あらすじ
私は最近、やっとこの人間世界に存在する数ある法則の中のひとつに気づいた。「出会い」とは、決して偶然ではないのだ。でなければどうして、「出会い」が、ひとりの人間の転機と成り得よう(本文より)。――清澄な抒情を湛える数々の宮本作品。その文学世界の秘密を描き出した、自伝的エッセイ集。
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Posted by ブクログ
宮本輝が28歳で会社勤めをやめ、「泥の河」で太宰治賞、「蛍川」で芥川賞を受賞するまでのサクセス・ストーリーが大変興味深かったです。神経症気味の青年が小説家を目指して会社を退職したということに周りの人々が驚いたことも肯けますが、かなり特異な例なのでしょうね。宮本を支えた資産家、淀競馬場に親子で凧揚げに行っていた際に出会った縁で祝電を打ってきてくれた会社時代の同僚、同じく祝電を打ってきた荒正人への欠礼の話が印象に残ります。宮本が桃山学院大卒業でながら素晴らしい文章を書いていることのギャップが不思議だったのですが、酒と小説にあけくれた若い日の自伝的文章を読むと謎が解けたように思いました。やはり破天荒な生活をしていた父の思い出も面白いですが、幼年時代に富山に流れた記事を読んで蛍川の背景も頷けたように思います。