あらすじ
無学な召使いの人生を、寄り添うように描いた「素朴なひと」、城主の息子で、血に飢えた狩りの名手ジュリアンの数奇な運命を綴った「聖ジュリアン伝」、サロメの伝説を下敷きに、ユダヤの王宮で繰り広げられる騒動を描く「ヘロディアス」。透徹した文体からイメージが湧き立つような短篇集。
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Posted by ブクログ
書き手の存在が極限までに削ぎ落とされた結果生まれた、素朴でスマートな写実力が魅力のフローベール文体。個人的にはそこまで惹かれないが、公平性、主人公と作者の距離の絶妙な取り方という点に関して、とても勉強になる。
書き手の感情はもちろんのこと、描かれた人物の内面をこと細かに書き連ねることはせず、分かりやすい行動や象徴的な動きにクローズアップし、それを丁寧に描写することで積み上げていく。
ただ「〜した」等が執拗に連続するため、本国の言語だと魅力的に思えるとこが、日本語になった途端、自分の好みである流れるような読書感は感じられなくなった感じはある。
正直好みではないかも。
突如差し込まれる非現実的な描写に関しては上手いと思う。
Posted by ブクログ
一個目に収録されている短編の、
最後の行が凄まじく好きであった。
私はこの本を売りに出すことはないと思われる、なぜなら最後の行があるからだ。。
ってくらい!
つまり翻訳もナイス!
Posted by ブクログ
原著1877年刊。
未完の長編『プヴァールとペキュシェ』を除けば、フローベール最後の作品とのこと。
非常に趣の異なる短編が3つ入っているが、私としては、『ボヴァリー夫人』みたいな写実的な現代物の、巻頭にある「素朴なひと」が一番好きだった。
この作品は「暖かな眼差し」を感じさせるような人間的ぬくもりがあるように思うし、主人公である「素朴な」女中のキャラクターがとても好ましい。
この作品を読んでいると、鬼のように推敲しまくって彫琢されたフローベールの文章の「わざ」に惹き付けられる。一つの語りから次の語りへとなめらかに転調してゆくような「つなぎめ」部分は料理にたとえれば「絶品」という感じである。このように「書くこと」に自覚的に執念を燃やした作家は、やはりフローベールが随一だ。
続く「聖ジュリアン伝」はロマンチックな英雄物語のようで読者を引き込み、その分、「文章の味わい」に注意を向ける暇が無い。
最後の「ヘロディアス」は古代ローマの時代を扱った一種の「歴史物」ということになるか。しかし史実というより多分に伝説に基づいている感じだ。
私にとってはやはり「素朴なひと」が最高だった。
Posted by ブクログ
小説についての本で紹介された。3つが順々ではなく別々の小説であった。最後のヘロディアスについてはユダヤの物語よりキリストの物語であろう。解説が50ページあり、最初に小説を読んでからネタバレである解説を読むようにと書いてあったが、解説を先に読んでもどうということもないと思われる。
Posted by ブクログ
光文社古典新訳文庫のフランス文学は、衝撃の『目玉の話』以来。
3作ともキリスト教にまつわる話。
「聖ジュリアン伝」は、トルストイの民話のような味わい。
「ヘロディアス」は、半ばくらいで『サロメの話?』と気付いた。だが、洗礼者ヨハネの首を欲っしたのが、サロメではなく、母親のヘロディアスだった、という設定が、実にさりげなく説明されている点、解説を読むまで気が付かなかった。マルタ島にあるカラヴァッジォの大作『洗礼者聖ヨハネの斬首』を思い出した。
Posted by ブクログ
いずれも端麗で細緻な文体でありながら、3つそれぞれが違う雰囲気:
「素朴なひと」は淡い色合いの水彩で描いた風景画、青く広い空と小さな家の周りの木立…。
「聖ジュリアン伝」は重厚で暗く濃い色のタペストリー、緑の色合いが鬱蒼とした感じの。もとはステンドグラスに発想を得たみたいだけど。
「ヘロディアス」はギュスターヴモローの絵のような細密画(サロメの題材に引きずられて…)だけど、もっと金色やパキッとした色合いの。