【感想・ネタバレ】世界史を変えた新素材(新潮選書)のレビュー

あらすじ

金、鉄、紙、絹、陶磁器、コラーゲン、ゴム、プラスチック、アルミニウム、シリコン……「材料科学」の視点から、文明に革新を起こしてきた12の新素材の物語を描く。「鉄器時代」から「メタマテリアル時代」へと進化を遂げた人類を待ち受ける未来とは――ベストセラー『炭素文明論』に続く大興奮のポピュラー・サイエンス。

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Posted by ブクログ

前に読んだ佐藤氏の著書が面白かったこともあり、手に取ってみました。
想定していた以上に面白い内容でした。
「素材」に着目したことが、この本の秀逸な点であり、佐藤氏の経歴や知識を存分に発揮できる内容につながったと思います。

金、陶磁器、コラーゲン、鉄、紙(セルロース)、炭酸カルシウム、絹(フィブロイン)、ゴム(ポリイソプレン)、磁石、アルミニウム、プラスチック、シリコンの12種類の素材が取り上げられています。
「12種」がそもそも絶妙だと思いますし、素材ごとのドラマも面白いですし、関連する物質(素材)や人(発見者や開発者)に関する説明も勘所を押さえていて、内容的には文句のつけどころがない本だと思います。
昔読んで面白かった『「理科」で歴史を読みなおす』にも通ずるところが多く、どんどん次が読みたくなる本でした。

ただ、1点気になったところがあります。
それはタイトル。
個人的には、『世界史を変えた新素材』ではなく、『世界史を動かした新素材』とした方がしっくり内容でした。
おそらく、著者ではなく、編集側が考えたもので、あえての違和感を狙ったのだと思いますが、自分には「タイトルの付け方が雑」という印象が残り、唯一そこだけが残念でなりません。

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2025年01月11日

Posted by ブクログ

簡単過ぎず、難し過ぎず。
前著『炭素文明論』は「世界史×科学」の分野があることを指し示してくれた。日常に潜むSTEMに嫌気がさした時、自分が『炭素文明論』を読んだという事実を思い出すと幾分か心が落ち着く。

本書も例外ではなく、大当たり!
世界史上に見られる新素材12種を順番に追い、解説にも簡単と難解の落差が見られない。(つまり全編通して分かりやすい) メモ代わりにしたいところだが、ここに全12種は収まりきらんのでいつもながら数点ピックアップ…

金:貨幣から今やスマホにまで搭載されており、その輝きは「太陽の色に似ている」とは…思わず溜息が漏れた。
相対的に白金(プラチナ)が歴史上持て囃されなかった理由も明らかになる。(20世紀になってようやくカルティエが、貴金属として白金をジュエリーに採用したんだとか)

鉄:世界史の授業でもお馴染みのキングオブ金属。(ヒッタイト…取り敢えず懐かしい笑) 地球上に沢山存在するゆえに民衆も簡単に手にすることが出来たという鉄。それを更に強化した鋼や錆びなくしたステンレスに変えた叡智に改めて感服する。それで人類が繁栄すると早くに分かっていたら、何百年も錬金術に勤しむ必要なんてなかったろうに。(浅い見解…)

炭酸カルシウム:「千両役者」とは、これいかに⁉︎ なるほど、チョークにセメント…、果ては真珠まで⁉︎ セメントと同じ素材を使ったらそりゃ丈夫な貝殻が出来るよね…中身の真珠もそれとは、本当に何にでも化ける。。鮮やかに飛び六方を踏む役者を見送った後みたいに、章が終わっても呆然としていた。

シリコン:別名「ケイ素」。炭素とは兄弟元素…周期表の並びもテキトーではなかったか笑(思えば常識) 炭素と違って生物とは結びつけない分、材料として役に立ってくれている。シリコンバレー誕生秘話も何だか熱量を感じて面白かった。

メタマテリアル(超越物質):初耳…上手く活用できれば「透明マント」の開発も夢ではないらしい。
当時の段階では作り出せない未来の材料・製品を夢見た過去の人達みたいに、自分達も「メタマテリアル」の先にある透明マントを羨望しているのかも。

佐藤氏による「世界史×科学」は、今日もこうして一読者の中に夢ある反応を生み出したのでした。(つづく。つづける!)

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2022年02月12日

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この人とサイモンシンの本は絶対に読むくらいに好きな作者。
今回も歴史とその社会を形作る素材の進歩をエピソードを交えて講釈してくれるのが本当に楽しい。

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2019年12月11日

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新しい材料は変革をもたらして文明を発展させるという意味で、人類の歴史に果たしてきた役割は大きい。

ファインセラミックスは、純度100%近い材料を用いて、粒のサイズ、焼成温度をコントロールして作る焼き物。コンデンサや電池の電極、高温超電導材料が作り出されている。

コラーゲンは、アミノ酸の鎖が3本絡み合った長い繊維で、ヒドロキシ基によって3本の鎖が結合されている。細胞間の隙間を埋めて貼り合わせる役割を持つほか、骨もコラーゲン繊維の間をリン酸カルシウムの結晶が埋めた構造をしている。コラーゲンは、人間のたんぱく質の3分の1を占める。コラーゲンを煮込むと鎖がほどけて水分を含んだゼラチンになる。木製の弓に動物の骨や腱をゼラチンを主成分とした膠を接着剤として貼り合わせた小型かつ軽量の複合弓は、モンゴル帝国の世界征服において主要な役割を演じた。

恒星内の核融合によって、ヘリウム、炭素、ネオン、酸素、ケイ素、鉄が作られる。鉄が原子核の中で最も安定している。ヒッタイトが開発したのは、海綿状の鉄を木炭の中で熱することで硬く強靭な鋼鉄を作る技術だった。鉄の耐食性を高めるために、スズでメッキしたブリキ、亜鉛でメッキしたトタン、ガラス質を焼き付けた琺瑯、クロムを加えたステンレスが生まれた。

105年、樹皮や麻を灰と共に煮ることにより、セルロースを取り出して作る現代と同様の紙の製法が中国で発明された。751年のタラス河畔の戦いで捕虜になった唐軍兵によってアッバース朝に伝わり、第2回十字軍の際に捕虜となったフランス兵が帰郷後に製紙業を興した。活版印刷は宋で発明され、ヨーロッパでは1450年頃からグーテンベルクが開始した。イスラム圏では印刷することが300年の間禁止されたため、印刷技術が普及しなかったことが、科学技術の面でヨーロッパに逆転を許した大きな要因と指摘されている(ニコラス・バスベインズ)。

石灰岩に粘土、珪石、酸化鉄などを混合して高温で焼いてできた生石灰(CaO)を粉砕したものがセメントで、それに砂や砂利を混ぜて強度を増したものがコンクリート。

ゴムは、イソプレン(C5H8)が長く一直線につながったもの。天然のゴムは夏には溶け、冬には固くなる代物だったが、アメリカのチャールズ・グットイヤーは、ゴムに硫黄を加えて加熱することで耐熱性を持たせることに成功した。球技の多くが19世紀後半に協会を結成したり、現在に続く大会が開始されたのは、良質のゴムが普及したことによる。ただし、グットイヤー社は半世紀後に設立されたもので、資本関係はない。スコットランドのジョン・ダンロップは、1889年に空気入りタイヤを生産する会社を設立した。

プラスチックは、合成樹脂などの高分子物質を主原料としたもの。セルロースと硝酸を化合したニトロセルロースに樟脳を混ぜて硬化したものがセルロイド。象牙で作られていたメガネフレーム、ピアノの鍵盤などに用いられたほか、映画フィルムに用いられたが、燃えやすいために現在ではほとんど使われなくなっている。ポリエチレンは1939年に生産工場が作られ、軽量で絶縁性に優れていることから、第二次世界大戦中のレーダー開発に大きな役割を果たした。現在も、全プラスチックの4分の1を占めている。ペットボトルは、1982年の食品衛生法改正によって飲料用に用いることができるようになった。海洋のマイクロプラスチックの総重量は、2050年頃には魚の総重量を超えるとの試算もされている。

シリコン(ケイ素)は、金属のように電子が自由に動かないが、他の元素をほんの少しだけ混ぜることにより、電子が移動するようになる。半導体とは、不純物の量や光の当て方によって電気の通し具合をコントロールできる物質のこと。電子の少ないホウ素を混ぜたものをp型半導体、電子の多いリンを混ぜたものをn型半導体と呼ぶ。これらの半導体を組み合わせることによって、電流を一方だけ通すダイオードや、情報を記録する半導体メモリなどをつくることができる。トランジスタは、異なる性質の半導体をサンドイッチにしたもので、長寿命かつ低コストで生産でき、いくらでも小さくできる。シリコーンゴム(silicone)は、炭素とケイ素を人工的に結合させたもので、柔軟で耐久性が高く、熱にも強い。

アメリカは、2011年に新材料の開発速度を2倍に上げる政策を打ちだして成功した。これを見て、中国も同様の計画を立てて急速に追い上げた。

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2025年09月26日

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ネタバレ

特に興味深かったところ。人間のタンパク質のうち3分の1がコラーゲン、細胞と細胞の隙間を埋め、互いに貼り合わせる。壊血病はビタミンC不足で起きるのは知っていたが、ビタミンC不足でコラーゲンができなくなり全身の血管が脆くなっていたことは初めて知った。イスラム教が印刷技術は迫害されたせいで、オスマン帝国の1927年時点で男女合わせてに識字率は10%以下、知識階級しか文字は知らなかった。知識の普及は阻害され、イスラム圏の科学技術はルネサンス以降ヨーロッパに逆転される。

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2025年01月24日

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金、鉄、紙、炭酸カルシウム、ゴム、磁石、アルミニウム、プラスチック、シリコンなど、人類の進化の歴史を変えた素材たちについての読み物。
それぞれの素材の歴史や人類に与えた影響を難しすぎない範囲とレベルでエピソード紹介してくれるので楽しく読める。
炭酸カルシウムに一見違和感があったが、セメント・肥料・石灰など幅広い活躍ぶり。ゴムタイヤの商業戦争のトピックがおもしろい。

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2023年03月12日

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時代は一人の天才による発明や思想、戦争のような外圧などにより大きく変転する。イノベーションにより歴史が変わり、青銅器文明、鉄器文明など象徴的技術で時代を区切る。まさに、初期の世界史は、素材の歴史だったのだ。

雑学では無い、テーマ毎にきちんと整理された知識が学べる。初耳な事も多いし、確かにと合点する論拠も多い。一口に素材と言っても金属類だけでは無い。寒冷期を生き延びる為に毛皮が重要。毛皮はなめす必要があり、加工には唾液から、柿渋などのタンニンを用いるなど、ここでも技術の発展があった。死活問題として、毛皮を扱えた者だけが生存できたという超重要なターニングポイントでもあったのだ。

これだけではないが、もう一つ面白いなと思ったのは紙の話。これが東西の芸術作品の歴史にも影響したのだという。先に紙を使いこなした東洋では、書道や水墨画など紙を画材とする芸術が発展。ヨーロッパにおける紙の大量生産は木材からのパルプ製造法を発明を待つ必要があり、西洋の芸術は彫刻が重要な位置を占めた。

斯様に社会には技術との因果関係があり、それにより随分様相が異なってくる。現代で言えば、インターネットやスマホだろうか。スマホ以前とスマホ以降では、道でヒヤリとする頻度や電車の乗客の首の角度が違う。あらゆる情報が表に出されるせいで、検索に引っかからない店は無きものにされてしまう。これが続くとどういう世界を迎えていくのか。まさに時代の転換点にいるのかも知れないし、いつの時代もその過渡期だとも言えるかも知れない。

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2023年02月23日

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素材が拓く歴史があり、歴史を通じて接し方が変わる。

◯金:近年、無用の価値だけでなく、有用な価値も発見。
・細長く延ばすことができ、伝導性に優れているため半導体電極とチップをつなぐ配線に使用(スマートフォン1台に30mg使用)
・ナノ粒子は有害物質分解、プラスチック素材製造の触媒機能がある

◯陶磁器:ファインセラミックスは高強度・高耐熱により、スペースシャトルにも用いられる。

◯コラーゲン:三重らせんの長い繊維として存在する得意なタンパク質。
・再生医療に不可欠な材料

◯鉄:安く大量に生産される材料。他の金属と合金にすることでさらに優れた性質を発揮すること、磁石になるうること。
・錆びない鉄、ステンレス

◯紙(セルロース):
・ブドウ糖のセルロース、アミロースの配列の違い

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2022年04月18日

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私は化学がとにかく苦手なのだが、本書は根気強く楽しく、歴史に絡めて説明されているので、とてもスムーズに読み進められた。

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2021年07月26日

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文明を生み、人類を豊かにした様々な素材として、鉄やアルミなどの金属、コラーゲンやセルロース(紙)などの自然素材、陶磁器やゴムなど天然素材に人間が加工を加えたもの、そして、プラスチックやシリコーンなどの人口素材を取り上げ、その歴史や特性・用途について分かりやすく解説されている。サイエンスライターらしく話題も豊富で、読んでいて飽きないし面白い。

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2020年08月29日

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大学院の授業(材料)の課題図書。

材料は専門でないしあまり興味もなかったので読み始めるのに抵抗があったが、雑学的な話が多くとても読みやすかった。

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2020年08月09日

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人類の文明にとって重要な材料として、金、陶磁器、コラーゲン、鉄、紙、炭酸カルシウム、絹、ゴム、磁石、アルミニウム、プラスチック、シリコンを取り上げて解説した好著だ.特にコラーゲンと炭酸カルシウムが異色だと感じた.終章のAIに関する記述も楽しめた.このような解説書はもっと読まれるべきだと思う.これらの事項をある程度把握してうえで世の中の事象を見つめる必要があると思っている.

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2019年05月07日

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あまり詳しいことが書いてあるわけではないが、なるほど面白いなぁとあっさり読める良書であると思う。興味の入り口としてとても良い。世界は色々な素材の発明によって成り立っているんだなぁということ、そしてこれら素材がない頃を想像できないなぁという驚きがあってよかった。

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2019年02月17日

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科学者による、歴史的に見て優れた素材について説明した本。金や陶磁器、鉄、紙、ゴムなど社会に大きな影響を与えた素材を簡潔に説明している。身近にある物の発明経緯や歴史的な価値を知ることができ、たいへん有意義な内容だった。
「考古学というものはどこの国であれ、まず壺とその破片を探すところから始まる。土器、陶器、磁器などの発達度合いは、その文明の成熟度を測るよきバロメーターだ」p33
「粘土を低温で焼いて作ったものは、いわゆる「素焼き」と呼ばれ、縄文式土器や弥生式土器は全てこれに当たる」p37
「(地続きから島になったタスマニア)(人の行き来がなくなると文明は衰退する)結局タスマニアからは、ブーメランや骨製の釣り針、魚とりの罠や衣服を作る技術が、わずか数千年で失われてしまった。外部との交流を絶たれて自給自足の状態に追い込まれると、進歩が止まるどころか衰退さえ起きてしまう」p50
「スズで鋼板をメッキしたブリキ、亜鉛でメッキしたトタン、ダラス質を焼き付けた琺瑯(ほうろう)」p73
「(製紙の開始年)中国105年、スペイン1056年、イタリア1235年、ドイツ1391年、イギリス1494年、オランダ1586年、北米1690年。以外にもその拡大速度はかなり遅い」p88
「東洋では、書道や水墨画など、紙を画材とする芸術が発展した。これに対し、西洋では長らく彫刻などが芸術分野において重要な地位を占め、絵画もフレスコ画や油絵といったジャンルが主流となってきた」p88
「8世紀から13世紀にかけて、イスラム圏の科学技術は世界の最高水準にあったが、ルネサンス以降のヨーロッパに逆転を許し、大きく水を開けられた。これは、印刷技術の導入に抵抗したため、知識の普及が阻害されたことが大きな原因と指摘されている」p91
「(ワシントンモニュメントの頂点をアルミキャップで覆った)このアルミニウム1オンス分だけで、この塔を建てた全労働者の1日分の給料をまかなえたという。ほんの数百年ほど前のアルミニウムは、金やプラチナなど足元にも及ばぬほどの高価な「貴金属」であったのだ」p165
「破壊的なイノベーションとは、その種を発見することよりも、それを形あるものとして世に送り出すことのほうが、難しい」p180
「(破壊的イノベーション)(トキワ荘など)才能の異常な結集と爆発が起きているケースには、いくつかの共通点がありそうだ。新しく切り開かれた分野であること、十分な資金が集まっていること、リスクのあるチャレンジができる状況であること、自由闊達に議論ができる環境であることなどだ」p210

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2019年02月17日

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金、陶磁器、コラーゲン、炭酸カルシウム、ゴム、紙(セルロース)、絹、鉄、磁石、アルミニウム、プラスチック、ケイ素(シリコン)。現代の生活に欠かせない材料に関して、人類がどのように利用するようになったかの歴史だけでなく、その物理・化学的な説明も一般読者向けに分かりやすく解説されています。材料科学の専門家にとっても、全体を俯瞰するのに役立ちそうです。

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2019年02月02日

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「黄金が人類を魅了するのは太陽や火の輝きに似ているからではないか」
「黄金の色が鈍かったら世界は平和で、しかしずっとつまらない世の中になっていたかもしれない」
「明の貿易が鄭和以降も続いていたら大航海時代はどうなっていたか」
”素材“を通じて筆者が立てる「イフ」の問いが面白い。

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2019年01月20日

Posted by ブクログ

金、陶磁器、コラーゲン、鉄、セルロース、炭カル、絹、ゴム、磁石、アルミ、プラ、シリコン。物性と化学と歴史で綴る材料文明論。孫引きではなく著者の言葉で描かれているので、知らないことはもちろん知っていることでも違う角度や別の表現になっていて楽しい。

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2018年12月20日

Posted by ブクログ

<目次>
はじめに  「新素材」が歴史を動かす
第1章   人類史を駆動した黄金の輝き~金
第2章   一万年を生きた材料~陶磁器
第3章   動物が生み出した最高傑作~コラーゲン
第4章   文明を作った材料の王~鉄
第5章   文化を伝播するメディアの王者~紙(セルロース)
第6章   多彩な顔を持つ千両役者~炭酸カルシウム
第7章   帝国を紡ぎだした材料~絹(フィブロイン)
第8章   世界を縮めた物質~ゴム(ポリイソプレン)
第9章   イノベーションを加速させる材料~磁石
第10章   「軽い金属」の奇跡~アルミニウム
第11章   変幻自在の万能材料~プラスチック
第12章   無機世界の旗頭~シリコン
終章    AIが左右する「材料科学」競争のゆくえ

<内容>
佐藤健一郎の科学史のシリーズ。これは「材料化学」の世界。「素材」をクローズアップしたもの。周期律表の秘密(縦系列は性質が似ている)とか、地球には鉄よりもアルミのほうが多く存在している(それも倍近く)とか、雑学的な話も面白い。こうした物質が世界史を動かしていたことは、とても興味深いものだ。
  

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2021年09月11日

Posted by ブクログ

 読み物として面白かった。

 優れたモノやアイディアを持った人同士が出会うと、お互いにそれをやり取りしたり改良したりして、さらに優れたものに進化させることが起こる。人が一生ひとところに留まっていれば、素晴らしいアイディアもぶつかり合い、磨かれ合うこともない。人が動き回ることは、文明の進展に必須の要素であったはずだ。
 マット・リドレー著『繁栄』には、その実例としてタスマニア島のケースが挙げられている。この島はかつてオーストラリア大陸と地続きであったが、海面の上昇によって1万点ほど前に本土から切り離された。すると、よそで開発された新技術は入ってこず、持っていた技術も継承者がいなくなるたびに消えていく。結局タスマニアからは、ブーメランや骨製の釣り竿、魚とりの罠や衣服を作る技術が、わずか数千年で失われてしまったという。外部との交流を絶たれて自給自足の状態に追い込まれると、進歩が止まるどころか衰退さえ起きてしまうのだ。筋力ではなく頭脳を武器として生きる人類には、過酷な旅のリスクを冒してでも、移動と交流、交易を行うことが決定的に重要なのだ。

 グッドイヤーは、ゴムに酸化マグネシウムや石灰などあらゆる粉末を混ぜ込む実験を重ねたが、溶解を防ぐことはできなかった。出資者が手を引いたために貧困に苦しみ、実験のために健康さえ害しながらも、彼は決して諦めなかった。借金のために何度も投獄され、貧しさのために子供を失いながらも実験を続けたというから、その執着ぶりは異常というほかない。
 グッドイヤーの凄まじい執念に対し、ついに運命の女神は微笑む。実験開始から5年目の1839年、ゴムに硫黄を加えて加熱することで、耐熱性を持たせられることを発見したのだ。グッドイヤーはさっそく特許を取得、1842年にゴム工場を立ち上げた。
 筆者はこの話を読んだ時、なるほどこれが世界屈指のタイヤメーカーであるグッドイヤー社であり、チャールズは長年の労苦が報いられて大金持ちになったのか―と早合点してしまった。だが実のところ彼は、加硫法という画期的な発明は成し遂げたものの、事業家としてはまったく成功できなかった。現在のグッドイヤー社の設立は加硫法の発明から半世紀以上も後の1898年であり、社名はチャールズ・グッドイヤーにちなんで命名されたものの、直接の資本関係などはない。

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2019年01月20日

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