あらすじ
少年時代から、鏡やレンズ、ガラスに異常な嗜好を持ち、それが高じてついには自宅の庭にガラス工場まで作ってしまった男がたどる運命は……(「鏡地獄」)。表題作のほか、 「人間椅子」「人でなしの恋」「芋虫」「白昼夢」「踊る一寸法師」「パノラマ島奇談」「陰獣」という、乱歩の怪奇・幻想ものの傑作・代表作を選りすぐって収録。編/解説・日下三蔵
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Posted by ブクログ
鏡合わせの世界とは不思議に魅力的なものであるが、半円の鏡と半円の鏡を向かい合わせて球体の鏡を作ったとするならば、その玉の中心から見えるのはどのような景色だろうか。この物語は、そんな誰でも思いつくような、しかし決して実行することはないような想像を、実際に試してしまった人物についての物語であった。
人が発狂するまでを丁寧に追っていて、まるで隣で知り合いが狂っていくのを見ているようだった。と同時に、彼が思考実験の末にたどり着いたその世界はとても綺麗だろうなとも感じた。ついに球体鏡の中に入り、発狂した友のことを、「怪物の世界に足を踏み入れた」と表現しているところもよい。
そうして、人間ほどの大きさの玉が、ただ部屋の真ん中に、ごろりごろりと転がっていたのだ。
この物語は読んですぐよりも、読み終わってからのほうが後を引いている。球体の鏡の中に、入ってみたい…見てみたい…と、次第に強く思うのである。なぜだかとても美しいような気がするのである。このように己の思考の移りゆく様こそが、江戸川乱歩の書いた恐怖なのかもしれない。人ひとりを狂気にいたらしめる恐ろしさがあると、このように目撃しているのに…