あらすじ
今日のコンピュータの礎を築いたジョン・フォン・ノイマン、不完全性定理で数学・論理学の歴史を根底から変えたクルト・ゲーデル、思考する機械への道を拓いたアラン・チューリング。いずれも今日の科学と哲学に多大な影響をもたらした天才たちである。同時代に生きた彼らは、互いに触発され、時に議論し、相互に意識しながら実に多くの業績を残した。比類なき頭脳と個性をもった三人は、いかに関わり、何を考え、どう生きたか。それは今日の世界にいかなる意味を持つのか。彼ら自身の言葉からその思想の本質に迫る。
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Posted by ブクログ
『20世紀を代表する3人の天才の論文と背景を読み解く』
本書は、3人の代表的な論文、その解説、各人の伝記の3部構成。全体的には、三者三様の考え方の違いや関わり合いなど、面白かった!さすがに論文は難しすぎて、予備知識がないと理解できないので、後日、再チャレンジしよう!
Posted by ブクログ
記号を最小単位分解し、それを自在に組み直す試みは、物質を物理的に最小単位分解して自在に組み直すよりは容易である。それを利用した生成AIが誕生したが、本書では、同時代の天才たちを分解し、何か共通項や今日的な意義のようなものを見い出すことはできるのか。
「彼らはいかに関わり合い、何を考え、どう生きたか。そしてそれは今日の世界に何を意味するのか」と問う。本書は、それぞれの人物が残した代表的な講演や論文(ゲーデルの「数学基礎論における幾つかの基本的定理とその帰結」、チューリングの「計算機械と知性」)を、訳出と解題を通じて掲載し、「彼ら自身の言葉によってその思想の本質に迫る」と紹介される。
1903年に生まれたノイマンは、自身が推進した原水爆開発の核実験で何度も放射線を浴びたために骨髄癌を発症し1957年に逝去。53年の短い生涯の間に、論理学・数学・物理学・化学・計算機科学・情報工学・生物学・気象学・経済学・心理学・社会学・政治学に関する150編の論文を発表した。天才だけが集まるプリンストン高等研究所の教授陣のなかでも、さらに桁違いの超人的な能力を示したノイマンは、「人間のフリをした悪魔」と呼ばれた。そのノイマンが高く評価していたのが、1906年に生まれたゲーデル。後にノイマンはゲーテルをプリンストン高等研究所に招くが、そこでゲーデルと親友になったのがアインシュタイン。晩年のアインシュタインは、「私が研究所に行くのは、ゲーデルと散歩する恩恵に浴するためだ」とまで述べている。
1912年に生まれたアラン・チューリングは、ノイマンやゲーデルと直接の親交は少なかったものの、思想と業績の上では深く結びついていた。1936年、チューリングは「計算可能性」の概念を提示した画期的な論文を発表し、そこで考案された「チューリング・マシン」は後に「計算機の理論的モデル」として定着する。この発想に大きな衝撃を受けたのが、当時すでに数理論理学に深く関わっていたノイマン。ノイマンは戦後のコンピュータ設計に際して、チューリングの理論を現実のアーキテクチャに応用し、「ノイマン型コンピュータ」という基本構造を確立する・・・中心にノイマンがいる。
一般的な読者が著者の咀嚼を通じて内容に触れたからといって、これら天才の所業を理解するのは難しいかもしれない。計算機科学の先駆者であり、世界初のプログラマーとして知られるエイダ・ラブレスは、「解析機関に独創は難しい」と言ったという。しかし、解析するための分解は理論を追求するものほど、より細分化が可能であり、その細分化を組み合わせられた時、理論家を外から眺める人には、それが「独創」に見えるのではないか。表層的な世界では分解自体に理解力の限界があり、そこを粉砕できる能力こそ天才に共通のものではなかろうか。
つまり、ノイマン・ゲーデル・チューリングに共通するのは、単に「知能が高かった」ことではなく、既存の体系を徹底的に分解し、再構成する能力であった。ゲーデルは論理の基礎を細分化することで、それが不完全であることを証明した。チューリングは「計算」という営みを最小の操作単位に還元し、理論的機械を立ち上げた。ノイマンは、それらを結びつけ、現実世界の技術や制度に応用する触媒となった。
そして今日の世界にとって、この営みは決して過去の遺産ではない。生成AIが記号を分解・組み合わせるように、現代の科学や思想もまた、細分化と再統合の繰り返しの上に成り立っている。「独創」があるように見えるのは、まさにラブレスの言葉通り、分解と組み合わせの限界を突き破るかのような振る舞いをするからである。しかし、そこで何を「粉砕し」「組み替える」か決定づけるのは、なお人間の思考と選択だろう。
Posted by ブクログ
購入。
タイトルの3人それぞれの講演録か論文を1本ずつ取り上げて、解題と生い立ち、という構成になっている。
ゲーデルの講演録は理解できない部分が多かった。
それぞれの人物の生い立ちを読むと自分の信じるところに一生懸命生きていると感じる。特に死に関するエピソードは胸に来る。何かしらの不安定さが各人にあると思う。戦争とか冷戦が人生に大きな影響を与えていることが分かる。
『現代思想』に載った訳をまとめて生涯と思想を追加した構成のようだった。