【感想・ネタバレ】ネクロスコープ 下 死霊見師ハリー・キーオウのレビュー

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Posted by ブクログ 2019年09月10日

・ブライアン・ラムレイ「ネクロスコープ 死霊見師ハリー・キーオウ」(創元推理文庫)を読んだ。上下あはせて700頁超、結構な長さである。この作品、「一九八六年に発表された、新生ラムレイの第四作、『ネクロスコープ』こそ、ラムレイが専業作家としての地位を確立した最初の傑作なのだ。」(宮脇孝雄「解説」下37...続きを読む4~375頁)といふ。ラムレイは「一九六八年にラヴクラフト風の短篇『深海の罠』でデビューした」(同372頁)さうであるから、この時点で既に相当のキャリアがある。ただし、それは副業であつて、作家を本業としてはゐなかつた。 自作年譜に、作家活動を「これまで楽しみのために(そして、ほんの少しの収入のために)やってきたこと」(同374頁)とあるといふ。それが一九八〇年に 陸軍を辞めて専業作家となつた。その第1作長篇は売れなかつたらしい。第4作に至つて売れた。本書である。ラムレイはクトゥルーといふ図式が私の頭の中にあるので、この第4作をそれほどの作品だとは思へない。クトゥルーらしきものはあるかと思ひつつ読んだけれど、遂にそれはみつからなかつた。まだクトゥルーを書いてゐなかつたのか、あるいは書いてゐたけれど本作で触れなかつたのか、これは私には分からない。作家たる者、いくつかのシリーズ等を持つてゐるはずである。そのいくつかの1つが本作だと言へるのであらう。さう、本作はシリーズ第1作となつた。「発表当初には誰も予想しなかったことだが、このシ リーズは全五巻でいったん終了したかに見えたものの云々」(同377頁)といふわけで、結局「全十六巻プラス中短篇の大河シリーズに成長し」(同前)たさうである。そんなになる魅力があつたのであらう。私にはよく分からない。
・本作の内容をかいつまんで言へば、東西冷戦下における死霊諜報合戦とでもなるだらう。この死霊といふところがネクロスコープにつながるのだが、これは主人公キーオウについてのこと、つまり西側である。では東はといふと、それがボリス・ドラゴサニである。ソ連の心霊的諜報機関のナンバー2に当たる人物であらうか。この二人が最後に対決するのである。その結果は、当然、正義は勝つ、つまり西側の諜報機関のキーオウが勝つのである。ただしこのドラゴサニ、そん なやわな者ではなささうである。名前に注目していただきたい。ドラで始まる。このドラ、ドラゴンのドラではなくドラキュラのドラであるらしい。つまり、吸血鬼の血をひくのがドラゴサニであつた。「ネクロスコープ」は見方を変へれば吸血鬼譚になるのである。どちらかといふと、こちらの筋で始まり、以下もこちらの筋が多い。だから、私などはこれは吸血鬼譚かと思つてしまふのだが、どうなのだらう、吸血鬼譚なのであらうか。「吸血鬼というのは、実は、当時のホ ラーのトレンドで」(同375頁)とある。だから、単純に吸血鬼を取り込んだだけかもしれない。しかし、ドラゴサニは〈父〉からネクロマンサー、死骸見師の力があることを教へられ、ヴァムフィアリ族のことを教へられる。ヴァムフィアリといふのはどうやら普通のヴァンパイアとは違ふやうで、「シャイターンそのものがそもそもヴァムフィアリなのだよ」(上240頁)とある。シャイターンは魔王サタンであるらしい。ラムレイそんな神話まで用意してこの物語を作つ たのである。しかし、この東西冷戦の様が私にはおもしろくない。緊迫感がない。ここは本筋ではないのかもしれない。しかし、ここがおもしろくなくなつたら 物語が成り立たないのではと思つたりする。二人が出会ふまでの物語、これが巻一といふものであらうか。物語は続くのである。

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