あらすじ
亡くなる前日まで現役であり続けた知の巨人の遺言。「老い」に逆らって生きていくことは可能である。
はじめに――妻・迪子からみた渡部昇一の知的生活 <抜粋>
「口より実行」。渡部昇一の知的生活のコツといえば、この一言に尽きるのではないでしょうか。たとえば健康法。主人は真向法という柔軟体操と、英語の原書を音読する発声を日課にしていましたが、毎日厳密にやるのではなく、「できない日があっても構わない」くらいの調子でやっていました。「これとこれはきっちりやる」と決めてしまうと、できなかったときにイヤになってプツンとやめてしまう。だから二、三日やらなくても気にしない。そのほうが、「しばらくやっていないなあ」と気軽に戻って来られる。いい加減にやったほうが長続きすると言うんです。
子供たちに対しても、理詰めで接することはありませんでした。学校の成績が悪くても気にしませんし、忘れ物をしても叱りません。
子供が忘れ物をするのは普通のこと。子供の頃の成績が人生を決めるわけじゃない。そう言って、テストで悪い点を取っても担任に何を言われても、涼しい顔をしていました。
長男が音楽の道に進もうしたときも、「好きなことをすればいい」と背中を押してやっていました。 音楽家のような不安定な仕事に就くのを反対される親御さんもいますが、主人は「うまくいかなかったら、トラックの運転手でもなんでもすればいい。今の日本では食いっぱぐれて死ぬようなことはない。やりたいようにやりなさい」と。子供の将来も、あれこれ言うより実行することを重視していたのだと思います。
主人は最後、自宅で亡くなりました。病院に通うのを嫌ったので、お医者様に来ていただいていました。我慢できないほどの痛みがあったようですが、痛み止めのモルヒネは最小限に抑えていました。モルヒネを使うと頭が朦朧としてしまい、時間もわからなくなるし、何も考えられなくなってしまう。不覚なことはしたくない。責任の取れない言動はしたくない。そう考えていたからです。
少しでも痛みが和らげばと、私と娘が主人のふくらはぎをさすっているとき、主人は「俺は世界一幸せな男だ。家族にこんなにしてもらって本当にありがたい」と何度も言っていました。
家族に感謝の言葉を伝えることも、主人らしい「口より実行」だったのかもしれません。
渡部迪子
※本書は二〇〇四年五月、大和書房より刊行された『老年の豊かさについて』を加筆修正し、大幅に改訂したものです。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
渡部昇一を知ったのは、
講談社現代新書 知的生活の方法
の著者としてだ。
旭屋書店の本店で第一刷を購入している。
その後の 続知的生活の方法、
講演会で入手した 知的余生の方法
そして最後が
終生 知的生活の方法
本書は、2004年に出版した 老年の豊かさ を
2016年〜2017年初頭にかけて書かれた
本書の修正加筆原稿から渡部昇一の死後に発行されたものである。
色々意見はあるとは思うが、一本筋が通っているところは認めるだろう。
最初の本に書かれた事で、座右の銘にしているのは
求めよ さらば与えられん
だ。
終生 知的生活の方法 でも それを貫かれていると思う。
子供へは遺産でなく教育を残すこと
両方残せれば良いが、優先すべきは教育だ。
(美田も買えれば良いけど。)
それは実践して来た事なので納得する。
オカルトチックな事ほ必ずしも賛成しないが
知的生産は、梅沢忠夫
知的生活は、渡部昇一
これは刷り込みされている。
で、本書を斜め読みせず、完読して満足している。
Posted by ブクログ
人生において、
自身の人生のモデルとなるような「師」と出会えるかどうか非常に重要なことだ。
「師」というのは、
心底こうゆうふうになりたいというような直感で自分自身が見いだすものだ。
やはり、若さというのは
「いつになっても将来のことを考えている」人であって、皮肉なことに年齢が30代でもすでに将来のことを考えなくなり老人の域にいる豪傑もいることだろう。
いくつになっても頭脳と身体は鍛えることができることは、この著書を拝読してもよくわかる。
ゲーテもこよなく孤独を愛したように、精神の修養には、静謐(せいひつ)な時間と空間が必要だ。
苦労は買ってでもしろとよく言うが、
読書ほど買ってでも苦労した方がよいものもあまりないだろう。
古典など、世界の超良書を若い時分に読みこなす習慣が身につけば、その複利は雪だるま式になって後年になって返ってくる。
世の中には、超人的な老人がいる。
むしろ、年齢は高いが精神も肉体も相当に若い意味で、若人である。
90を超えても尚より一層精力的に活動をし、身体も鍛えて筋力が70の時よりも向上している。
99歳でスキーをしたり、60を超えてから300冊の本を執筆したりと、この本はそういった例の枚挙にいとまがない。
やはり、知的生活には健全な肉体が必要不可欠なのだ。
種の起源の原理を発見したウォーレスという博物学者が信仰心からではなく、自然科学的な調査から、霊魂は存在すると結論づけたことは驚きだ。
生涯現役
一部ご紹介します。
・老後に必要なものは、少数の友達、そしてカラオケに行ける財産。
・読んだ本の数が、人間の本質を支える。
・肉体を日々休まず鍛える。
・眠れなくても1日8時間は横になった方がいい。骨休めは大事。
・体を柔らかくすることは、老化を遅らせることに他ならない。
・運動後の自分へのご褒美を忘れずに
・声を出して本を読んでみる。
・卑屈にならないためにも私有財産は必要だ。
・人生では死が至る所で待ち構えている。それに備えて、いつもいいことをするように心がけるべし。
Posted by ブクログ
「初老から古希くらいの人を相手に座談する様な形で書いた」と巻末に書いてあったが、知の巨人、渡部昇一先生が最晩年に書かれた人生訓に触れることは、どの世代であっても役に立つだろう。
若い時からの心掛けが積み重なって、老齢になった頃には大きな差となって現れるのだから、年齢に関わらず読んで損はない。
文字は大きく太めで、行間もたっぷり取ってあり、高齢者に優しい作りである。
Posted by ブクログ
渡部昇一、享年86歳。何かに裏付けられた確かなデータではないが生活にポリシーをもって生きた。そのこだわりの幾つかが語られる。冒頭の妻からの一言も感慨深い。知的生活とは。知識人とは少し掛け離れた、儀式めいたライフスタイルも多い。しかし、それこそが個性であり、人の嗜好や生き方に合理性なんて無いことの証左かも知れない。
スポーツに限らずイメージトレーニングを重視するとか、乾布摩擦やウォーキング、冷水を浴びるような健康法とか、英語の素読の習慣とか。ジョギングは否定しないが自分には合わないとか、妻とは体感温度が異なるため老年に寝室を分けたとか。何だか、フツーの生き様である。しかし、それが自然体で素直に歳を取るとはこうか、と感心する。
身体と頭が衰えず、会話や食事が楽しめれば、日々の生活は幸せなのではないだろうか。新しい世界を見たい、刺激があり影響の大きな仕事をしたいという意欲は、身体の健康状態によるのだろう。歳を取れば、無理が効かなくなる。年齢による所が大きいだろうが、人間の野心、性格、行動はその人の健康状態に左右される。健康状態が出発点、健康第一かと改めて思う。
Posted by ブクログ
人生のイメージトレーニングをする=将来の自分の生活をイメージする。若いころから老後についてイメージトレーニングをする。
記憶力は、年とともに衰えるわけではない。むしろ65歳を過ぎてから覚えられるようになった。
年を取ったら音楽会も同じように行けなくなるかもしれない。
『菜根譚』は若い時に書かれたもの。高齢になったら参考にならない。その点、論語は長寿者の言葉。
矢沢永一『教養が試される341語』『勇気凛々こんな人生』『「人生の使い方」の教訓』
知的生産とは、高層建築を立てるようなもの。知的生活とは樹木的な生活。
人生論は、ほとんどが「半分人生をおりたような人」が書いている。実業についていない人が多い。英雄伝と同じで英雄でない人が書いたほうがいい。
舌がナマケモノにならないように、英文学の古典的名文を音読する。音読はごまかしがきかない。
仕事があるときは晩酌をしない。
一日4~5時間は体を鍛える時間に使う。
冷水シャワー、冷水摩擦、乾布摩擦、真向法、散歩と風呂、昼寝、などを含む。
睡眠時間を惜しまない。眠れなくても8時間横になる。
冷水を浴びることで副腎が刺激される。
歩行禅=歩いていると何も考えなくなる。
夜、コーヒーをご褒美に散歩をする。夜散歩すればすぐ眠れる。
朝飯は、一仕事してから=草刈りなど。起き抜けは食べない。一仕事した人が朝飯を食べる。
ニンジンジュース断食サナトリウム。
サウナや入浴で浄化する=断食をすると体が臭くなる。
私有財産を否定すると、政府の仕事に就くしかなくて体制を批判できなくなる。イギリスで民主主義が定着したのは、紳士階級の私有財産が安定していたから。
秀吉は恐怖心がなかった。「事に当たって遅るるなかれ」
「明日は明日の風が吹く」