【感想・ネタバレ】回転木馬のデッド・ヒートのレビュー

あらすじ

「それはメリー・ゴーラウンドによく似ている。それは定まった 場所を定まった速度で巡回しているだけのことなのだ。どこにも行かないし、降りることも乗りかえることもできない。誰をも抜かないし、誰にも抜かれない」人生という回転木馬の上で、人は仮想の敵に向けて熾烈なデッド・ヒートをくりひろげる。事実と小説とのあわいを絶妙にすくいとった、村上春樹の8つのスケッチ。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

村上春樹の作品にしては珍しく、人から聞いた話(つまり実話)をもとに著者が少しの脚色を加えて構築した作品。改めて、事実は小説より奇なりと思わされる。著者はこれらを個人的な書き物として机に溜め込んでいたが、これらの話が語られたがっていると感じたため、発表する運びになったのだと説明する。その感覚が伝わる程、何れの話もイキイキとしている。実話がなるべく実話のまま提示されているので、登場人物の個人的な営みが詳細に提示され、そのように感じるのかもしれない。
特に以下に引用している、過ぎ去った人生はひとつの部分を終えたということ、平凡故に仕事や結婚生活は面白い、という箇所はその人物の哲学的な部分を感じさせられる。どこまでも個人的な思考にも関わらず、それが普遍性を帯びるという部分が面白い。そしてこれらの思考は、多かれ少なかれ「回転木馬(メリーゴーランド)」をぐるぐる回るだけの生活をしている自分たちが、それでもほんの僅かな自分特有の部分を磨き込む中で、事後的に構築されるものなのではないかと思う。だからこうしろ、という教訓めいたものをこの本は提示していない。只淡々とある固有の実話を語り、その思考の背景に想像を誘うことで、読者自身の哲学を緩やかに問いかける。少なくとも、自分はそのように感じる。

特に印象に残った箇所は以下
・自己実現が精神の解放に寄与するという考えは迷信であり、好意的に言うとしても神話である。少なくとも文章による自己表現は誰の精神をも解放しない。もしそのような目的のために自己表現を志している方がおられるとしたら、それは止めた方がいい。自己表現は精神を細分化するだけであり、それはどこにも到達しない。もし何かに到達したような気になったとすれば、それは錯覚である。人は書かずにはいられないから書くのだ。書くこと自体には効用もないし、それに付随する救いもない(p.14)
・そのことばを思い出すたびに私はこんな風に思うんです。私の人生は既に多くの部分を失ってしまったけれど、それはひとつの部分を終えたというだけのことであって、まだこれから先何かをそこから得ることができるはずだってね(p.58)
・仕事も結婚生活も家庭も、もしそこに何かの面白みがあるとしたら、それは平凡であることの面白みです(p.104)
・もちろん他人の小説作法について決定的な判断を下せるような立場には僕はいない。しかし彼の小説の抱えた欠点がかなり宿命的な種類の欠点であることくらいは僕にもわかった。要するになおしようがないのだ。小説の中にたった一カ所でもいいから突出して優れた部分があれば、それをポイントにして小説のレベルをひっぱりあげることは(原理的には)可能である。しかし彼の小説にはそれがなかった(p.162〜163)
・僕の望遠レンズの中で、彼女はふたつに分かれるんです。彼女の体と彼女の行為にです。もちろん通常の世界では体が動くことによって行為が生じます。そうですよね?でも拡大された世界ではそうじゃないんです。彼女の体は彼女の体であり、彼女の行為は彼女の行為です。じっと見ていると、彼女の体はただ単にそこにあり、彼女の行為はそのフレームの外側からやってくるような気がしてくるんです。そうすると彼女とはいったい何か、と考えはじめるんです(p.176)

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2026年04月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

すごいサクサク読める。
そして裏切らない。

よく、登場人物の伝聞がストーリーになっている気がするけれど、
ほんとうに、自分もその人の話を一緒に聞いているようで、
その親近感か何かがとても落ち着く、というか、
普段のテンションで、読める、というか、
ちょっと奇妙な、そんなこともあるんだ、みたいな、
いつのまにか不思議な世界に引き込まれている感じ。
本当に正直に伝えるところが、

やっぱファン・ボルムさんの本にもあったように、
登場人物は、現実の人間だと隠しているようなことも読者に分かるように伝えられることが特徴的だ。
なかなか聞けない話、知れない事実、見れない情景、などなど。

そして村上春樹さんのショートストーリーは、
シーン、セッティングが多岐に振れて、
次はどんな人たちと出会えるんだろう、
と思いながら、
なにかと普遍的な、共通するような、
人間の不思議みたいなものがあるような、
そしてそれがたんたんと、
語られることで、
ああ、こういう体験も、あるのか、
こういうひとも、いるのか、
こういう考えも、持ったりするか、
と、
想像を膨らます。

と分かったようなことを書きながら、
おりのようなもの、って何だろう…

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2025年05月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

小説ではなく、聞いたままの話を文章にうつしかえたものの集まり。(作中ではスケッチと表現)。
確かに、何かの示唆だとかテーマ性を持っているだとかいうお話達ではない、だけど面白い。

ただ、下記の文章は刺さりました。
『自己表現が精神の解放に寄与するという考えは迷信であり、好意的に言うとしても神話である。少なくとも文章による自己表現は誰の精神をも解放しない』
『自己表現は精神を細分化するだけであり、それはどこにも到達しない。もし何かに到達したような気分になったとすれば、それは錯覚である。人は書かずにいられないから書くのだ。』

お気に入りは、
ある女性の母が、ドイツで半ズボン(レーダーホーゼン)を買う際に離婚を決意するに至った『レーダーホーゼン』
画廊の女性オーナーが、かつて一番衝撃を受けた絵について話す『タクシーに乗った男』

『今は亡き王女のための』も淡いエッチな感じと喪失感が程よい。

ラストの『ハンティング•ナイフ』が一番わからなかった…

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2024年06月12日

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