あらすじ
人間がいるからこそ麻薬は生まれ、毒へも薬へも姿を変える。麻薬と人類との有史以前より続く深く悩ましく関係を、古今東西の秘話・逸話をまじえて紹介。禁断の博物学へご招待!
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Posted by ブクログ
漠然と「麻薬」=「危険」という等式が成り立っていたが、どのような種類があるのか、そして、どのような扱うと薬になり、毒にもなりうるのかよくわかったのが本書でした。
内容は、序論、ケシと阿片とモルヒネ・ヘロイン、コカとコカイン、麦角とLSD、麻黄と覚せい剤、麻と大麻、メスカリン他の麻薬、合成麻薬・向精神物質・シンナーなど、麻薬と人間の各章でした。
同じ著者の「毒の科学」「毒と薬の科学」を読むと、前者は毒の中の麻薬の立場、後者であれば薬と毒が紙一重であることが、化学式を含めてわかりやすいと思います。
Posted by ブクログ
人類が科学によって生み出し,人類存続の危機に関わる「ヤク」と「カク」。核の方は世上散々議論?されていて少々食傷気味なので,薬について知ってみる。化学構造式なしにすっきり読める良い本です。
アヘン,モルヒネ,コカイン,ヘロイン,LSD,MDMA,覚醒剤,大麻など,「麻薬」と括られる薬物は多いが,法規制などかなり錯綜していて煩雑。著者は麻薬の定義として,「強い向精神活性を有するがゆえに重篤な社会問題を引き起こす懸念のある薬物」を提唱(p.24)。本来麻薬は「麻酔性のある薬物」を必要条件とするが,LSD,MDMA,覚醒剤,大麻などは麻酔性がないそう。日本では,麻薬及び向精神薬取締法,大麻取締法,あへん法,覚せい剤取締法の四つの法律で規制が行なわれ,それらの境界は曖昧な面がある。歴史的経緯も大きく影響している。
あへん(ケシ)や大麻など,初期に発見された麻薬は,生物が作りだした物質。なぜ人間の脳に作用する化合物を生物が作り出すのか,それはまさに偶然としか言えないそうだ。生物が生き抜く上で進化し,多様性を獲得することで,一部の植物が人にとっての麻薬を作りだすようになった。
ケシという植物からはアヘンがとれる。それを精製して有効物質として取り出したものがモルヒネ,さらにそれをアセチル化するとヘロインが得られる。モルヒネは医療用に多用されていて,インドがそれ用のケシの大産地。だが違法栽培も広く行なわれ,闇で出回っている。モルヒネは全化学合成も可能だが,ケシから作る方が簡単。ヘロインは,鎮痛作用がより強いが,依存性が非常に高いため医療には用いられていない。アセチル化などの化学修飾は,構造解析等のために行なわれる有機合成化学の常道で,より危険な薬物が得られることも多い。まさにパンドラの函…。
コカインは,南米に野生するコカノキの葉から単離されるアルカロイド。コカコーラにも昔は入っていたらしい。モルヒネやヘロインはダウナー系の薬物だが,コカインは覚醒剤と同様のアッパー系。精神的依存性は高く,耐性(摂取量がどんどん増える)もあるので危険。
LSDは高等植物由来ではなく,微生物の麦角由来のアルカロイドに,化学操作を加えて得る(半化学合成)。その本質は幻覚剤で,麻酔作用はない。大麻やシンナー,メスカリン,サイロシビン,ジメチルトリプタミンも幻覚剤。
最初に世に出た覚醒剤はメタンフェタミン。これは漢薬「麻黄」の主成分エフェドリンから19世紀末に作りだされた。麻黄の化学成分研究は日本で行なわれたため,覚醒剤は日本生れの薬物。メタンフェタミンはヒロポンとして軍用に用いられ,戦後の物資放出で大量に出回って社会問題化した。もう一つの覚醒剤アンフェタミンは,メタンフェタミンの化学構造を参考に化学合成された物質。これらが規制されると,その一部の化学構造を変化させ,別物に見える化合物が作られる。デザイナーズドラッグ。MDMAやMDA,MDEAである。MDMAは押尾裁判で話題になった。
大麻は一般の植物のアサである。アサにはTHCという成分が入っていて,これが精神作用をもたらすので栽培は規制されている。日本では古くから繊維や種子が活用されていたのだが,独自にTHCの作用を利用する用途には用いられなかった。日本のアサのTHC含量が少ないこともあったが,アサは一属一種であり,THC含量の多いインド麻と別種というわけではない。アサの雌花の樹脂からは,THCの多いハシュシュ(暗殺[アサシン]の語源)が得られ,葉からはマリファナが得られる。マリファナの使用はパーティーとして行なわれる傾向があるのは他の麻薬と異なる。
酒や煙草など,人類は長い歴史の中で,食物や医薬品のほかに,嗜好品として楽しむものも求めてきた。ところが,大麻やアヘンなど,作用が凄まじいものまで見つけてしまい,自制を求められるようになった。医療に有効に使えるものも多く,原子力と同様,上手に扱っていかなくてはいけない。
Posted by ブクログ
薬理学者による、「麻薬」についての来歴や化学的特徴について書かれた本。凄まじくアカデミックな香りのする構成で、化学式こそ出てこないが、化学用語(単離とか)は説明なしに出てくる。ドラックカルチャーについて書かれた本は数多あれど、麻薬そのものについて、薬学的観点から、その作用(当然、悪い作用が多いけれど)が語られた本というのは一般書ではあまり見たことが無く、意外に貴重な存在かもしれない。麻薬に対する理解という意味では、このような科学的アプローチはとても有用だし、麻薬やっても良いことは何も無いなってことがよくわかる。若干の説明不足を除けば、いい本でした。
Posted by ブクログ
今まで漠然と捉えていた麻薬という言葉を明快にしてくれた本。
ここを見てる人は文系の人が多いと思うけど、
是非こういった本も読んで、教養をつけれたら良いと思う。
Posted by ブクログ
麻薬の全てというよりは、神経に作用するものを羅列したような印象も受ける。薬理や毒性の本でもいいのではと思うが、学校薬剤師や薬学部生による麻薬に関する教育というアイデアは面白いと思われた。
Posted by ブクログ
アヘン、モルヒネ、ヘロイン、コカイン、大麻、覚せい剤、LSD、シンナーなどの薬物の体系的な知識がほどよくまとめられてる。恥ずかしながらすべてひっくるめて「クスリ」としか捉えてなかっただけに、見識が大きく変わった。