あらすじ
うる波は、事故死した夫「鹿野くん」の幽霊と一緒に暮らしている。彼の存在は秘密にしていたが、大学の後輩で恋人どうしの佐々と千花に知られてしまう。うる波が事実を打ち明けて程なく佐々は不審な死を遂げる。遺された千花が秘匿するある事情とは? 機械の親友を持つ少年、小さな子どもを一途に愛する青年など、密やかな愛情がこぼれ落ちる瞬間をとらえた四編の救済の物語。
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Posted by ブクログ
「汝、星のごとく」を読んで、登場人物の感情がふわっと香ってくるような表現が好きになり本作を読みました。
「神様のビオトープ」では、妻「うる波」さんにしか見えない幽霊、夫「鹿野くん」と共に暮らす中で身の回りでおこった答えのない四つの歪な愛に関する出来事について、夫婦二人がそれぞれの心境を伝えたり、伝えなかったりする作品です。自身も「鹿野くん」に対して、歪な愛をもつうる波さんが、常識と道徳と愛の共感で自身の行動を選択するところが見どころだと思いました。
私の心が最も動かされたシーンは、春君、秋君についてうる波さんが語る場面です。私も鹿野くんと同じように、固定概念による偏見があったことを認めさせられたときに、私は物語の理解者から彼らを「歪」とする世間一般人であると突き付けられました。正しさの床が抜けた衝撃を感じました。
また、鹿野くんは彼らしい言動を行っていますが、彼は幽霊ではなくうる波さんの幻覚である可能性があります。その場合、それは彼女の理想とする鹿野くんでしょう。そして彼女が理想の鹿野くんを作り出しているということも、おそらく彼女はわかっているうえで選択しているだろうと私は思いました。これからの人生を生きていく強さと救いを求めて。
題名「神様のビオトープ」の「ビオトープ」は様々な生物が生息する場所、損なわれた自然を回復させることを意味します。確かに、様々な愛の形をもつ人が生きる世界は、神様から見れば生態系の一つに見えますね。動植物のビオトープでは、食物連鎖に従って生物の命が循環し、それぞれの死がそれぞれの生をつないでいます。これと同様に、人間の「ビオトープ」内で起こる不幸や嫌なことは生きていくうえでどうしても避けられない、必要なことなのかもしれません。うる波さんの鹿野くんを亡くしてしまった痛みを癒すためにも。
歪な愛それ自体は、どれも法律には触れていないため、罪であるとは言えません。誰かを純粋に愛することを裁くことはできず、そうあるべきだと私も思います。しかし、その愛は時に当人たちだけでなく、周囲の人間を巻き込んで不幸を生んでしまうことがあります。そのようなことが少しでも減るように、私たちは理解しがたいものを簡単に拒絶するのではなく、共感はしなくともすこし寄り添うことが大切なのではないかと思いました。
―秘密のない人なんて、いるわけないでしょう。
普通な幸せとは何なのか、そもそも普通とは存在せず大衆が勝手に作り出したものなのだろうかと思わせられた作品でした。
Posted by ブクログ
うる波と幽霊になった鹿野くん。彼らの周囲の人物のひそやかな愛の話。
佐々くんと千花の、アナフィラキシーショックでの死。機械の親友を持つ少年、小さな子供を愛する青年。美大志望の少年と学校一の美女の関係。少し外れている愛の形を描いた作品だった。
佐々くんと千花の話は、甲斐甲斐しく世話を焼く千花が、佐々くんの想いを勘違いしてしまったことによる悲劇だった。佐々くんが何を思っていたかはわからない。よくあるとも言い難いが、その愛憎は今回の作品の中ではわかる方の話だった。
機械の親友を持つ少年の話と、植物性ロミオ(金沢くん)の話はそういう形の愛を取りこぼさずに拾うのか……と感じた。小児性愛への世間の目はとても厳しい。ロボットとの親愛も中々理解されるものではない。幽霊との関係を続けようとしているうる波が彼ら彼女らを受け入れている、受け入れようとしているのがよかった。
安曇くんと立花さんの話はシンプルな恋愛という感じだった。いとこというだけで世間的な障害はない。
おまけの西島さん夫婦が兄妹という話も、凪良ゆうらしいなと思った。凪良ゆうはそういう世間的にはみ出している愛に目を向けている小説家なのだなと感じた。