あらすじ
朽ちかけた貸部屋に我物顔に出入りする猫、鼠、虫たち。いつしか青年は、凄まじい〈部屋〉を自分と同じ細胞をもつ存在と感じ熱愛し始める――没後10年目に発見された色川武大名義の幻の処女作「小さな部屋」、名曲「アイル・クライ・トゥモロウ」そのままの流転の人生を辿る女を陰影深く描く「明日泣く」など12篇。戦後の巷を常に無頼として生きながら、文学への志を性根にすえて書いた色川武大の原質とその変貌を示す精選集。
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Posted by ブクログ
2016.9.10 「小さな部屋」を読む。
「熱中することの不気味さと美しさ」
〜あらすじ〜
鉄格子のついた部屋に越してきた主人公、東郷文七郎。折り目正しい青年であった彼が、その部屋に夜毎訪れる猫と生活を共にし始めることをきっかけに少しずつ人生の歯車を狂わせてゆく。
参加者の読後の感想で主だったものは「気持ちわるい!」という声。猫や鼠、昆虫などで溢れかえる部屋を描写したその生々しさが際立った印象だったようだ。
「部屋」に取り憑かれたように性格を変貌させてゆく主人公の姿を時系列で追うにつれ、果たして憑かれる前後ではどちらが彼の本性であったのか、を議題に会は盛り上がりをみせた。
この変貌は誰にでも起こりうることであったのか、はたまた主人公と部屋との奇跡的な遭遇なくしては発生しない物語だったのか。
会社という現実に不和を感じ、人間の抱える複雑さから自身を脱臼させて逃げ込んだ「部屋」。それはシェルターであったのか、檻であったのか。
そんな議論が進むうちに、本作のテーマは立派に現代社会にも深く通じていることを参加者全員で確認することができた。
読後に決して晴れ晴れとした気分になるわけではないが、それでも生命力を強く感じさせる展開と、ラストシーンの文章の美しさは圧巻である。
参加者の一言
「(大事に)固定してあると信じてるものほど、実は変化していってるんだよね」
Posted by ブクログ
「小さな部屋」や「蛙」を読んで改めて思ったけど正気と狂気の境目を衒いなく描くこができる数少ない作家だと思った。
「小さな部屋」の内に内に篭っていく段階とか人と話すのが面倒くさくなってしまう感覚とかすごく共感できた。
「蛙」はやっぱ「狂人日記」思い出してちょっと泣きそうになった。
色川武大は戦前戦中戦後をものすごく意識して描く人だなと感じました。
Posted by ブクログ
色川武大の小説に欠かせないエピソードが方々にちりばめられた短編集。まだ小粒で、しっかりとは掴みきれてない感じ、ちょっと控えめに差し出されて「これはどうでしょう?」という感じもある。
部屋に入ってくる生きものに愛着をおぼえ同居する「小さな部屋」、父が家に防空壕を掘った「穴」、クラスの机のうえで自分の両手を力士に見立てて勝負をさせる「ひとり博打」、放浪時代を描いた「泥」、夢幻的世界の「鳥」、精神病となり止まぬ幻聴の「蛙」……等々。
僕はやはり、なにものかになろうと思えどなれず、じくじくとその時を待つように機会を先延ばしにして、そうしていくうちに日常が破裂、今まで先延ばしにしたツケを払わされるっていう、この屈託が描かれている「穴」が好きだ。色川の描く父親の防空壕話はどれもツボだ。穴フェチだ。
「ひとり博打」で描かれるひとり相撲、ひとり野球といったひとり遊びの数々は、いつもいつも圧倒される。本当でもウソでも小説であるかぎりどっちでも構わないはずだが、僕はきっと「本当」として読んでいて……そして僕は喉元から込みあげてくるような「意味がわからない」という言葉に直面する。
「甘い記憶」は、なんだろう。これもよくわからない。わかるようで、やっぱりわからない。めずらしく甘い話のようだけれど、ううーん、やっぱり残酷な話なのか。