あらすじ
東日本大震災で最大の犠牲者を出した石巻市は行政や医療機関も機能がマヒし、「石巻医療圏」22万人の命は宮城県災害医療コーディネーターである著者に託された。状況不明の避難所300ヵ所、いつまでも減らない大量の急患数……かつてない巨大災害に、空前の大組織「石巻圏合同救護チーム」を指揮して立ち向かい、地域の医療崩壊を救った一外科医の思考と決断のすべて! (ブルーバックス・2012年2月刊)
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Posted by ブクログ
東日本大震災で最も被害が大きかった石巻市だが、医療施設は赤十字病院を除いて壊滅状態となった。石巻赤十字病院自体が災害拠点病院だったということもあり、災害医療の中心として対応を進めた。この著書はその災害医療組織全体を統括したリーダーである。
内容は災害医療なのだが、これは組織に関わる全てのリーダーが読むべき内容に満ちている。活動方針とコンセプトの共有、避難場所のアセスメントによる優先順位付け、エリア分けと地域毎のチーム編成による組織編成、課題と解決への迅速な対応(フィードバック)、行政や民間企業との要請と交渉・・・・。これらが恐るべきスピードで進んでいく。著者は立場上、災害医療コーディネータではあるが、専門は外科医である。それがここまでマネジメントするのは驚異的ですらある。
このマネジメントの難しさはマネジメントをしたことがある人にしか想像できないかもしれない。人数は数百人。しかも別の地域や病院から派遣されたメンバーも多いので、文化も違う(事実、その問題は発生した)それを統制できたのは目的と活動方針、コンセプトを常に共有したことが最も大きいのだろう。まさにマネジメントの本質を突いている。
また、このスピード感を持てたのは、外科手術ではどんなに準備しても想定外な事は発生するので臨機応変に瞬時に対応が必要なので慣れっこだったとある・・・・。そうなのだろう。だがそれだけではなく土台がいるはずである。その土台を創るきっかけはDMAT(急性期に対応する医療派遣チーム)の組織力を岩手宮城の地震の時にみせつけられ、圧倒されたことではないかと思う。ここで著者は組織マネジメントの学習と訓練を重視したのではないかと思う。
文章自体も過度に熱いものではないが、感情的な言葉も点在しており当時の苛立ちを感じる部分もあるが、それを鉄の意志でおさえて判断、もしくは苛立ちを引きずり誤った判断をしたところもあるように思う。だが、その部分を著者はきっちりと書いている。(具体的にはボランティアについてだ。震災発生2週間の時期でボランティアが集まったが、彼らが酒盛りをしているところをみてしまったのだ。当時、石巻では5~7万人の食事が不足している、あったとしてもおにぎり1個という状況だ。ここで著者は「ボランティアが怪我をしても消極的対応をするように」というややクレイジーな指示を内部に行っていた。だが、その後、ボランティアが必死に対応する姿をみて、全てのボランティアがそうではないと認識し、その指示を撤回する経緯を記載している。この部分は著者にとっては隠したい部分でもあるかと思うが、ページを割いて記載しているのだ)
そして驚きなのは、この状況下でデータ収集を非常に重点を置いて行っているという点である。これは対応の優先順位を把握するだけを目的としていない。次の災害に繋げるためのデータを残すという意思があってのことだ。振り返れば「やっておけば良かった」と思えることを「やっている」のである。この状況下で先=将来(次の震災)をみていたのだ。
最後の解説で「誰もが石井正になれるわけではない」と何度も繰り返しているのが、この著者の凄さを如実に表しているのではないだろうか。。
これを読む前に「石巻赤十字病院の100日」を読んでいたので、ある程度の情報を知っていたのだが、この著書はそこでの決断に至る経緯や視点が加わっている。内容も一部重複だが視点が異なっているので、まだよんでいない人はこちらも読んだ方が良いと思う。どちらもまだ読んでいない人
は「石巻赤十字病院の100日」を読んでから、この著書を読むことを強く推奨する
Posted by ブクログ
震災が発生してからその半年後にチームを解散するまで、
石巻圏合同救護チームを率いた石巻の日石の石井先生が
当時を思い出して書かれた本です。
著者は震災1カ月前、宮城県の災害医療コーディネーターに就任。
その直後に発災。石巻の日赤は拠点病院としては唯一石巻圏で
被災していない病院だったので、即時臨戦態勢へ。
全国から派遣されてくる3633チーム、1万5000人をとりまとめ、
避難所に派遣し、被災者5万人超の診察にこぎつけました。
時には機能停止している石巻市に代わって医療以外の分野まで
サポートしながら活動を行い、半年後の9月に活動終了。
震災が起きてからのことだけではなく、
いつか来ると言われていた三陸沖の地震に備えて、
それまで日赤や自治体、警察、自衛隊とどう連携を結んだか、
人脈を繋げることによって民間企業とも自主協定を結んでいたことなど、
日ごろの取り組みについても細かく記されています。
実際に現場でどういう問題が起き、どう解決していったのか、
なども細かく書かれているので、全体を見渡す上で大変タメになります。
私のような小さなボランティア団体を率いていた人間でも
同じような経験をしたり、深く共感できたところがあります。
こういう大規模災害の救援に携わる立場の人、
とくにコーディネートの仕事をする人や、企業、役場、NPOの担当者、
医療従事者、ボランティアのリーダーなど、
各立場の取りまとめをする人には、この本は必読の書だと思います。
Posted by ブクログ
東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻。そこで7ヶ月という長期に渡り災害医療コーディネーターとしてリーダーシップを執った、石巻赤十字病院の石井医師の記録。
本著は被災者支援について医療の側面から記したものだが、そこに書かれている事はすべて、どんな場面にでも必要かつ大切な要素だと思う。
以下、その要素を抜粋。
• 第一線に立つ実務担当者どうしが、お互いに顔がわかり、密接に連携できる関係でなければ、災害発生時に何の意味もなさない。
• 訓練とは、そのきわめてリアルなマニュアルをもとに、担当部署や職員が本当に機能するのかを実際に検証、確認するのが目的である。でなければ、いくら訓練を重ねても「訓練のための訓練」でしかない。
• 緊急時や非常時に自らの活動を自己限定するほど、ナンセンスなことはない。
• 「こうあるべき」とか、「誰がやるべき」などという「べき」論を唱えることではなく、「どうするか」「どうしたらできるのか」と一人ひとりが知恵を絞り、みなで協力して実現可能な解決策を生み出す
• どんなにすぐれたマニュアルでも、いずれは通用しなくなる。そこで不可欠なのが「考えること」
• 考えを実現するには「行動」しなくてはならない。行動とは、客観的情報を集めることと、必要と判断したことは規制概念にとらわれず、なんでもやる、交渉すること。
自分の日々の行動が、なあなあになっていないかもう一度見直そう。
マニュアルのためのマニュアル、報告をするための報告、、、今の仕事に山積する無駄を少しでも減らす努力を始めよう。
Posted by ブクログ
活動コンセプトがしっかりしていないと寄せ集めの集団が同じ方向へ向かっていくことはできない、だから「軸」をぶれさせないことに注意したという言葉が印象的だった。息つく間もなく押し寄せる難題とそれに対する思考と決断にただ圧倒された。自分だったらこの極限状態でどこまでのことができるか改めて振り返った。それから自分の専門分野外のコネクションを平時から構築しておくことなど、まだ災害が起きていないときに出来ることの多彩さにもはっとした。実際にひとたび災害が起きてしまったらマニュアルをめくっている暇なんか無いことの方が多いはず。だからこそ、備えるときに備えられるだけ備えておきたい。