あらすじ
かつては炭鉱で栄えたが、すっかり寂れ、高齢化ばかりが進む北海道苫沢町。理髪店を営む向田康彦は、札幌で働く息子の「会社を辞めて店を継ぐ」という言葉に戸惑うが……。(表題作) 異国からやってきた花嫁に町民たちは興味津々だが、新郎はお披露目をしたがらなくて――。(「中国からの花嫁」) 過疎の町のさまざまな騒動と人間模様を、温かくユーモラスに描く連作集。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
北海道の苫沢町で理容店をしている向田康彦。
冬は雪で閉ざされる過疎地に住む人々のリアルな生活、田舎と都会の違いがよく描かれており、辛く感じる人も多いだろうな。私は馴染めず逃げた人間なので、生活を続ける人を尊敬する。何でも筒抜け、やりたいことをやるほうが目立つ…匿名性を担保するため高い家賃や生活費を支払っている、わかりすぎる…
Posted by ブクログ
「『向田理髪店』は北海道の中央部、苫沢町において・・・」から始まる連作集。1編1編が、財政破綻し、人口流出が止まらず、若者は都会に出ていき、中高年者ばかりが残る、典型的な過疎の町でくりなすユーモアと人情味溢れる人間模様が描かれている。
そんな過疎の町で、町の将来は自然消滅を待つばかりと諦めている中高年者たちもいれば、数は少ないが何かしらの事情を抱え故郷にUターンしてくる若者に期待する中高年者たちもいる。この小説には何十年前から日本全国各地で問題となってきた、尚且つ根本的解決策を怠ってきた「少子高齢化」及び「地域格差」をベースとして、そこから来る悲哀さを、今でも有るかもしれない住民たちの人情と地元愛、都会に対する対抗心で、少しでもそれらを薄めてくれるようなストーリーになっている。
県庁所在地とは言え、典型的な地方都市に住んでいる身としてみれば、毎年年度初めに出る市報に、年々減り続ける人口や財政赤字の累計が載っていて、それを見ると我が都市の将来が憂鬱になってくる。我が子も、早く東京に出て行ったほうが良いのではないかと思うことがある。そう思う人も結構いるのではないか。けっして他人事ではない。勿論、町起こし、村起こしに一生懸命な人も多くいるだろうが。
この小説の「苫沢町」の将来がどうなるのか?は、書かれていない。
主人公「向田康彦」の息子「和昌」が、勤めている札幌の会社を辞め、苫沢町に戻って理髪店を継ぐというところから話が始まるが、狭い苫沢町で起こるちょっとした出来事、事件に、住民たちの心配やお節介、嫉妬心、怒りなどがユーモアと共に心優しく描かれている。
それを読むと心がほっこりとするが、その根底に読者には「苫沢町の将来への不安」が読み取れていて、住民たちの心配りが嬉しいやら悲しいやらで共感を呼ぶ。
自分勝手な解釈かも知れないが、本当にこういう住民たちのいる町がずうっと残っていってほしいと思う。そんな小説でした。