あらすじ
松尾スズキの自伝的要素を含んだ初の長編小説がついに電子化!
巨頭のフクスケが『劇団大人サイズ』の作家になって3年。動員数も飛躍的に伸び、劇団は規模を拡大。すべてが好転しているように見えた。しかし、フクスケは新たな「純愛」を見つけてしまい、伝染病が世界を覆い尽くす中、劇団は宗教を始める。そして、カタストロフィに向かう物語は、著者である松尾スズキの現実と連鎖していく……。
純愛・絶笑・神様! 因果の禍にまみれたフクスケは、破滅する世界を救えるのか!?
解説・豊崎由美
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Posted by ブクログ
これは現代の自然主義文学か、と思うほど松尾スズキは現実を生々しく切り取ってみせた。そして切り取った現実から、血なまぐさい、あるいは単に生臭いものを漉しとり、松尾流の「愛」と撹拌して物語に仕立て上げた。タイトルに宗教とあるけれど、物語にはなまやさしい救済は存在しない。汚いものを汚いまま、醜悪なものを醜悪なまま描き、そうした文脈で愛を語ることができるのは、おそらく松尾スズキくらいではあるまいか。
立ち上げたコント集団、劇団が、大きくなり宗教集団となればなるほど、それは破滅的終焉を予期させる。毎頁のように流される血、涙、糞尿や呼吸をするように行われる性交は、どれも破滅に突き進むモチーフのように思える。そこで描かれる「愛」もまた、結局のところ破滅である。さらには終盤、唐突に松尾スズキは自身とかつての女のリアルな愛をも作品に持ち込み、描かれたフィクションとないまぜに物語は進行する。あたかもメタフィクション的だが、待ち受けるのはまたも破綻だ。
松尾は終盤「愛の絶対を書こうとした」と本音ともいえる呟きを挿入している。この長いラブストーリーは、何ひとつ救済しない。松尾の思惑から、もはや物語は独り立ちしているかのようだ。愛ゆえにことごとくおのが身を亡ぼす奴らしかいない。だが、そうした汚穢まみれの物語を丹念に読めば、わずかばかりの光る「愛」をすくい取れるように思える。優れた物語とはそうしたものなのかもしれない。