あらすじ
利倉くんと結婚したくて、"女中に行った"桃尻娘こと榊原玲奈。もう一ぺん瓜売小僧こと木川田源一と暮らしたい無花果少年(いちぢくボーイ)こと磯村薫。田中くんも一緒に九十九里の海を見に行った僕達、新宿の雑踏で分かれるとき、僕にだって素敵な未来があるって思えてきた。だから、「またね!!」
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Posted by ブクログ
シリーズ第五弾。
おたがいの心の乖離から別れてしまうことになった磯村薫と木川田源一の二人が再開し、榊原玲奈は田中優の友人である利倉完二の実家に「女中」として働きにいくことを決意し、さらに磯村は田中と共同生活をはじめ、自分を「子ども」として可愛がって育ててきた母親からの独立を果たすための精神的な成長を遂げていきます。
本シリーズの第一巻である『桃尻娘』(講談社文庫)は、女子高校生である榊原玲奈のことばと思考をトレースした文章でつづられ小説として、その新しさが刊行当時の読者に衝撃をあたえたといったかたちで紹介されることが多いのですが、続編では三人称の視点からえがかれることになり、本巻でふたたび磯村や玲奈の視点から語られるという形式に立ち返ることになります。ただし、そのことばと思考はリアルな大学生の男女のものではなく、たとえば『蓮と刀―どうして男は“男”をこわがるのか?』や『シンデレラボーイ シンデレラガール』(ともに河出文庫)で語られているような著者自身の思考というべきものです。
みずからの責任を社会に肩代わりさせるような振る舞いをしない「一人前」の男になり、「他者」との開かれたコミュニケーションをめざそうと格闘する男と女をえがいた小説なのですが、「小説」というにはあまりにも著者の「思想」が前面に出てきてしまっているという印象を受けてしまいました。著者のファンとしてはおもしろく読めたのですが、多くの読者にとってたのしんで読める小説なのかというと、すこし疑問に感じてしまいます。