説集。たくさんの「違い」や「断絶」が多層的に展開される。それぞれの主人公は、染まる方が、もしくは染まっているふりをする方が社会的に有利で楽だろうと思われる価値観に馴染むことのできないがんこさを持っている。もしくはその価値観が自分たちのも...続きを読むのと、どれだけどのように違うかを感じる繊細さを持っている。そこに共感するし、魅力を感じる。二項対立とかじゃなくて多様性(ダイバーシティ)の世界の文学。今はみな多様性の中に生きてるので、誰でも何かに引っかかりそう。ナイジェリアとアメリカ、男女とかだけじゃなく、「違い」は多層的。ナイジェリア国内の貧富、教育格差、民族、イボ語と英語、宗教。ナイジェリアと先進国の経済格差、米国と英国、男の子と女の子、世代間格差、本家と分家、帝国主義と植民地、アフリカの中での国と男女、、、etc.
時に居心地の悪さや、どうにもならないあきらめや乾いたせつなさを感じたり、時には快哉を叫んだりや滑稽さを感じることもある。
みんな良い作品で好きだけど、特に、ジャンピング・モンキー・ヒル、何かが首のまわりに、がんこな歴史家 が好きかなぁ。

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Posted by ブクログ 2019年12月10日

文章を通して全く異なる文化に触れられたことが切実に嬉しい。
しかし内容はかなり胸が痛い。
女性はこうも運命を選択できないものなのか。

宗教や国などの違いから生じる摩擦がナチュラルに描かれている。
日本にはここまでのすれ違いはないし、ある程度女性も社会的に活躍できている気がするけど、だからと言って日...続きを読む本に生まれて良かったとは思わなかった。
所々にあるマンゴーや、美味しそうな食べ物の描写の影響だろうか。
また、あまり信仰がない私にとって、宗教が日常に根付いていることが少し羨ましかった。

アフリカに馴染みがなくても、誰が読んでも既存の価値観や、固定概念について考えさせられる作品だと思う。

普段馴染みがない文化、問題についてもっと知りたいと思った。

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Posted by ブクログ 2019年11月11日

 かく言う自分ももう20年以上生きているわけで、多少なりとも世界のことも分かったつもりでいました。しかしこの小説を読んで、自分はいかに何も分かっていなかったのか、と思い知らされた気がしました。

 この本の著者はチママンダ・ンゴズィアディーチェという、ナイジェリア出身の女性。そんな彼女の感性で描かれ...続きを読むた短編が、12編収録されています。

 彼女の短編は目に見えない暴力をすくい取り、自分の中にある偏見や思い込みに静かに訴えかけます。まず一つは先進国の人間が持つ、アフリカへのステレオタイプな偏見。

 二週間ほど前、書店の店頭で、アフリカはもう援助の対象ではなく、投資の対象である、と帯に書かれている本を見ました。そのときは「なるほどな」と思ったのですが、この中に書かれている小説を読んで、自分は心の底では、そんなことは全く考えていないことに気づきました。

 表題作「何かが首のまわりに」でアメリカの大学に通うことになった、ナイジェリア出身の主人公に対し、他の学生は興味津々で、
「アフリカにはちゃんとした家があるの?」だとか「アメリカに来るまでに車を見たことはあった?」
といった質問をします。

 そうした質問に対し、主人公は怒ることもなく微笑みます。なぜならそういう質問がくることは、すでに予想済みだったからです。

 自分自身、そこまで無知でもないし、失礼なことを言うこともないとは思いますが、本質的にはこの学生たちと一緒なのだと思いました。

 バラエティーの海外ロケで見るような、先住民のようなイメージのアフリカ観は、どうしても簡単には抜けません。だから、そうしたステレオタイプな見方を受ける、アフリカの人々の心情をというものを、これまで考えたこともありませんでした。

 しかしこの作品集はそうしたステレオタイプに対し、怒りをほとんど見せません。透明感ある繊細な描写で、そうしたステレオタイプがあるという事実を。
そしてそうした偏見に対しての違和を、ただ丁寧に切り取ります。

 それがより、社会に埋め込まれた偏見の残酷さを浮かび上がらせているような気がします。
おそらくステレオタイプな見方が当たり前になりすぎている現状に対して、怒りの感情を文章に織り込むことすら、著者はバカらしく感じたのではないか、と自分は思いました。

 だからこそ著者は怒りで反抗するのではなく、染み入るような語り口で、事実を積み上げることで、読者の理解を誘うような作品にしたのではないでしょうか。

 そして著者は次にジェンダーや家族観についても切り込みます。最近でこそ男女平等という言葉が叫ばれ始めましたが、現実的なところ日本はまだまだだと言われています。

 しかし、アフリカの女性を取り巻く環境も厳しいです。生活のため、恋愛感情でもなく、養ってくれる男性と結婚する女性たち。でもそれは一方で、男性の庇護下に完全に置かれるということでもあり。

 他にも一夫多妻的な考え方であったり、女性は養われるもので働くべきではないという考え方、長男がなによりも優先される環境、さらには性的な搾取……

 そうしたものに対しても、作中の主人公たちはほとんど怒りを露わにすることは、無かったように思います。
これも先ほどのアフリカへのステレオタイプと同じように、丁寧にただそうした思考があるという事実と、それに対する違和を丁寧に繊細に切り取ります。

 自分は男であるため、女性側から見たジェンダーの問題には、どうしてもうとくなりがちですし、おそらく気づいていないことも多々あるのでしょう。

 この中にあるような露骨なジェンダー感は、減りつつあると思いますが、でも未だに日本にも残るステレオタイプな見方と、それに縛られる女性の存在というのも、考えさせられました。

 そして三つ目が価値観の押しつけ。特に印象深い短編は「結婚の世話人」と「がんこな歴史家」

「結婚の世話人」では、アメリカ人の元に嫁ぐことになったナイジェリア女性が主人公。
これまでの食文化や言語に対し、いちいち矯正されるばかりか、名前すらアメリカ人には言いづらいから、という理由でそのうち慣れると言われ、変えさせられます。

その裏には、アフリカ文化への侮りと、自分たちの文化への絶対感、そして「”アフリカの女”を養ってやっている」という傲慢さが透けて見えるような気がします。

「がんこな歴史家」は今後のため息子に英語を話させようと、教会に母子が訪れる場面があるのですが、それを機に息子が西洋的な考え方になり、母親と距離が生まれていくのが、印象的でした。

 価値観の押しつけがある一方で、自分たちはアフリカの現状をニュースなどで”知ったつもり”になっているという”無理解”にも、この短編集で気づかされます。

 暴動に巻き込まれ、姉とはぐれた女性を描く「ひそかな経験」では、暴動に巻き込まれた現在の状況と、カットバックで無事家にたどり着いてからの、女性のその後のことが描かれます。

 そのカットバックのところだったと思うのですが、ラジオニュースで暴動で死傷者がでましたと流れます。
でもその死傷者は、ニュースになる頃には数字でしかないわけで、
デモが起こった事実と、死傷者の数字に対しどういう悲劇や物語があったのか、ということはそぎ落とされています。
しかしこの小説では、その数字と事実の物語と悲劇を描き、この二つの事実の乖離を浮かび上がらせます。

 その場におらずニュースを聞いて”わかったつもり”になっていた自分にとっては、これもまた衝撃を受けた短編です。

 そして無理解ということにおいては「アメリカ大使館」が最も衝撃を受けたかも知れません。
夫がジャーナリストのため、政府軍の兵士から襲撃を受け息子を亡くした女性が、国外へ逃れるためビザを発行してくれるアメリカ大使館に行くのですが……

 大使館の中の冷房の効いた部屋で、その人物が嘘をついていないかだけに注意を払う外交官たち。
一方で政情不安な国から脱出するため、熱い中、日陰も無いところで数時間。
ビザが発行されるどころか、そもそも外交官と会える保障もないのに、並び続ける人々。

 さらに主人公の女性は自分の話をするとき、決して泣き過ぎないようにと釘を刺されます。なぜなら泣き過ぎると、嘘くさく見えてビザが発行されないかもしれないからです。

 残酷なまでに埋めようのない大使館と、人々の距離を、そうした描写で伝えることもすごいのですが、彼女の最後の選択を読んだときも、また衝撃的でした。
”悲劇があるという事実を知っている”だけで、”事実の意味を深く考えたことのない”自分がそこにはいました。

 自分の中にあった凝り固まった価値観や無理解。それに対しこの小説は静かに丁寧に、見えない暴力や思考を掬い上げ示すことで、解きほぐそうとします。

 それは、汚れていることにすら気づかずにいた泉が、ゆっくりと浄化されていくような。
そして浄化されることで「この泉ってこんなに汚れていたのか」と今更気づくような。そんな感覚を自分は覚えました。

 数年前にどこかで「アフリカ文学が今熱い!」的なことを聞いたような気がします。
(アフリカ文学やアフリカ文化と一括りにするのも、この本を読んだ後ではためらわれるのですが、とりあえず便宜上……)

 そしてようやく読むことができたわけですが、今までの自分の価値観では、決して気づけなかったことを、この一冊でたくさん感じることができたような気がします。

 事実やノンフィクションはもちろん重要です。でも、小説や文学の力、そしてフィクションも想像力もそれに決して劣るものではないと思います。
こうした小説が、より広い世界に羽ばたくことをただただ祈ります。

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Posted by ブクログ 2024年04月09日

またまた「翻訳文学試食会」(ポッドキャスト番組)で取り上げられていた作品を含む短編集。

カタカナで書くとチカチカする名前の作者は、ナイジェリアからアメリカに移住した自身の体験をベースに、「アフリカってこんなもんだろう」というアメリカ人の偏見と、「アメリカってこんなもんだろう」というナイジェリア人の...続きを読む偏見を描きつつ、それに向き合わざるを得ない主人公を描く短編が並ぶ。

標題作『なにかが首のまわりに』もよかったが、私は『アメリカ大使館』が推しの作品。これほどまでに他国へ移住することを必死に求める心境に、私はなったことがなく、強烈なインパクトを残したためだ。日本は平和でいいなと思うのか、平和ボケ過ぎていつか気が付いたらどうしようもなくなっているのか。

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Posted by ブクログ 2023年11月13日

読んでて私は、異邦人の女の人の話が好きだと思った
国を出た、居場所がない、親しい男、家族になじめない等の、現在の自分のいる場所に違和感を持つ女たち。とても自立しているようで寂しい人。

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Posted by ブクログ 2023年10月02日

アフリカ関係の本は、滝田明日香さん以来。(そうえいばキリマンジャロ登山の本とバッタの本は読んだ!)
滝田さんが繰り広げるエピソードは、私の知らない世界であり、わくわくしながら読んだことを覚えている。

本書の、チママンダさんは、世界的に活動されている。
本の評価が高いことは知っていたけれど、活動拠点...続きを読むはアフリカではなくアメリカ。来日もしていて、松たか子さんが朗読???
なんとも驚くものがある。

アフリカに私は行ったことなく、はっきり言って知らない世界である。
それをいいことにアフリカのイメージが作られてきた感がある。
それを証明するものが、FACTFULNESSのチンパンジーアンケートである。
にしても知らないことが多すぎる。
この本は、マスコミにつくられたものではなく、アフリカの暮しから出てきたもの。アメリカへの移住、査証取得に伴う面接に関する切実な対応・対策については、確かに驚いた。特別な心構えが必要なのである。
出張で同行していた人が(アフリカではありません)、イミグレーションで賄賂を要求されて払っていたけれど、まだまだどこもかしこも腐敗しているのかな。

今回滝田さん、チママンダさんに共通して感じたことは、治安の悪さと、腐敗した警察、根底にある宗教である。バッタの本にも(あまりにも有名な本なので、これだけでわかるひとはわかるとおもう)、信頼していたドライバーに盗まれた話がでてくる。
はやり怖いイメージはあるけれど、どうなんだろう。

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317頁

『闇の奥』的なイメージのアフリカは、アフリカを反人間としての「他者」と見なすことが可能な場です。つまり、西側諸国の人々がその人間らしさを試す場ということです。

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Posted by ブクログ 2023年04月02日

アメリカーナが面白かったので、こちらも読んでみた。
一つ一つがとても短い話なのに、一話終わるたびに感じる余韻がすごい。本書で描かれている、ナイジェリアとアメリカの空気、それぞれの女性たちの感受性や生きる力などに触れ、視界が開けるように感じた。世界は広い。

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Posted by ブクログ 2022年08月02日

読書の醍醐味、
知らない世界を知る、
そんな作品でした。

自分もアフリカやアメリカの地に居合わせたような
そんな感覚を抱かせるシーンが山ほど。

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Posted by ブクログ 2022年05月24日

セル・ワン
イミテーション
ひそかな経験
ゴースト
先週の月曜日に
ジャンピング・モンキー・ヒル
なにかが首のまわりに
アメリカ大使館
震え
結婚の世話人
明日は遠すぎて
がんこな歴史家

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Posted by ブクログ 2022年03月03日

アフリカ/ナイジェリアのさまざまステレオタイプにまつわる短編集。
人種、ジェンダー、植民地支配の歴史、内戦、宗教/文化、移民などさまざまな観点でストーリーが描かれていてこまめに読みやすい作品。
とても豊かな表現で海外著独特の表現があり、海外図書不慣れな私にとってはやや理解に時間がかかる部分もあったが...続きを読む、地域や時代、文化が異なるなかでも共感できる点があり、面白かった。

個人的には訳者あとがきで著者の背景や活動を知ることでさらに内容を深められた

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Posted by ブクログ 2021年12月26日

アフリカ世界だけど(ナイジェリア)、フェミニズムな内容も含まれている。遠い世界だけど、この屈辱わかる、と共感を覚えることが多い。

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Posted by ブクログ 2020年11月23日

まだ数本しか読んでいないけれどこれまでに読んだことのない感覚の本。
文体も独特だしそこはかとない不安を漂わせたまま終わる物語も。
この一冊だけでなく何冊か読んでみたい著者。

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Posted by ブクログ 2020年07月19日

ナイジェリア出身の作家で、近年では『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』などのスピーチでオピニオンリーダーとしても注目されているチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短編集。

軽やかなユーモアとペーソスを交えながら、描かれているのは人種、歴史、ジェンダーをめぐる問題で、なかなか打ちのめされる迫力です...続きを読む

私のほとんど知らないアフリカの政治的混乱、植民地としての歴史。それゆえの貧困。アメリカに暮らすアフリカ人としての違和感。

「アフリカ」ってひとことで言ってしまってますが、ジャマイカ人だと思われたり、サファリに行ってみたいと言われた経験が作品の中に出てきて、それがひとつの人種差別であることも感じます。

アメリカが求めるアフリカを描くことを強要される『ジャンピング・モンキー・ヒル』の作家たち!

文学を通して知る異国っておもしろい。

彼女の名前チママンダ・ンゴズィ・アディーチェを私は上手に発音できません。
私の名前もアメリカ人には発音しにくいらしく「チャキー」のようになってしまうのですが、少し前に流行った英語で通じる名前を子供につけるという風潮に私は微妙な違和感を感じていました。
英語で発音しやすいこともありますが、ヨーコとかイチローって本人が海外でも存在を確立したらちゃんと名前を覚えてもらえますよね。名前のほうを英語にあわせるのは逆じゃないかと。作品の中にもアメリカ人が発音しやすいようにアフリカ的な名前を変えることに対する奇妙さが書かれています。

名前を変えるのは些細な(!)ことですが、そんなふうに自分の国の料理や風習、言語や宗教を捨てていかなければアメリカで暮らしていけない移民としての視点がすごく新鮮でした。

以下、引用

兄がカルトに入るために必要なものーガッツとか自信のなさーを、もっているとは、どうしても思えなかった。

英国人は人を殺したり物を盗んだりすることを「遠征」とか「平定」という語を使って表現する。何千という仮面が「戦利品」として持ち去られて、世界中の博物館や美術館に展示されているんだ。

われわれはいつだって自分がもっているものをちゃんと評価しない。

BBCラジオから流れる声が、死者と暴動についてー「少数民族間の緊張の背景にある宗教的なもの」と述べるのをチカはあとから聞くことになる。それで彼女はラジオを壁に投げつけ、あれほど多くの死体のことを、わずかなことばに押し込めて、都合の悪い部分は削って無菌化してしまうやり方に、烈しく、燃えるような怒りが全身を駆け抜けるのを感じることになる。

自分の新生活のことはなにもいわずに電話を切った。話している相手に脚がないのに、自分には靴がないなんて不満はいえなかったのだ。

ダンブゾー・マレチェラはすごい、アラン・ペイトンは恩着せがましい、イサク・ディネセンは許せない、という点で意見が一致した。

ジンバブエ人がアチェベって退屈、文体のセンスがないもの、というと、ケニア人が、それは冒涜だ、といってジンバブエ人のワイングラスを取りあげた。すると彼女は笑いながら、もちろんアチェベはえらいえらい、と前言を撤回した。

「お父さんのことを書いてる?」とケニア人が訊ねたので、ウジュンワは断固たる「ノー」を返した。フィクションがセラピーだと考えたことはなかったからだ。タンザニア人がフィクションはすべてセラピーだよ、ある種のセラピーさ、だれがなんといおうと、といった。

アメリカを理解すること、アメリカはギブ・アンド・テイクだと知ること、それがこつだ。諦めることもたくさんあったが、得るものも多かった、と。

人が皿にたくさん食べ物を残し、しわくちゃのドル札を数枚、まるでお供えみたいに、無駄にした食べ物への罪滅ぼしみたいに置いていくことも書きたかった。

お金持ちのアメリカ人は痩せていて、貧しいアメリカ人は太っている

アフリカを過度に好きな白人とアフリカを全然好きじゃない白人はおなじー腰は低いが人を見下す態度をとるからだ。

白人の男女のなかには「すてきなペアだこと」と、いかにも明るく、大声でいう人もいた。まるで自分の偏見のなさを自分自身に納得させようとしてるみたいに。

彼らを見ていて、きみは感謝の気持ちでいっぱいになった。きみを象牙製品のように、エキゾチックな戦利品みたいに品定めしなかったからだ。

血とか縛るとか、信仰心をボクシングの練習みたいにしなくたっていいじゃないの、といってやりたかった。生きるってことは槍を振りかざすサタンとたたかうことじゃなくて自分とたたかうことなんだから、信仰ってのは良心をいつも研ぎ澄ましているかどうかってことなんだから。

一度、彼が不快に思っていることを、わたしが残念ねといったら、彼、叫び出したことがあってね。あなたがそう思っているのが残念だなんて言い方はよせ、独創性に欠けるって。

「どうして人は口では愛してるっていいながら、自分にだけ都合のいいことを人にやらせたがるんだろ?」

ここにはどこか屈辱的なほど、おおっぴらな感じ、どこか品位に欠ける感じがあった。やたらたくさんテーブルがあって、やたらたくさん食べ物がある、このオープンスペースには。

蛇ってのは「エチ・エテカ(明日は遠すぎて)」っていわれているんだ、ひと咬みで十分後にはお陀仏だからね

あの黒いアメリカ女はわたしの息子を縛って自分のポケットに入れてしまったんだ。

人が人を支配するのはよりすぐれているからではなく、より上等な銃をもっているからで、結局、自分の氏族がンワムバの氏族とおなじようにちゃんと軍備を整えていたなら、父親は奴隷人として連行されることなどなかったのだ


「私たちの歴史のなかでビアフラはとても重要な部分です。あの戦争をめぐる多くの問題がいまも未解決のままですから。でもいちばん心配なのは、そんな問題はなかったことにすれば消えてしまう、と私たちが考えているらしいということです」

「真のアフリカ」といった表現で語られがちなステレオタイプを強化する文学イメージを突き崩したい、とアディーチェは語ってきた。ステレオタイプの色眼鏡から解放されなければ、人はいつまでも対等に出会うことができないと。

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Posted by ブクログ 2020年07月14日

3月初めに小さな旅をしている途中、小川洋子の読書ラジオ番組を聴いていた。初めて聴く番組で、初めて知る作家の小説だった。アナウンサーの朗読と共に小川洋子さんが一冊の本を解説する番組だった。

1時間で、アルジェリアからアメリカに渡った女性の青春をすっかり知った気になり、私の知らない世界を垣間見た気にな...続きを読むった。ちょっと気になって本を取り寄せたのだが、まさかあんな豊潤な世界が、こんな18ページほどの短編だったとは思いもしなかった。私は少なくとも、中編のよく練られた黒人女性のアメリカ留学の1年間を見せられたのだと思っていた。しかも、フィクションはあるかもしれないが、これは作家の経験したことだと確信していた。それほどまでに、ひとつひとつの「言葉」が立っていて、しかも無駄な「言葉」はひとつもなく、詩のように語られていた。

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

この舌を噛むような作家は、12の短編全てで、12の人生を切り取り、そして鮮やかに表現している。ホントに自分の経験を書いていないのか?と思ったが書いてないのだ。読んでいくと、現在のアメリカ黒人差別運動の現場に居合わせている気分になるような描写もある。

表題作に戻ると、朗読では気がつかなかったことに、3つ気がついた。ひとつ、会話には「」は使われていない。よって、まるで詩を読んでいる気分になる。ひとつ、ずっと(主人公の女性のことを)「きみは‥‥と思った」と過去形で語られている。朗読では女性の恋人になる白人男性からの呟きだと勘違いしていたが、白人男性は「彼」と語られていた。だからもう一つのことも、私は確信を持った。主人公女性はアルジェリアから留学して親戚のおじさん家に間借りするが、レイプを強要されそうになり、家を出てレストランで働き出す。そこでまるきり違う「アメリカという人間の世界」で生きることになる。その時「何かが首のまわりに絡みついている」のを感じるのである(この「なにか」は精霊なのかもしれない)。自分を理解してくれそうな白人男性と付き合うことで、その感触は薄れるのではあるが、父親の急死を聞いて彼女はいっとき故郷に帰ることになる。白人男性は「帰ってくるよな」と聞くが黙って彼女は別れるのである。

果たして彼女は帰ってくるのか?

小川洋子さんは「帰ってこない」派だった。実はこの文体そのものが、彼女と白人男性はうまくいかないことを証明していた。ということが読んでみてはっきりわかった。

こんな波乱万丈の物語を短編で見せて、なお、余白を感じさせるストーリーテラー。すごいと思うが、一編読むのに物凄く疲れて、この一冊でもういいや、という気になった。黒人文化に興味ある人には、必読文学だと思う。

アディーチェの文学が文庫化されたのは、これが初めてらしい。ただし高い。300ページちょっとで、1150円(税別)である。もちろん、内容の濃さはそれ以上だ。

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Posted by ブクログ 2020年07月04日

We should All Be Feminists.

TEDでも有名になった、ナイジェリアの女性作家による短編集。

引き込まれる文章を書く人だな、と思った。するすると感情移入できる。
そして人種、ジェンダー、文化、宗教によるさまざまな問題が緻密に描かれている。重すぎず軽すぎず。日常生活の中の抑...続きを読む圧を顕在化させる。でも抑圧されている側を悲劇的に描かず、あくまでフラットなところがよい。

アフリカ文化なんて今までほとんど触れたこともなかったけど、すんなり入ってきた。
「アメリカ移民」という文化もはじめて知る。

「イミテーション」と「なにかが首のまわりに」がすき。相容れないものに対して、私たちはどうあるべきか。

翻訳の方がとても上手で読みやすかった。相性かな。

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Posted by ブクログ 2020年05月31日

ひとを愛するということは自分が知らない人生を知ることだ、と私が敬愛する灰谷健次郎さんは言ったが、この本を読むまでは私には知るべくもなかった、全く風土の異なる遠い異国の地の価値観や生き方を、匂いや温度をもった風のように感じられたことは私にとって得がたい喜びであり、それは作者の瑞々しい感性によって解き放...続きを読むたれた文章のおかげである。
個人的には『震え』がたまらなく良いと思う。全編にわたり訳者の力量の高さも感じる。
視点の幅が狭くなりがちなこの島国日本に生きる私たちにとって、固定化されかけたものの見方を、爽やかに一蹴するようなこの本の持つ意味は大きい。

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Posted by ブクログ 2019年12月09日

アフリカナイジェリアに出自を持つ著者が描く、性差、文化、世代間の違いによる摩擦。

それらは違う舞台でありながらも、
私たちが日常で出会うモヤモヤとしたズレとそう変わりはない。

自分の中のステレオタイプなアフリカへの偏見に気付かされるとともに、この世界の“今”に私たちは共感する。

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Posted by ブクログ 2019年11月17日

短編集10編
黒人,女性という弱い立場からあるがままに考え感じ表現している.(ただ,どちらかというと富裕層ではあるが)その繊細で観察力の鋭い目で短いながらも適切に切り取った表現にはたくさんの想いが込められている.後半の表題作,「アメリカ大使館」「震え」がよかった.

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Posted by ブクログ 2024年01月07日

ナイジェリア出身の著者が、ステレオタイプの「アフリカ」とはほど遠い、実際の彼女たちの日常、心情、人間関係などが書き綴られた、短編集。

読み始めは、馴染みのない名前(「ン」から始まる名前の多いこと!)、地名、人種、宗教、文化に戸惑いを覚え、300ページほどの文庫読破に7日も要した。アフリカ、特にナイ...続きを読むジェリアのことを勉強してから、再読しようと思う。

再読したら、恐らく星は増えると思われる。

ナイジェリアのことに詳しくないあなたは、訳者あとがきから読まれるのがいいかもしれない。少しは、著者や背景理解が深まるのではないだろうか。

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Posted by ブクログ 2023年11月05日

「パープル・ハイビスカス」の大きなうねりはないけれど、さざなみのように、人と人のあいだの差違や隔たり、ずれ、違和感を物語にして差し出してくる。

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Posted by ブクログ 2023年05月09日

凝り固まったステレオタイプな印象と、差別と意識していない差別こそが、多様性の時代に潜む本質的な問題なのではないかと考えさせられる短編集。

ナイジェリア出身の主人公たちが外国(主にアメリカ)との文化の差や、経済的な格差、ナイジェリア出身であるというアイデンティティに直面する物語を数話読んだだけで、豊...続きを読むかな国に生まれた人々の多くが自身でも知らないうちに、自分の中に「無意識の差別」を育んでいるのだと感じてしまいました。

差別というのは肌の色や宗教の違いを理由に人を迫害するような行為だけを指すのでなく、自分の中の常識に無い、相手にとっての常識に敬意を払わないことで生じる現象を指すのかもしれません。

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Posted by ブクログ 2022年12月11日

どなたかの本棚にあったので読み始めたのだと思います。最初はほんとに何気なくのつもりで。

ナイジェリアの作家さんなんてもちろん初めてです。
短編が12,3ほど収められているのですが、どれをとってもナイジェリアで生まれた女性たちがどういう一生を送るのかというのがテーマだと思います。ちなみにナイジェリア...続きを読むという国家は多民族で、よくでてくるスッカという大学街はアブジャ州内にあり日本政府の危険情報でもレベル3;渡航は止めてくださいレベルでした。私達が簡単に行ける国ではなさそうです。

ナイジェリアをでてアメリカへ渡る、キラキラした上位国アメリカに媚びるように生活するナイジェリア男性の3歩うしろで夫を敬い生活する、自国でも男性社会で女性の地位は低い、白人社会に出るとステレオタイプの黒人というひとくくりでイメージされる、日々レイシズムにさらされる海外生活、、などなどハッとさせられるテーマがナイジェリア女性の目線で描かれているように思います。なかなか厳しい風が吹く環境だと思うのだけど、小説のタッチはサラッとしていて重いテーマをそう見せない感じが素敵。

ただ、表題作はかなりハッとさせられました。これはなんというか物凄く悲しい。自分の事をきちんと理解してくれる素敵な人に出会ったのに、出自の違いが過ぎて自分をうまく解放できない女性。切ない、、。

この本を読んで思ったのは、ナイジェリアの女性であっても、日本で暮らすBBAな私でも内なる気持ちには何も変わりはないのだと。

異国の本もいいなと思える小説でした。来年はいろんな風や匂いを感じられるのでもっと海外小説にも挑戦していきたいなと思います!

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Posted by ブクログ 2022年10月16日

アフリカ(ナイジェリア)に生まれること、黒人であること、女性であること、アメリカに暮らすこと。向けられる眼差しや、違和感。

物語を読んでほんの一時わかったような気になって、実際、一生本当の意味ではわからないままなのだろうなぁ…。

ひりひりとした当事者感情がそこにはあった。

寝る前に『アメリカ大...続きを読む使館』を読んでしまったばっかりに、瞼の裏に鮮烈な赤いヤシ油の色が浮かんで、なかなか寝つけなかった。

表題作での、

「夜になるといつも、なにかが首のまわりに巻きついてきた。ほとんど窒息しそうになって眠りに落ちた。」

というところが印象的だった。初めて海外で暮らし始めた時、似たような気持ちを覚えていた気がする。

どこにも居場所なんて見つけられなくて、24時間常にコンフォートゾーンの外側。自律神経なんかぐちゃぐちゃだっただろう。

もうすぐアメリカに引っ越すので、自分も彼女たちみたいな感覚を味わうのかな。答え合わせしたい。

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Posted by ブクログ 2022年07月05日

アフリカの小説、というだけで先入観があった。
読んでみたら、かわらない人間の悲喜こもごもの話だった。
明日には遠すぎて ってタイトルがいい。

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Posted by ブクログ 2022年04月17日

アフリカの作家による小説第2弾。今回は短編集で、一つ一つの話が長くなく、軽快でテンポもよく、読みやすい。どの小説にも共通しているのは、「人種差別」と「土着文化とアメリカ文化の大きな違い」。これは、なかなか無くならないもので、「なにかが首の周りにある」という不気味な表現(当事者には感覚なのだろう)は言...続きを読むい得て妙。自虐的でもあり、賞賛でもあり、戻りたいような、帰りたくないような、そんな複雑な感情に共感できることが多い一冊。

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Posted by ブクログ 2022年03月01日

あらゆる差別や偏見,戦争,階級闘争,断絶と断罪,信仰と信念…あらゆるものが混ざり合って出来上がっている世の中と言う「壺の底」から眺めた風景を擬似体験する様に読んだ.
無知と傲慢を,抉り出して曝け出されたような気分…
アフリカ系の名前の馴染みのなさについて行けず,没入しきれなかったか,また時間を置いて...続きを読む読み直したい.

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Posted by ブクログ 2020年10月07日

翻訳本だから、少し難しい日本語になっていて読みにくさはあった。
世界にはいろいろな夫婦形式や、状況があるんやなと、自分の「世界」の概念が少し変わった。

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Posted by ブクログ 2020年08月25日

舞台はアフリカだったりアメリカだったり、登場人物たちも様々な人種ですが、あっこの感覚は味わったことがある…と思うことしきりでした。
生きづらさはどこにでもある、でもそんな中でも強く生きる女性たちが眩しい。
「ひそかな経験」「なにかが首のまわりに」「明日は遠すぎて」が特に印象的でした。ひそかな経験、は...続きを読むここにいたらなかなか出くわさないけど緊張感が凄かったです。
これまで接する機会のなかった地域の文学…色々と読みたくなりました。まずは知るの大事。

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