あらすじ
クリーンに謎を解くキリコが目的地も告げず家を出た――!? キリコはミニのフレアにハイヒールで、軽快に掃除をしながら事件を解決する名探偵だ。英会話学校の事務員・翔子の元に、受講生の男性から婚姻届が届いた直後、男性の身に悲劇が……(「深夜の歌姫」)。読めば元気がわいてくる、大好評シリーズ、最終話では、ふだん活動的なキリコ自身が部屋に閉じこもった末に突然旅に出てしまい――!?
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Posted by ブクログ
目次
・深夜の歌姫
・先生のお気に入り
・重なり合う輪
・ラストケース
清掃員キリコシリーズの最終巻。
実は清掃員というのは、人が捨ててしまったものを拾ったりして、その気になれば個人情報なども得ることができるので、このままシリーズを続けるとキリコにそこまでやらせなくてはならないと考えての終了なのかな、と思ったり。
このシリーズにずっと感じていた違和感も、その辺にある。
地に足の着いた仕事をしている、若くて可愛くて頭の回転の良い人妻のキリコの前に、殺人事件が多すぎる。
「殺してやりたいほど憎い」と思うことはあっても、実際に人を殺す人はそれほどいない、はず。
今回の事件でも殺意はなかったとはいえ、同僚に罪をなすりつけるような偽の証拠をでっち上げたり、親切を装って虎視眈々と復讐の機会を狙ったりと、度を越した悪意が頻発する。
それなのに、いつも明るく元気なキリコ…だったらそれは鈍感すぎるでしょ。
人の気持ちのすれ違いが事件を生むのはしょうがないけれど、人の気持ちのすれ違いが殺人に直結するのはなあ…ってずっと思っていた。
近藤史恵は殺人に頼らなくてもミステリを創り出すことのできる作家だと思っているので、このシリーズはこれでいいや。
Posted by ブクログ
流行のファッションに身を包むキリコは清掃の仕事のついでに事件も人の心もクリーンにしてしまう――。
お掃除ミステリ第五弾にして最終巻。
四篇の連作短編集ですが、最初の二話は英会話学校、三話目はコワーキングスペースで起こった事件のお話。
例によって、掃除の派遣で働くキリコの深い洞察力によって事件とそれに関わる人の心を解きほぐしていきます。
軽く読める肩の凝らないミステリですが、真相の裏に隠された悪意や嫉妬の熱量は結構重みがあり、認知の歪みやいじめでは済まされないビターな内容でした。
特に三話目の「重なり合う輪」の女性が受ける悪意のない嫌がらせは、胸がつまり苦しくなります。
その上、自分の見たい世界しか見えていない人間に対して仕返ししても被害者は楽になることができず、やるせなくなりました。
そして最後の四話目「ラストケース」では、いつもは他人の問題を解決してきたキリコが自身の問題に悩み、旅に出てしまい…というお話。
キリコが万能な人間ではなく、人並みに傷つき揺らぐ女性として描かれているのがとてもいい。
彼女が他人の感情に人一倍敏感なのは、そうならざるを得ない環境で育ったから…ということが行間から垣間見えるのが悲しい。
賢く人の気持ちに敏感なキリコは、見えすぎるゆえに思わぬ行き違いを起こしてしまう。
しかも弁解の機会は二度と訪れないとなると、本当に切ない。
でも今はキリコには大介がいる、そのことが読んでいて救いになりました。
最初の頃の大介はもっと頼りなかった気がするけども、巻を重ねて夫として成長したのか、キリコを立派に支えていて目頭が少し熱くなりました。
大介は問題を見て見ぬふりをしないし、キリコを信頼して、彼女のやることについて一緒に責任を取ってくれるでしょう。
このシリーズは二人が出会ってから強い絆で結ばれるまでの長い話だったのかも、と思うとイイハナシダナー、と感慨深いです。
終わっちゃうのは寂しいですが、このラストだったら納得。
また近藤作品の別シリーズを楽しみたいです。