あらすじ
「測定基準の改竄はあらゆる分野で起きている。警察で、小中学校や高等教育機関で、医療業界で、非営利組織で、もちろんビジネスでも。…世の中には、測定できるものがある。測定するに値するものもある。だが測定できるものが必ずしも測定に値するものだとは限らない。測定のコストは、そのメリットよりも大きくなるかもしれない。測定されるものは、実際に知りたいこととはなんの関係もないかもしれない。本当に注力するべきことから労力を奪ってしまうかもしれない。そして測定は、ゆがんだ知識を提供するかもしれない――確実に見えるが、実際には不正な知識を」(はじめに)パフォーマンス測定への固執が機能不全に陥る原因と、数値測定の健全な使用方法を明示。巻末にはチェックリストを付す。
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Posted by ブクログ
近年、説明責任ともあいまって、測定基準を公表することが求められているが、パフォーマンス評価を重視し過ぎることのリスク、悪影響を述べた本。
評価はその組織やそのミッションを理解している人が指標を決めることが必要。
その上で、業種によっては実績評価がモチベーションにつながることもあるが、多くの場合、行きすぎた評価は、数値をよく見せるために不正を起こしたり、不作為による別の問題を引き起こす。
それが顕著なのが、教育、医療、警察など。
例えば、医療では、手術の成功率を上げるために、リスクの高い患者の手術を避けるようになる。治る可能性のある患者を放置することは生死に関わる問題である。
警察は、重罪を軽犯罪として記録したり、通報された犯罪を記録しないことで犯罪率を引き下げることができるが、市民生活をリスクにさらすことにもなる。
どの業界でもやはり"測りすぎ"は、構成員を疲弊させるのみならず、社会全体にもマイナスの影響を与えうる。
それらを知った上で、いつどうやって測定基準を用いるかのチェックリストもついている。
リスクを認識させるだけで、改善策とまではいえないが、評価する側もされる側も気に留めておくべきことだと思う。
Posted by ブクログ
証拠ベースの政策決定。アカウンタビリティ(説明責任)。PDCAサイクル。それらのためにはまずは測定することが第一歩。ということで何でもかんでもまずは数値化という昨今。
本書は、測る仕事ばかりが無意味に増えて頭にきた大学教授が専門外の文献を読んでまとめた論文の形になっている。
測ること自体が問題だと批判しているわけではない。測ることが万能だと思うのが間違いである。数値化して可視化すれば何でも上手く行くわけではないのだ。
測ろうとしている対象、例えば、学校の教師の能力だとか、会社組織のパフォーマンスなどのうち、実際に数値化できることはそのほんの一部分限られているし、測るのは数値化しやすい部分に限られるということ。
測りやすいものだけ測って全てのように評価すると、測れない重要な事項が無視されることになる。欠点を認識せずに導入することは問題だし、測定に執着するのが間違いの元凶。測りすぎることのコスパも考えるべきだ。
以上のことがもうずいぶん前から研究者によって明らかにされていることを、本書は教えてくれる。
言うなれば、本書は”測りすぎ”の失敗学とも言えるだろう。こうすれば失敗するという分かり易い実例がたくさん紹介されているので、「さぁ測ろう!」という組織のトップには、本書を読んで過去の失敗例を学んでから測りはじめて欲しい。
しかし、本書で紹介される失敗例をなぞるような「改革」が自分の所属する組織で進行していくのを知ると残念な限りかもしれない。
本当に有意義で機能する「測定」システムは現場を担当する内部から改善運動のための起こる測定であって、測定される対象の人々が測定の価値を信じている場合のみだということを忘れてはいけない。
最も失敗するのは、上からの「測定」を「報酬」と連動させる場合のようだ。特に、公的な仕事。公務員、警察、教師、医師、大学教授など、人々への貢献による精神的な内的報酬を重要視する分野では、数値化しやすい項目による実績評価を使った成果と給与とを結びつけることは、逆効果になることと結論付けられているらしい。うーん。