あらすじ
「電灯のスイッチを切って扉を後ろ手に閉めるまでの長い時間、僕は後ろを振り向かなかった。一度も振り向かなかった」東京で友人と小さな翻訳事務所を経営する〈僕〉と、大学をやめ故郷の街で長い時間を過ごす〈鼠〉。二人は痛みを抱えながらも、それぞれの儀式で青春に別れを告げる。『風の歌を聴け』から3年後、ひとつの季節の終焉と始まりの予感。「初期三部作」第二作。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
僕と鼠の、各々が持つ繰り返しの日常に対する感情が事細かに言語化されていて、何度も大きなため息をついてしまった。
村上春樹さんの本に登場する人物たちは皆物分かりが良く読んでいて気持ちがいい。
終盤に鼠が言っていた「なあ、ジェイ、だめだよ。みんながそんな風に問わず語らずに理解し合ったって何処にもいけやしないんだ。こんなこと言いたくないんだがね....、俺はどうも余りに長くそういった世界に留まりすぎたような気がするんだ。」というセリフには衝撃を受けた。僕は彼らのそう言った部分に良さを見出していたし、実際自分もそうやって生きていけたら楽なのかもしれないと思っていたからだ。
いつも物事に悩んだりした際には、彼らならどうするかと考えて行動するようにしている。
Posted by ブクログ
「僕」と「鼠」の話が交互に描かれるが、本作は鼠が逡巡し故郷をあとにする流れが深く残った。僕も含めて街から人がいなくなり、かつ彼自身は金持ちの家にうまれていることから生活上の切迫感もない中で、何かに突き動かされるように鼠は街を出ていく(結局、ジェイにはっきりと別れを告げることもなく)。
捉えどころのない焦り、無力感、不安等…二十代なりに抱える何かが描写されている
特に印象に残った箇所は以下
・多かれ少なかれ、誰もが自分のシステムに従って生き始めていた。それが僕のと違いすぎると腹が立つし、似すぎていると悲しくなる。それだけのことだ(p.63)
・卒論の指導教授がうまいことを言う。文章はいい、論旨も明確だ、だがテーマがない、と(p.87)
・さあ考えろ、と鼠は自らに言いきかせる、逃げてないで考えろよ、二十五歳……、少しは考えてもいい歳だ。十二歳の男の子が二人寄った歳だぜ、お前にそれだけの値打があるかい?ないね、一人分だってない。ピックルスの空瓶につめこまれた蟻の巣ほどの値打もない。……よせよ、下らないメタフォルはもう沢山だ。何の役にも立たない。考えろ、お前は何処かで間違ったんだ。思い出せよ。……わかるもんか(p.117)
・テネシー・ウィリアムズがこう書いている。過去と現在についてはこのとおり。未来については「おそらく」である、と。しかし僕たちが歩んできた暗闇を振り返る時、そこにあるものもやはり不確かな「おそらく」でしかないように思える。僕たちがはっきりと知覚し得るものは現在という瞬間に過ぎぬわけだが、それとても僕たちの体をただすり抜けていくだけのことだ(p.181)
Posted by ブクログ
哀愁漂う作品。ピンボールと再会するシーンはなんといも言えない、長すぎず簡潔にそして冷たい表現は素晴らしい。この作品はrubber soulと相性が抜群だ。