あらすじ
あの日なら、僕はすべてを捨ててしまうことができた。仕事も家庭も金も、何もかもをあっさりと捨ててしまえた。――ジャズを流す上品なバーを経営し、妻と二人の娘に囲まれ幸せな生活を送っていた僕の前に、十二歳の頃ひそやかに心を通い合わせた同級生の女性が現れた。会うごとに僕は、謎めいた彼女に強く惹かれていってーー。日常に潜む不安と欠落、喪失そして再生を描く、心震える長編小説。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
村上春樹の作品の中で一番好きだったかもしれない。現実に落とし込める話。島本さんはそもそも存在していたのか?川に流したものの正体は?色々と考える余地のある作品だった。
Posted by ブクログ
太陽の南は夢の場所に見えるけど実は変わりない現実の延長。スキルや社会的地位を得た先のメタファー。
太陽の西を目指す農民は行き倒れるので、それは永遠に得ることのできない空想。日常を突発的に捨ててまで得ようとする何か。
Posted by ブクログ
なかなかに酷いことをする主人公だった。終盤、それが彼自身の欠落というパーソナリティであることが自身の口から述べられるのだけれども、周囲の人物からしたら本当にたまったもんじゃない。彼のいう吸引力をお互いに感じているであろう有紀子は彼の過ちとその欠落を踏まえても許すことができたけれどもイズミはそうではなかった。彼女は主人公のことを好きだったかもしれないけれど吸引力は感じていなかったのかもしれない。そしてその後は、傷をいやすような出来事や人物に出会えず、死を内包して生きているのだろう。島本さんですら、ボーリング場の廃墟では死を瞳にのぞかせていた。
死について述べる場面は村上春樹の筆力?を強く感じた。主人公に肉薄した死の恐怖を村上流に描写していた。
今作のテーマは死なのだろうか。どうやらイズミとの再会の後、主人公には変化が訪れた。内面の何かが死んで新たな彼のペルソナが作り上げられようとしているっぽい。有紀子も主人公を許す会話の中で、彼女のうちでなにかが死んで失われてしまったことを伝える。それはおそらく自殺を図ったあの時なのだろう。彼女は無い面だけでなく肉体も死に近づいた。
ラストシーン、海に降る雨のことを考える主人公のもとに、誰かがやってきて手を添える。どうして「誰か」なのだろう。娘たちは起こさなければならない存在として描写されているからここでの誰かは有紀子としか思えない。島本さんは主人公の前から完全に姿を消した。それは間違いのないことだろうに。有紀子との関係を新たに作り上げることを決意した主人公の前に有紀子が姿を見せるのはここが初めてだからだろうか。主人公は有紀子と初めて出会うのであって、まだ有紀子のことを知らないから。と考えたら割と合点がいった。
Posted by ブクログ
読む人の人生経験によって受ける印象の変わる本だと思います。
若い頃は感受性が豊かで、その頃の異性との交流というのは、とても心満たされるものでした。特にモテるというわけでもなかった私は、異性と少し話すだけでも心弾むものでした。
そんな時期に、お互いに信頼感を持って交流できた異性は、大人になってからもかけがえのない存在として強く記憶に残っています。そして、細かなやり取りまでは覚えていないにしても、そうした相手へ抱いていた感情も、やはり大人になってからも覚えているものです。
大人になってからも素敵な異性に出会う機会は増えましたが、やはり若い頃にそうした信頼できる異性に抱いた感情の記憶は残っています。
多くの場合、それは心の片隅においてあってたまに思い出すもので、もはや再現されることのないものですが、それが現実になったときにどうなるのかは想像がつきません。その想像を具現化したのが本書ですが、果たしてここまですべてを投げうつだろうかとは思いました。現実の人生は長く続くので、そんな無責任な行動はできませんから、夢のようなものです。
そうした夢をなぞってみることができるのが、物語のいいところだと思います。