あらすじ
天保五年、土佐国に、わが国の海運の礎を築いた男児が生を享けた。後の岩崎弥太郎である。幼少時は非凡な文才を発揮したが、経済の表舞台に登場したのは慶応三年、土佐商会主任、長崎留守居役に抜擢された時である。その後、海援隊の経理を担当など、経営者としての本領を発揮していく。本書は、出生から、坂本龍馬ら幕末維新の英傑たちとの交流、そして三菱を大財閥に育て上げるまでの波瀾の一生を描いた評伝である。
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Posted by ブクログ
岩崎弥太郎
国家の有事に際して、私利を顧みず
著:立石 優
PHP文庫 た 37 7
土佐の郷士であった、岩崎弥太郎が、幕末から、明治にかけて「三菱」を創り上げていく物語である
不詳ながら、三菱と、土佐、坂本龍馬とはどうも結びつかないでいた。
そして、岩崎弥太郎とは、後始末のひとであるということだ。坂本龍馬や、土佐山内家、後藤象二郎らが残した借金を後始末したのは、岩崎弥太郎である
大言壮語をくり返す武士の中で、愚直に約束を守り、そして信念を貫く、組織の三菱を築き上げた、岩崎弥太郎は、まさに、「国家の有事に際して、私利を顧みず」であった。
気になったのは、以下です
敵とみなした相手には、自分の実力以上の強敵であってもがむしゃらに立ち向かうが、弱い者には優しい一面があった
岩崎弥太郎は、後藤象二郎の推薦で、入門できなかった、吉田東洋の門下生になったこと、これが弥太郎の運命の転機となる、東洋はあいまいな言い方をしない。鉈で断ち割るように、明快な断定をする。それが弥太郎の性分にぴったり合った
長崎丸山で遊んでも、若い頃のように見境なく耽溺してしまうことはなかった
どんな気難しい客も上手にもてなし、気分をほぐしてくれる妓たちの手練手管を商売に活用すべきだと気がついた
岩崎弥太郎が相次いで出会った、坂本龍馬にしろ、五代才助にしろ、機を見るに敏で、広い視野を具えている、これほどの人物に巡り合えた幸運に、感動した。
グラバーは、弥太郎に、パークスとの談判に際しては、恫喝に屈して、怯む態度を見せてはならないと、友人として忠告した。もとより、悪太郎の弥太郎は、そんなヤワな男ではない
相手が奉行所だろうとどこであろうと、約束を破った以上は詫びるのが物事の筋道であろう
契約を重視するのは、外国人との商取引では当然の義務であった
後藤象二郎の大雑把な金銭感覚には、岩崎弥太郎も長崎土佐商会の借金の後始末で、苦労させられたものだ
岩崎弥太郎が、全く価値観の異なる五代才助と親交を深めたのは、打算を超越したものだった。海援隊の経営について意見を異にしながら坂本龍馬との友情が最後まで続いたように、弥太郎は気心の合う男同士の友情を理屈抜きで大事にするところがあった
人に頭を下げると思うな。金に頭を下げると思え
三菱は日本海運業の玉座につく、社名を、郵便汽船三菱会社と改めた。現在の日本郵船である
弥太郎は、三カ条の社訓を作って、社員に布告した
・政治に関与し、一党一派の利益に左右されてはいけない
・投機的利益の獲得に走ってはならない。実業の正道を歩め
・中小業者を圧迫してはならない。国益に沿う事業を選定せよ
大隈重信は岩崎弥太郎を厚く信頼し、生涯の親交を結んだ。
「国家有事の際、私利を顧みず公用を弁ずる」と誓約書に明記した。
接待の席で、弥太郎は絶対に商売の話をしない。相手を楽しませることに専心するのである。
彼には敵も多かったが、理解者は徹底して味方につき、友人たちは長く親交を保った。人間的な魅力があったのだろう。
目次
第1章 苦節の青少年時代
第2章 激浪に揉まれる
第3章 坂本龍馬と岩崎弥太郎
第4章 才能開花の大阪時代
第5章 士魂商才
第6章 大いなる飛翔
「岩崎弥太郎」関係年表
あとがき
主な参考・引用文献
ISBN:9784569673578
出版社:PHP研究所
判型:文庫
ページ数:312ページ
定価:629円(本体)
2009年11月18日第1版第1刷
Posted by ブクログ
作者の著作は初めてになるが、歴史小説を数多く手がけている人らしい。昭和10年生まれだから、書き下ろしの本書出版時点で74歳だろうか。かなりのベテランである。刊行時期のタイミングから、NHK大河ドラマ『龍馬伝』に合わせたものだろう。作風は奇をてらったところもなく、弥太郎の出生から死去まで、史実に沿って小説化している。副題は「国家の有事に際して、私利を顧みず」。弥太郎の言葉だ。彼については三菱財閥の創業者であることくらいしか知らなかったが、その人生は波乱に満ちて面白い。
幕末史と彼の人生がリンクしており、あまたの幕末の英傑が登場する。決して劇的な筆致ではなく、淡々と史実を追っているので歴史の勉強にもなる。勉強嫌いから学問好きになり、漢詩に才能を発揮する。吉田東洋の弟子になり、後藤象二郎との知己を得て、そこから土佐藩の商務組織・開成館の運営をまかされ、商才を発揮するようになる。"政商"と影で言われもしたが、海運は新国家の大事業と信じて邁進した過程で政府の信頼を得たというのが実際のところなのだろう。旧社会の身分や門地にこだわらず人材を登用し、我が国の経済の礎を築いた男の人生には触発されるものがある。
Posted by ブクログ
三菱グループの創始者、岩崎弥太郎を扱った小説。彼の生い立ちから、幕末・明治維新前後の活躍、そして西南の役に至る三菱の基礎を築くまでの道のりを描く。割とあっさりとした筆の運びで、同じ土佐・幕末の有名人、坂本龍馬との絡みも必要最小限といった感じ。そのほか様々な交友関係、そして三菱創業後の苦労の描き方も淡々としたもの。死ぬ間際まで苦闘した共同運輸との競争には触れず。
本書で基本的な流れや人間関係を頭に入れた後は、ほかにいろいろと読み深めてもよいかと思う。