あらすじ
明治期、東北。許されぬ仲の妊婦ミネと吉治。吉治は殺されミネは逃げる途中、牡馬アオと雪洞に閉じ込められる。正気を失ったミネは、アオを食べ命をつなぎ、春、臨月のミネは奇跡的に救出された。
生まれた捨造は出生の秘密を知らぬまま、座敷牢で常軌を逸しているミネを見舞い暮らす。アオの孫にあたる馬と北海道に渡ることを決心した捨造は、一瞬正気になった母から一切の経緯が書かれた手紙を渡され、今生の別れをする。
昭和、戦後。根室で半農半漁で暮らす捨造家族。捨造は孫の和子に、アオの血を引く馬ワカの飼育をまかす。ある台風の日、無人島に昆布漁に駆り出されたワカとほかの馬たちは島に取り残される。捨造と和子はなすすべもない。
平成。和子の孫ひかりは、和子に島の馬の話を聞かされていた。ひかりは病床の和子のために島にいる馬を解放することを思い立ち、大学の馬研究会の力を借りて、野生馬として生き残った最後の一頭と対峙するが……。
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Posted by ブクログ
捨造が一頭の馬を連れて東北から北海道に渡る。結婚して根室に住み、馬を飼い、孫たちと一緒に暮らすようになった。台風の時、貸し出していた馬が無人島のがけ崩れで帰れなくなりそのまま置き去りにされた。年月が経ち、全滅したと思っていた馬が子孫を残して一頭だけ生き残っていた。台地状の島で強く激しく吹く風の中に一頭だけ。
Posted by ブクログ
北海道 道東の酪農家で育ち、羊飼いをしていた著者が描く、馬をめぐる骨太な物語。
6世代に渡る物語だが、章立ては明治の開拓移住前の女、昭和のその孫娘、平成のそのまた孫娘と3人の女性を中心に書く。
家族と馬の物語であり、根室の土地の物語でもある。
道東のあの土地に暮らした生活体験に根ざした魂が感じられ、非常に読み応えがあった。
人間は自然のちからに「及ばぬ」。及ばぬ、と思うのは常に人間が自然に挑んでいるからこそであって、他の動物はそうではない……というのが、キーになっている。著者はインタビューで生活から感じたことと述べており、なるほど書き方が実感あってのものと見え、とても魅力的だった。
6世代分が文庫1冊になっているので、当然、書きたいところしか書いていない感はある。大河作品にもできる素材だと思った。
迫力があり面白い。
Posted by ブクログ
捨造の毋ミネと愛馬アオの逃亡の第1章はインパクトがあり、グッと物語に引き込まれる。第2章の捨造が北海道根室で馬を育て孫の和子に引き継がれたところでの花島の悲劇。第3章は和子の孫が花島に取り残されて生き抜いた最後の馬を訪ね、納得しての別れ。一族の歴史と馬への深い愛情が程よくミックスされ読み応えのある物語でした。
Posted by ブクログ
この中篇のどこに圧縮されていたのかと驚くほどに力強く、壮大。
人の力が及ばぬ厳しい自然を前にしては何事も及ばず、ただ静かに畏怖の念を抱き、生きる。
ひかりが見た光景は私の心にも焼きついている。