あらすじ
会津出身の父から「喧嘩は逃げるが、最上の勝ち」と教えられ、反発した鷹志は海軍の道を選び、妹の雪子は自由を求めて茨の道を歩んだ――。海軍兵学校の固い友情も、つかの間の青春も、ささやかな夢も、苛烈な運命が引き裂いていく。戦争の大義を信じきれぬまま、海空の極限状況で、彼らは何を想って戦ったのか。いつの時代も変わらぬ若者たちの真情を、紺碧の果てに切々と描く感動の大作。(解説・末國善己)
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Posted by ブクログ
「いかなる時代にあっても、諸君よ、紺碧の果てを見よ。」鷹志の科白はかっこよすぎ。です。しかし、昭和20年、この気持ちで彼らが家庭を日本を守り、発展してきたことが伝わる。
そして気が付く。今の私たちには、この想いが無いことに。今、何を守り何を目指していくべきかがわからなくなっていることに。
死と隣り合わせだった戦時中、日本人の命が軽い時代、何倍もの速さで誰もが成長している。今なら大学生くらいの子どもが、日本を大和魂を大人顔負けで語る。
そして、日本は酷い国だと感じる。若者を市民を犠牲にすることでしか、国が成り立たない。例えば防御が工夫されていない戦闘機。戦時中は、補給線や戦争目的、戦略などが行き当たりばったり。兵士は何のために、戦わされたのでしょうかと、考えさせられる。
敗戦の日、「負ければ何もかも失う」と信じている鷹志であるが、「敗北を糧に立ち上がれ」と語る。「真に人として問われるのは、負けた後のこと」と。こういう熱い思いを聞くと胸が痛くなる。そして反省する。私たちは戦後の繁栄の中で、何を失ってしまったのかと。
Posted by ブクログ
文通相手との読書会のために、文庫で再読しました。
何度読んでも惹きつけられ、度々出てくるタイトルが切ないです。美しいタイトル。
戦争の行く末が分かっていても、彼らの辿る運命の悲惨さに胸が潰れそうになります。
誠実に丁寧に、迫力はあるのですが冷静に描かれていて、それが戦争の悲惨さをしみじみと感じさせます。皆川や江南の死はとても悲しく、生き残っただろう鷹志と有里も艦長クラスだったからきっと…と思ってしまい辛いです。
特攻隊の「生き仏」という表現も辛かったです。この戦争は負ける、と気付いてからの鷹志も。
そして雪子の戦いも辛いです。時系列を逆に進む手紙、最後にあったもので真実に気付きました。
辛いですが、目を逸らしてはいけないと思います。この作品に出会えてよかったです。
Posted by ブクログ
文通相手との文通読書会二回目の課題本。
自分では戦争ものを選べないので、こうして課題本にしてもらって、読むことができてよかった。
鷹志は幼い頃より父に「逃げるは最上の勝ち」「ねらぬものはならぬ」と教えられて来た。その教えは男子としての生き方を否定されているようで、心の中でいつも反駁を繰り返していた。そんなおり海軍に入った叔父に連れられて祖先の防人たちの寂れてしまった墓を参ったことをきっかけに、自分も海の防人にと心が傾いていく。その後震災で父は負傷し、そして両親は叔父夫婦に鷹志を養子に出し、兵学校への道を開いてくれた。その思いにこたえるように鷹志は兵学校での日々を精一杯に勤めていく。そこで出会った友人たちと厳しくも、実のある日々を過ごしていた鷹志は、その中で親友との別れを経験する。鷹志にはとても美しい妹がいた。少し他の女の子のようにいられない妹は、これと決めたことを曲げられず、その苛烈なまでの生き方を鷹志は心配していた。そんな妹の雪子は兄が叔父夫婦の容姿に出てから彫刻に打ち込むようになっていく。その集中力はすさまじく、行動力と才能で彼女は尊敬していた彫師のもとで腕を磨いていた。しかしそんな生活は長くは続かず、雪子はカフェーで女中をしながら、西へ行きそこで新たな修行先を探そうとお金をためていた。それを知った鷹志に家に連れ戻され、彫刻への夢は断たれてしまう。
そのころ鷹志は大きく広がり始めた戦争に巻き込まれ始めていた。いくつもの海を渡り、数えきれない部下を上司を同志を亡くし、繰り返す消耗にただ一度取り返しのつかない罪を犯す。
鷹志が見初めた顔に痣があるために顔を極端に隠す早苗。雪子に陸の上で必ず帰る場所になってほしいと求婚する鷹志の兵学校での同級の友の江南。海軍に魂を捧げてきたのに、最後には生き仏を運ぶ仕事に疑問が疑心へ、それは焼き付くような怒りと悲しみになった有里。戦争が進むにつれ、いくつもの視点が重なって、ラストは胸がつぶれそうな青に繋がる。
雪子からのいくつもの手紙。それは一通も出されたものではなかった。つよく強く焦がれた兄の姿が、それでもどうしても望めなかった心が、同じ青へ還れたことが救いのような気持がした。
ラストの100ページは夢中で読んだ。彼らが感じた静寂が耳に聞こえた気がした。