【感想・ネタバレ】アンダーグラウンドのレビュー

あらすじ

「それらを通過する前とあととでは、日本人の意識のあり方が大きく違ってしまった」1995年に起きた阪神淡路大震災、そして地下鉄サリン事件。日本の戦後史の転換期を狙い澄ましたかのようなこの二つの悲劇は、地下--「アンダーグラウンド」から突如噴き出した、圧倒的な暴力の裏と表だった。魂の最奥部を見つめ続けてきた作家が、62人の関係者への丹念なインタビューを通じて浮かび上がらせる現代日本の、そして人間の底深い闇。強い祈りをこめた、渾身の書き下ろしノンフィクション。

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まだ50%しか読んでいませんが、信州大学病院長へのインタビューは是非一読頂きたいと思います。

地下鉄以前の松本事件での医療経験を、ご自身の判断で直接東京の医療現場へFAXで情報提供を指示したことが人命救助に繋がった事実。

偶然にも事件当日は、大学の卒業式のため予定を空けていた、松本事件の医療論文出版日で資料が手元にあった必然。

また、通常なら然るべき機関を通して情報提供する所を直接情報提供する判断に至ったのは、その卒業式に卒業証書を授与される女生徒が松本事件で亡くなっており心するところがあったとのこと。

最後の一文、涙が零れました・・・。



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2018年04月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

地下鉄サリン事件において、大小さまざまなサリン被害を受けた62人もの人々へのインタビュー記録。
村上春樹はどうもノルウェイの森のイメージで(ほかに何冊か読んだ気もするんだけど)「元祖やれやれ系」というか、なぜか女にモテるし、なぜか女を抱いてるし、なんかすぐ勃起してるし、みたいなイメージがあったんだけど、このルポ本ではとても真摯にインタビューしている様子が垣間見えて、純粋にすごいなと思った。被害者を傷つけないように……と意識しながらも、結局は自分は「安全地帯」から来た人間で、そのことによって不用意に傷つけてしまったかもしれない、と思った。的なことをあとがきに書いており、そうだよね~~……と思った。しかしその後続けて書いていた通り、「だから触れない」では、後世に何も残らないし、そこで話が終わってしまう。地下鉄サリン事件のリアルな側面を知る上でとても重要な本になっているのではないかと思った。当時の報道を知らないので、実際の報道がどれだけ脚色されていたのか、偏向的な報道がなされていたのか、というのは自分はわからないけれども。
 
以下、思ったこと。
・1995年は自分にとっては割と「結構な昔」という印象なんだけど、女性活躍的な意味では結構進んでいるのか……?と思った。一般職/総合職てきな分けはあったと思うし、子どもができれば専業主婦になった人は多かったんだろうけど、思ったよりバリバリ働いている女性が多い印象。「今の女性は強いので痴漢されても『やめてください』と言います」みたいなところで、景気が良かった時代を経た後特有の力強さみたいなものをなんとなく感じた。まあ今もそういう人はいると思うんだけど。自分のあの時代の女性のイメージ像はもう少し大人しい感じだったのかもしれない。
・1時間半とか2時間とか掛けて通勤している人の多いことよ!東京大変すぎる。「僕の稼ぎでは遠い家しか買えなかったのです」的なコメントが多かった。それでもなんとかマイホームを持たねばならんのか。大変だ。昔は分譲マンションより一軒家、って感じだったのかも。そもそもマンションないのかな?
・なんていうかなー。登場人物全体から、「大人としての社会的責任」みたいなものを感じた。子どもがいて家庭のある人が多いからなのかなあ。独身でも、年齢を重ねれば自然に備わっていくものなのかなあ。わからないけど、自分の損得や立場や安全を差し引いても他者を救わねば!という気持ち、これを持てる人は大人だな……と思った。駅員さんは職業上そういう行動をせねばならないことはよくわかるけど、自分が駅員さんだったら同じだけ勇敢な行動ができるだろうか。そして、割を食うのはいつも下っ端で、上の人はちっとも身を傷めない、というの、本当にそうだよね。どうしたら変わるんだろうね、こういう体制って。結局、守るべき者を持たない人(=責任を持てない人)は真に大人にはなれないのではないかという、絶望的な気持ちが心の中で首をもたげている。
・逆に、立派な人ばかりで、「おれはまあどうでもいいっすね」的なプータローが一人もいない印象だったのが……ちょっと作為的なものを感じたようなきもするけど、ある意味こういうところでインタビューを引き受けるというのも「社会的責任」的な視点によるものと言えるのかもしれない。
・妊娠中に旦那さんを亡くした女の人、本当にかわいそうだったなあ。怖いニョ。それはさておき、自分は「私この人と結婚するかも」的なことを感じたことがない。
・「まあ周りが暗いけどとりあえず会社行くか……」「牛乳買うか……」って、正常性バイアス的なこと?と思って読んでたけど、「それはさておき頑張りすぎじゃない!?」みたいな事例もあり、すごかった。とはいえやはり24時間戦えますか的なことではなく、「会社に行く」という普段通りの行動を通して落ち着きたい、平常に戻りたい的な気持ちが働いたんじゃないのかなと思った。まあでもフラフラで歩いていて2次被害(倒れて頭を打った、車に轢かれたとか)がなくてよかった。単にそういう人はここに来れていないだけかもしれないけど……
 
とにかく、物凄く内容の濃い本だった。あとサリンにめちゃくちゃ詳しくなった感じがする。700p超の本を読むのは初めてだったけど、割とするする読めた。ルポ好きな人にぜひおすすめしたい。

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2025年06月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

いやあ、長かった。実に長い。

一部例外がありますが、ほぼ上下二段組みで合計777ページ。

あの村上春樹氏が、オウムの地下鉄サリン事件の被害者からのインタビューをまとめたもの。

・・・
だからジャンルで言えば、ノンフィクション? かと思うじゃないですか。

ただ、そこはかとなく村上氏のエッセンスがブレンドするのです。だから、やっぱりこれは村上文学なんだろうな、と感じます。

・・・
繰り返しになりますが、内容といえば、62人の被害関係者へのインタビューがただただ掲載されているものです。

上で村上氏のエッセンス云々いっていますが、各インタビューの前に見開きでその方の略歴、村上氏の抱いた印象がデッサンのごとく粗く表現されています。

ごく短い、本当にざっくりとした印象であろうかとは思いますが、この1-2ページが各インタビューの冒頭で待ち構えることで、やはりそれ以降のインタビューの印象は村上氏のそれに引きずられると思います。

まあ別にこれは悪いことでもなんでもなく、そういう作品、ということだと思います。村上氏の直観的描写も、取り立てて悪意を持って書かかれているようにも見えませんし、むしろ暖かいと感じました。

・・・
そして、いつ間にか、読中の印象は『ナショナルストーリープロジェクト』のような、日常に潜む不思議な体験を綴るかのような風合いを感じるようになりました。私はね。

故に、いろんな人がいて、事件に遭った。大変な方もいますが、多くのかたは従容として受け入れているように読めました。実に皆さん悟るかのように生きているなあ、という印象すら持ちました。もちろん、怒り狂っているような方も当然いらっしゃるのですが、ただ大半は事実をフラットに受け止めているように見えました。

もちろん、インタビュイーはほんの氷山の一角。
こんな話はしたくないし、聞きたくもないという被害者も居ると思います。そういう方にとっては、作中の大半の方のような従容とした態度が、あるいはその表現が、なにやら不謹慎だと思うかたもいらっしゃるかもしれない、と少し心配になりました。

批判を避けるためというわけでもないのですが、やはりこれは村上氏の文学のひとつ、直球のノンフィクションとは違う、と捉えたほうが良いと思いました。

・・・
ということで、村上氏の『アンダーグラウンド』でした。

これも実に約30年前の作品となります。当時の狂騒を思い出します。あれから日本は良い方向に変わったのかなあ。

かつて「事件を総括するべき」「何だったかを振り返るべき」などと叫ばれた気もしますが、あれから考えることもなく、振り返ることもなく、事件は時の波にのまれつつ風化しただけに感じます。

またぞろ同じような事件が起きないといいな、と祈るばかりであります。

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2025年12月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

村上氏の作品の中では珍しいノンフィクション。
地下鉄サリン事件の被害者のインタビューの模様がひちすら描かれている。

ものすごく長くて読むのに時間がかかった。
同じ出来事なのに、体験した人によって印象が大きく違うのが興味深い。

終盤で村上氏が語る、現場では優秀な人が尽力してパフォーマンスをあげているにも関わらず、上からの全体的なマネジメントがダメダメで、結果的にあまり上手くいってないという状況は、サリン事件、ノモンハン事件、そしてこのコロナ禍にも共通する所があると思う。

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2021年10月09日

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