【感想・ネタバレ】「生きる力」の強い子を育てるのレビュー

あらすじ

人間性教育学シリーズ!
誰の目から見ても“いい子”は、本当は非常に危うい。
学歴や学業成績が人生を決める時代は終わった。
ソニーの上席常務として、かず多くの“エリート”たちの盛衰を見つめてきた著者による、子どもの内なる力を引き出す、新しい教育のためのヒント。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

著者は、42年間ソニーに勤務し、CDや犬型ロボットAIBOなどの開発
を主導して、上席常務にまでなられた方です。また、ソニーコンピ
ュータサイエンス研究所を設立し、初代所長に就任。茂木健一郎氏
や北野宏明氏などユニークな人材を輩出することに貢献します。引
退後は、教育や医療の分野で活動をされ、エジンバラ大学から名誉
博士号を授与されるかたわら、アメリカのネイティブアメリカンの
長老に称せられるなど、怪人ぶりを発揮されている方です。

本書は、そんな著者が教育について語った一冊。題名にあるとおり、
「生きる力」を育てることがテーマです。

「生きる力」は、現在の学習指導要領において、公教育の目標とさ
れているもので、もともとは、悪名高い「ゆとり教育」の導入に伴
って公式に使われるようになった言葉です。かつての学力偏重・つ
めこみ型教育に対するアンチテーゼとして使われるようになったも
のですが、ゆとり教育廃止後も、公教育の目標とされ続けています。
ただし、ゆとり教育の「失敗」を繰り返さないよう、「生きる力」
には「学力」も含まれると再定義がなされています。(すなわち、
「学力」が低い=「生きる力」が低いとなってしまうわけで、これ
はこれで非常に問題のある定義だと思います、、、)

本書の前半では、ゆとり教育の前後を軸に、教育政策がどのような
思想で行われてきたのか、それが本来の教育が目指すものとどのよ
うにズレてきたしまったのかが整理されています。そこで明らかに
されるのは、どのような教育にするにせよ、国が教育の中身を決め
る国家主義教育である限りは、ダメなのだという現実です。既に欧
米では、国家主義教育から人間性教育へと主流がシフトしつつある
のに、日本では、国家主義教育から抜け出せないまま。「生きる力」
を育てるには人間性教育へシフトすることが不可欠なのに、それを
国家主義教育において進めようとしていることの矛盾が、説得力を
もって語られます。

では、生きる力を育てる人間性教育とはどのようなものなのか。そ
れは、ルソー以来の伝統を持つもので、現代の認知工学や心理学の
知見も加味して煎じ詰めると、以下の四つの要素に集約できるので
はないかということが本書の後半で語られます。

1.無条件の受容
2.大脳新皮質がいろいろ学ぶ前に、古い脳を徹底的に鍛える
3.フロー
4.大自然との対峙

「なにも難しいことはない。子どもたちを勉強机からひっぺがし、
大自然の中に連れ出して、思い切り遊ばせればいいのだ」というの
が著者の結論ですが、一番難しいのは最初に掲げられている「無条
件の受容」かもしれません。これは子どもの可能性をどこまで信じ
ることができるかということと関連するからです。子どもにせよ、
他人にせよ、その可能性を信じて待っていれば、いつかはなるよう
になるはずなのに、それが普通は我慢ができません。相手の中に神
が眠っているということをなかなか信じることができない。それで
神の目覚めを待てずに、余計な介入をして、おかしくしてしまう。

相手のもつ可能性をどこまで引き出すことができるか。これは子育
てに限らず、後進の育成などにおいても重要なテーマです。ですか
ら、本書は、子育てや子どもの教育に悩まれている方のみならず、
部下や後進の育成に関心の高い方にも、きっと得ることの多い一冊
となることでしょう。個人的には、デューイなどに比べて言及され
ることの少ないニイルの教育哲学を知ることができたのが大きな収
穫でした。

人間の持つ可能性、神性について考えさせてくれる一冊です。
是非、読んでみて下さい。

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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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入社してから活躍する人は、趣味やクラブ活動やボランティア活動
などを通じて、知識や学力とはまったく異質の「何か」を身につけ
ている。それは、自らを常に磨く力であり、集団の中における適切
で調和的な立ち位置を確保し、人生を楽しみ、目的を定め、挑戦し、
自己実現に向かう力だ。
そういった一連の力を、全部ひっくるめて「生きる力」と呼ぶこと
にする。

(2007年中教審答申では)「生きる力」は、「確かな学力」「豊か
な人間性」「健康・体力」の三つが支えていると定義し直し、再び
「学力偏重教育」へ舵を切ったのだ。つまり、もともとは行きすぎ
た学力偏重教育の弊害を是正するために出した「生きる力」という
概念を、それとは正反対の意味で使い始めた感がある。

「生きる力」というのは、ことばを換えれば「自己実現」に向かう
力だ。自分の能力を伸ばすとともに、それをいかんなく発揮し、思
いを実現して、社会の中で意義のある活動をし、自らの位置づけを
獲得していく力だ。

国連教育加盟国の中で、シュタイナー教育が公教育として認められ
ていないのは北朝鮮と日本だけだという。

「国家主義教育学」というのは、次のような両面性を持っている。
A.国家や支配者に忠実で、隣人に親切で、社会のルールやマナーを
 よく守り、勤勉で国の発展に献身的に貢献する人を育てる。
B.国に押しつけられた枠の中でしか発想できず、視野が狭く、自ら
 の価値観を確立できず、個性や独創性に乏しく、ひとつの方向に
 猪突猛進する、洗脳された戦士を育てる。

日本のフリースクールは、不登校児を救うために数多く設立された
が、大多数は「人間性教育学」を実践している。

知識は、人間の形成にとってはほとんど意味を持っていない。だか
ら、知識の習得を教育の中心にすえてはいけない。むしろ、無意識
の表出としての遊びと創造に道を譲るべき。木工、美術、音楽、ダ
ンス、ドラマなどを重視すべき。文明国には、十分に遊んだ子がい
ない。子どもが学んでいないと時間を無駄にしているという考えは
呪いだ(ニイル)。

「生きる力」には、「与える」教育はまったく無力であり、「引き
出す」教育以外にはあり得ない。

すべての子どもは自分自身の中に「神」を持っているのだが、通常
はその神が眠っている。たとえ表からは見えなくても神の存在を信
じて、その子を徹底的に信頼し、その神が目覚めるようにするのが
教育の本質だ。

自らの感情に、しっかり接地した子どもを育てなければいけない。
感情が自由であるなら、知性はひとりでに発達する(ニイル)。

私は人間が生きていく上でどうしても必要な要素を「歌と踊りと祈
り」の三つに集約した。

「生きる力」が伸びる四要素
1.無条件の受容
2.大脳新皮質がいろいろ学ぶ前に、古い脳を徹底的に鍛える
3.フロー
4.大自然との対峙

いろいろ深く考えていくと、結局は、勉強を強制せず、大自然の中
で夢中になって遊び回り、たっぷり「フロー」を体験すれば、子ど
もたちの「生きる力」が伸び、「いい人生」につながるという結論
に達する。
なにも難しいことはない。
子どもたちを勉強机からひっぺがし、大自然の中に連れ出して、思
い切り遊ばせればいいのだ。

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●[2]編集後記

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先日、高校時代の旧友と久々に会いました。昔やった悪行の話から、
彼が常習していた万引きの話になりました。

小学校低学年から始まった万引きは、何度警察につかまっても止め
ることができず、結局、高校二年まで続けていたと言います。ある
種の中毒症でしょう。経験者が語るずぶずぶとはまっていくプロセ
スは、リアルな恐怖がありました。

そんな彼が万引きを止められたきっかけは、万引きを発見された私
服警官に、「お前の目は死んでいる」と言われたことと、引き取り
にきた母親が全く怒らなかったことだそうです。

自分が人間として終わっているという事実を面と向かって言われ、
実の親からも完全に見放されたことがわかって、それで更生する気
になったのだそうです。親御さんは、さんざん彼が目覚めるのを待
ち続けて、いよいよもうダメだと諦めた時に、ようやっと彼は目覚
めたわけで、人間というのはわからないものですね。

彼はその後、有名私大に入り、現在は総合商社で立派な会社員をし
ています。

自分の子どもが万引きに手を染めた時、自分ならどうするか等々、
色々と考えさせられた体験でした。

0
2015年07月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

お子さんがいる方、保育士や教師など子供に関するお仕事をされている方にとって、もしかしたら、ご自身の考えている教育方針、子育ての考え方に迷いが出てしまうかもしれないけど、自分の頭に新しいアンテナがニョキって出てくる感じがした。

以下、転載です。(自分用メモとして)

■この著者が定義する「生きる力」の特徴:

人間の大脳の中で、爬虫類時代までに発達した「古い脳」のはたらきがコアになっている能力や資質のみを「生きる力」と呼んでいる。

逆にいうと、理性、論理、知識などの大脳新皮質のはたらきだけで完結している表面的な能力は「生きる力」に含めていない。外から強制された枠に従って実行している正義感、倫理観もそれに含まれる。(「生きる力」には含まれない) 
※それをいかにしたら強化できるかを本書で掘り下げている。

■この本に出てくるキーワード・トピック:

・「与える」教育ではなく「引き出す」教育。

・すべての子どもは、自分自身の中に神を持っている。自我が満たされた自由な子どもはその神を発揮する。善悪や正邪の価値基準を与え、子どもを型にはめようとすると、その内にある神を悪魔に変えてしまう。つまり、法律や規則でしばり、道徳で抑え込もうとするから、罪を作り、反逆者を作り出すのだ。

・サドベリー教育:「自由に遊び尽くす」ことにより「生きる力」が強化されることを重視した教育。

・チクセントミハイが提唱する「フロー理論」。

・「フロー(流れ)」とは、「夢中になって、我を忘れて、何かに取り組んでいる状態」をさす。

・フローにはいるひとつの条件として、何事も強制されることなく、完全に自由な状態で、自らの心の深いところからこみ上げてくる欲求にしたがって行動する必要がある。これを「内発的動機」にもとづいて行動する、と表現する。
遊び尽くした子どもは、今度は学習意欲が高まり、先生と交渉して自ら授業を企画する。つまり、内発的動機にもとづいた学習が始まるのだ。子どもたちは、遊びを通じて「フロー」に入りやすい体質になっており、学習の効率は極端に高くなる。
事実、小学校六年間で教わる算数の内容は、二十四時間程度で完璧に身につけてしまうという。

・「生きる力」の強化は、「バーストラウマ」をいかに軽減するかにかかっている。

・子どもに関する真理はひとつしかない。それは、愛され、自由であり、自分自身であることが許されるなら、誰しもが攻撃性が少なく、表裏のない、誠実さと思いやりの心にあふれた、善良で、平和で社交的な人間になることだ。

・もし、世界中の母親が、医療の介入を受けることなく自然に分娩し、すぐに赤ちゃんを抱いて初乳を与え、母乳と愛情をたっぷり与えて育てることができたとしたら・・・おそらく・・・この地球の上から戦争はなくなるでしょう。

・人間教育の土台は早期文字教育などではない。あらゆる感覚器官、運動器官が、この瞬間模倣力の最も強い時期(0〜2歳)に発達する。(中略)このときは何という意欲に満ち満ちているか。それなのに多くの兄弟姉妹、友だちをもつこともなく、狭い教室に閉じ込められて、この二度とない大切な時期を過ごさなくてはならない子どもたちのことを思うと心が痛む。

・「生きる力」が伸びる四要素
1.無条件の受容
2.大脳新皮質がいろいろ学ぶ前に、古い脳を徹底的に鍛える
3.フロー
4.大自然との対峙

・日本の親たちに目覚めてほしいという願いを込めて、本書を書いている。

・「生きる力」の重要性をすべての人が理解し、それを強化する方法論のトレーニングを受けた人が増える必要がある。何よりもまず、優秀な保育者を大量に育成することが急務だ。

0
2021年05月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

まだざっくりのななめ読みしかしてないけれど、
つまりは生き物としての本能を高めるってことかな?
古い脳の担当している部分を鍛えるって、
人間としての高度(というのが適切かなぞだけど)な教育を施すのではなく、
野性を取り戻すような、ありのままの状態で保育するということのように感じられた。

「無条件の受容」が伴うから、動物とは違うのかもしれないけど。

でも生きる力=本能を高める、って考えてみれば当たり前のことのような気もする!


思っていたのとは少し違ったけど、
早期教育はやはり必要なさそうって改めて思った。
心や脳、自己肯定を高めてあげることが大事だね!
お勉強はやる気になればいくらでも出来る。


心理学の話が面白かった。
生まれながらに罪を背負っている、ことの意味とか。
他にも色々読んでみようかな

0
2019年12月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

教育は非常に難しい。結果がわかるのが何年も先になるし、これが良いという正解はないと思う。「ゆとり教育」は教師の力量が問われるため、一律に導入したのが失敗の原因と筆者は主張している。

私は「ゆとり教育」には懐疑的で「知識を深めることが成長、想像力も知識が必要」と考える。しかし筆者は「生きる力」が「いい人生」につながると言い、そのためには、勉強を強要せず夢中になって遊ぶ「フロー」体験が必要と説く。このことは本書を読んで頭では理解できるが、実行するのは難しいなあ。

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2014年07月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「生きる力」を育む教育学に関する話
正直、賛否が判断しづらい。
そりゃそうだよなーって思うことと、本当か?って思うことに分かれた。主観論が多すぎて、半信半疑って感じ。

中には研究結果の引用もあり、そこは納得できた。
(愛着形成がうまく行ってる子は、離れてたお母さんが迎えにきてもちらっと見て遊びに戻る、とか)

実際こんな教育できなくない?怖くない?っていう気持ちもある。(勉強させずに大自然の中でフロー体験させて、その後勉強に集中投下して本当に巻き返せるの?とか)

この教育を極端に進めたら、今の世の中には適合しないよねっていう気持ちもある。(牛乳をこぼしてジャバジャバ遊んでいるフロー状態を邪魔しない→他の人の家でもやる、とか)

ただ、共感できるところもある。
(幼少期の古い脳が育たないうちに、大脳新皮質が関与する読み書きそろばんを教え込むのは、発達の順番がちぐはぐでエラーが起こりやすい。とか、無条件の受容を行うことで子どもが安定するとか)

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生きる力、とは、社会に変革を及ぼすような力のこと。

日本では、過去「国家主義教育(与える教育)」を行っていた。
これは、一つの方向に向かって一心に進む力を育む。一方で、自分で考えて進む力が育ちにくい。(戦争頑張っちゃうとか)

その後、「生きる力」を育むべく、「ゆとり教育」が始まった。
しかし根本の人本来が持っているものを伸ばすには中途半端で、失敗に終わった。

本来、「生きる力」は、下記4点で伸ばすべき。
・無条件受容
・大脳新皮質より先に古い脳を鍛える
・フロー (なにかを夢中になって突き詰めること)
・大自然との対峙

これは、サドベリー校、シュタイナー教育、モンテッソーリなどで行われていることと紐づく。

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2022年06月19日

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