アンダーグラウンド

アンダーグラウンド

小説・文芸
1,430円 (税込)

7pt

「それらを通過する前とあととでは、日本人の意識のあり方が大きく違ってしまった」1995年に起きた阪神淡路大震災、そして地下鉄サリン事件。日本の戦後史の転換期を狙い澄ましたかのようなこの二つの悲劇は、地下--「アンダーグラウンド」から突如噴き出した、圧倒的な暴力の裏と表だった。魂の最奥部を見つめ続けてきた作家が、62人の関係者への丹念なインタビューを通じて浮かび上がらせる現代日本の、そして人間の底深い闇。強い祈りをこめた、渾身の書き下ろしノンフィクション。

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アンダーグラウンド のユーザーレビュー

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

    地下鉄サリン事件で被害に遭った3800人の中から村上春樹氏が62名の方にインタビューを行い、1年かけてまとめた本です。筆者は「一九九五年三月二〇日の朝に、東京の地下でほんとうに何がおこったのか?」(687P)を知るためにこの本を書いたということでした。

    私が特に感銘を受けたのは、被害に遭った明石志津子さんが入院している病院で筆者がインタビューを行った場面です。
    お兄さんが付き添ってくれていたのですが「重度の障害に悩む妹の姿を赤の他人に見せるのが、肉親としてどれほど切ないことか、僭越ながらおおよその想像はつく。(略)私はこの文章を書くことに、一人の作家として大きな責任を感じている。(略)私は誰かを傷つけたりすることなくこの取材を行うことができるのだろうか?」(203P)という筆者の苦悩もありました。

    インタビューが終わり、筆者は志津子さんの手をもう一度握らせてもらう様子が描かれています。

    『「最後にもう一回握手をしていいですか?」と彼女に尋ねた。「いい」と彼女はきっぱりと言った。車椅子のとなりに立って手を差し出すと、彼女は前よりももっと強く、私の手を握ってくれた。前よりももっとしっかり何かを伝えようとするかのように、長いあいだ彼女は私の手を握っていた。そんなに強く誰かに手を握られたのはほんとうに久しぶりのことだった。その感触は、病院からの帰り道にも、家に帰りついてからも、私の手にずっと長く残っていた。まるで冬の午後の、日溜まりの温かみの記憶みたいに。実をいえばそれは今でもまだかすかに残っている。あるいはこれからも残り続けるかもしれない。今こうして机に向かって文章を書きながら、その温もりによってずいぶん助けられているように感じる。」(217P)

    という部分です。私は握手についてここまで深く書かれた文章というのは見たことがありませんでした。

    なお、志津子さんはサリンによって「食事を口からとることはまだできない。水も飲めない。舌と顎がまだうまく動かせない」(207P)という状態です。
    現在「彼女の脳の機能の一部が損なわれている」「それが将来回復可能なのかどうかはまだわからない」(206P)ともあります。志津子さんはディズニーランドに行くことを楽しみしているようです。(215P)私は一刻も早く回復して志津子さんに日常が戻って来て欲しいと思っています。

    「一九九五年三月二〇日、月曜日。気持ちよく晴れ上がった初春の朝だ。まだ風は冷たく、道を行く人々はみんなコートを着ている。昨日は日曜日、明日は春分の日でおやすみ―つまり連休の谷間だ。あるいはあなたは「できたら今日くらいは休みたかったな」と考えているかもしれない。でも残念ながらいろんな事情で、あなたは休みをとることはできなかった」(29P)という部分に、深く共感します。

    休みの前後にある一日というのは、休みたいという方が多いのではないかと思っています。たまたまその日にその電車に乗り合わせたために被害に遭った方もいます。すべて巡り合わせがあったということになるのでしょうか。この本は、被害に遭った方の心境、そして前に向いて進んでいこうということの大切さが分かる本です。

    素晴らしい本を書かれた筆者と出版社の方に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

    0
    2026年09月27日

    Posted by ブクログ

    著者が地下鉄サリン事件で被害にあった方々に、事件当時の様子を聞いてまとめたものが本書である。軽傷で済んだ人もいれば、偶然、当日に電車を利用することとなり、その結果、植物人間と化して家族が介護するというように、さまざまな人がいた。地下鉄でサリンがばら撒かれるという、治安がいい日本では、にわかには信じられないことが起きた。その為、医師を含めて大半の人はなにが原因で、電車内で大量に倒れて、なかには死に至る現象が発生したのか理解できなかった。そのこともあって、当時の日本では職場や家族から理解を得られない被害者もいた。このように、日本で前代未聞の出来事に出くわしたときの、人々の言動が本書を通して浮き彫りになる。

    0
    2026年02月21日

    Posted by ブクログ

    地下鉄サリン事件の被害者へインタビューをしてまとめられた作品。

    村上春樹さんの文体で読みやすい内容ですが、
    今までの報道では被害者を数字でしか知り得ませんでしたが、1人1人の人生苦悩があることを改めて実感し、改めて事件の悲惨さを感じることができました。
    また、多くの人の人生を覗き見ることができたようで、たくさんの気付きや発見もありました。

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    2025年10月09日

    Posted by ブクログ

    今からちょうど30年前の1995年は、1月に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件と、連続して日本を震撼させる出来事があった年として銘記される。戦後50年の節目の年でもあり、バブル崩壊後の平成不況が続くさなか、全日本国民にとって「終わりの始まり」の年となったと言ってよい。1995年以後の30年は、それ以前の30年とは明らかに違う。「以前」が上り坂だとしたら、「以後」はずっと下り坂だ。

    当時25歳だった自分はどう感じていたか。もちろん事件には驚愕し、テレビの報道映像に釘付けになったが、その時点では、今が「現代史の分岐点」とまでなるとは思っていなかった。自分にとっては4月から新たな就職先での仕事がはじまることと、3月に彼女にフラれたことの方が大きな事件であった。個人史的にも、1995年は特筆すべき年である。

    『アンダーグラウンド』は数ある村上春樹作品の中でも異色のものである。インタビューによるノンフィクションという形式も、アメリカではよくあるようだが、日本では珍しいのではないか。

    作者は「はじめに」で、700ページを超える大部のこの著書をものした動機について、次のように語っている。

    「取材において筆者がまず最初に質問したのは、各インタビュイーの個人的な背景だった。どこで生まれ、どのように育ち、何が趣味で、どのような仕事につき、どのような家族とともに暮らしているのか――そういったことだ。(中略)そのような姿勢で取材したのは、「加害者=オウム関係者」の一人ひとりのプロフィールがマスコミの取材などによって細部まで明確にされ、一種魅惑的な情報や物語として世間にあまねく伝播されたのに対して、もう一方の「被害者=一般市民」のプロフィールの扱いが、まるでとってつけたみたいだったからである。」(pp.27~28)

    『アンダーグラウンド』の主役は「巻き込まれた一般の人たち」であり、それは私やあなたである。「オウム」という特別な人たちではない。ここがポイントだ。今から30年前、月曜日の朝の通勤時間にいつも通り地下鉄に乗っていた、父親や母親、息子や娘であった普通の人々だ。

    インタビューを受けた人たちの口から、「ああ、確かにあの頃はそんな風に考えてた」「そんな風に感じていた」と思わせる言葉がたくさん出てくる。まさに時代のドキュメンタリーである。

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    2025年05月03日

    Posted by ブクログ

    地下鉄サリン事件に関するドキュメンタリードラマを観て、自分が30年前にニュースで見聞きした印象とずいぶん違っているような気がして、この本を手に取った。

    実際にサリンを吸ってしまい被害に遭われた方たちのインタビューである。いろんな方がいて、いろんな人生があり、この日もいつもの日常の延長が始まるはずだったのに、たまたまあの時間に、日比谷線・丸の内線・千代田線のいずれかに乗ってしまったために、サリンの被害に遭ってしまった。亡くなられた方や重い後遺症を負ってしまった人たちもいる。

    私はあの事件をニュースで見た時に「怖いな」「なぜあんな見るからに怪しい宗教にはまる人がいるんだろう」とは思ったが、被害そのものに対する解像度は低く、そのまま30年が過ぎてしまった。この本を読み、個々の人生の日常が大なり小なり破壊されてしまったことが、とてもリアルに伝わってきて、やっとこの事件の凄惨さを実感できたような気がする。

    今またオウムの後継団体に入信する若者が増えているという。あの事件がどんどんと遠い過去となり、風化していく前に、特に若い人たちはこの本を読んでほしいと思う。

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    2025年03月30日

    Posted by ブクログ

    あれから30年。被災に遭っていたので地下鉄サリン事件のことは、ほとんど知らなかった。当日、被害にあわれた方々の生の証言は、30年たった今もまざまざと色々な感情が感じ取れる。真面目だけど生きづらい人を取り込む宗教の上層部や自分の保身にあたる組織の上層部には怒りしかわかない。30年たって、果たしてこの事件の教訓が生かされているだろうか?この本を作った著者、製作者、証言者には頭が下がります。

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    2025年02月03日

    Posted by ブクログ

    テレビに出ていたサリン事件。まだ私が生まれてない時だったので、そこまで詳しく知りませんでした。

    この本を読んでたくさんの被害者の証言で感じた事は、サリンの副作用の恐ろしさに大変恐怖を感じました。2度とこのような悲惨な事件を起きない事を願うばかりです。

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    2025年02月02日

    Posted by ブクログ

    地下鉄サリン事件当日何があったのか、村上春樹による綿密な調査とインタビューによってリアリティをもって知ることができた。

    事件の被害者の方のバックグラウンドが書かれており、事件の前後で何が変わりどのような影響をもたらしたのか興味深く読むことができた。
    被害者の方々にはそれぞれの人生がありストーリーがある。
    ドキュメンタリーを超えた人生ドラマが私を強く惹きつけた。

    また、被害者方の何人かは偶然事件に巻き込まれていたり、あるいはいつもと違う行動を当日とっていたことにより被害が軽症であったりした。また、不思議な体験をされている方もおり、そういうこともあるのだなと感慨深く感じた。

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    2024年12月14日

    Posted by ブクログ

    わかりやすい構図、伝えたいこと、そんなレールに沿って語られる物語より、アトランダムに取り上げられた物語から出来上がった総体から、やんわりと感じられる何か、そんなものが私を惹きつける。
    ジャーナリズムだって、その例外ではない。というか、ジャーナリズムこそ、そうあるべきなのかもしれない。

    こんなに熱がこもっているのは珍しいくらいに、熱いものを感じるあとがきの「目じるしのない悪夢」は、今回のテーマを超えて、普遍的なメッセージとして心に響いた。

    「…あなたが今持っている物語は、本当にあなたの物話なのだろうか? あなたの見ている夢は本当にあなたの夢なのだろうか? それはいつかとんでもない悪夢に転換していくかもしれない誰か別の人間の夢ではないのか?」

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    2024年11月20日

    Posted by ブクログ

    【2024年141冊目】
    1995年3月20日、東京の地下鉄で起きた無差別テロ、地下鉄サリン事件。作家村上春樹がその被害者や関係者総勢62名に対してインタビューを行った生きた記録である。あの日、東京の"アンダーグラウンド"で、一体何が起こったのか。迫真の一冊。

    きっと★いくつとかで評価をつけるべきではないのだろうと思いつつ、少しでも高評価であることで、手に取る人が増えると良いなと思って★5にしました。

    文庫本にして777頁、しかも多くの頁は2段組という恐ろしい文量の一作です。読み進めるのにかなり時間がかかりました。一気読みはとてもできなかった。

    本著が書かれた時よりも被害者数には変化があり、死者は14名、負傷者は6,000名を超えるとされています。正に未曾有の事件です。

    本作において、被害者ひとりひとりの証言はまずそのバックグラウンドから語られ始めます。どのように人生を生きてきたのか、そしてサリン事件の前後でどのように変化があったのか。

    あまりにも生々しい証言の数々。そこから読み取れるのは、オウム真理教への怒りと困惑でした。理解ができないことが起こったというのが正しいのかもしれません、判断の範疇外の出来事すぎるのです。

    巻末で村上春樹さんが「意識をして逸らさなければならない存在」というように形容していて、なるほどなと思いました。無視をするには、少しだけこちらの世界に足を踏み入れている、そんな感じだったのかもしれません。

    この本はもっぱら電車移動の時に読んでいましたが、人間の世界は性善説でなんとか均衡が保たれていて(もちろん事件は起こっていますが)こういった大事件は、起こるかもしれないという想像さえつかなかったはず。現に、この本を読むまで、電車という密閉空間の危険性について忘れていたくらいなので(サリン事件の時、まだ小学生でした)

    少しボリュームがありすぎるので、なかなか気軽に読むには決心がいりますが、何百年先まで語り継いでいくべき一冊だと思います。

    0
    2024年07月19日

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