【感想・ネタバレ】名字の歴史学のレビュー

あらすじ

一族の歴史と想いが込められているはずの「名字」は、古代から階層意識、職制、地名、出自などさまざまな要素を取り込みながら陰に陽に使われ続け、明治維新後に公称が義務化されるに至ったものである。氏姓制度、臣籍降下、律令制、源平合戦、惣領と庶子、幼名、通字、偏諱――名字の成立過程と変遷を通して日本の歴史を通観し、現代に続く起源を探ってゆく。

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Posted by ブクログ

 一般に広く流布する「江戸時代以前の庶民は苗字・帯刀が禁じられていた」とする言説に真っ向から反論した昭和27年の「洞論文」。これに触発された著者が、日本人の「名字」の歴史について、中世史を専門とする立場から通時的に解説を加えてゆく。原本の出版は2004年だから結構時間が経っている。
一言で「名字」と言っても、それが「氏」や「姓」やはたまた「苗字」とどう違うのか、違うとすればどのような関係にあるのかについて即答できる人間は多くはあるまい。しかし、それぞれの成立過程が、本書にあるようなその時々の権力構造や社会構造との強い相関下にあることを理解すれば、それらが同列に扱われていることがむしろ不思議に思われてくる。各章題をみれば大雑把に理解できるように、「氏」「姓」の成立は古代の大和朝廷を構成した氏族集団と天皇家との関係に深く根ざしており、「名字」は中世以降の武士による地方支配のあり方と切り離して論ずることはできない。これら全く出自の異なる概念が明治維新の四民平等でシャッフルされたというのが大まかな流れだが、そのようなごった煮を何の抵抗もなく受け容れ、現在もさして矛盾なく存立させている日本社会の雑食性というか、受容力の高さには改めて驚かされる(まあ、平たく言えば何も考えていないということかもしれないが)。
著者の専門領域からすれば無理からぬことかもしれないが、著述の契機となった「洞論文」の「庶民は江戸時代以前から苗字を持っていた」とする主張を補強する記述が、量の面で圧倒的に少ないのが残念。しかしこのコンパクトさ(文庫本で200ページ弱)で姓名の不思議さを満喫できるというのは、著者の優れた構成力の賜物だと思う。

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2019年11月10日

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