【感想・ネタバレ】消滅世界のレビュー

あらすじ

人工授精で、子供を産むことが常識となった世界。夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、やがて世界から「セックス」も「家族」も消えていく……日本の未来を予言する芥川賞作家の圧倒的衝撃作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

よかった。
実験都市に移住してから彩度が下がってぐっと洗練される生き方になる。
誰もがお母さん、子供はみんなの子供ちゃん、性欲はクリーンルームで排泄しよう、というあり方いいなと思った。
だんだん恋愛感情も、家族制度への執着も消えて、自分の感情を自分で管理する、個、として人間の生き方の分業が進んでいていいな。

解説として寄せられている文章も本文の理解を助けてくれる。が、子供のまっすぐさを兼ねた疑問の提示方を発達障害的と言うのは攻めすぎなのでは。

性行為はなんのためにするのか?
村田沙耶香はあらゆる小説でこれをテーマにしている。女性の妊娠、性行為、恋愛、家族、性的価値の消費からの解放が待ち遠しい。
村田沙耶香の小説は、男性にとってはディストピア、女性にとってはユートピア、誰が言ったのか、確かにそうだなと思った。

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2025年12月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

学生の頃に読んだ。ゼミで扱うというので再読したが、改めて読んでも新鮮に読めた。村田沙耶香の本領といった感じがするが、『コンビニ人間』で村田沙耶香を知った人が読んだら驚くかもしれないとつくづく思う。

夫婦による性行為は「近親相姦」として疎まれるようになり、性行為ではなく、人工授精によって妊娠出産をすることが当たり前になった世界。そんな時代にあって、語り手の雨音は、両親の性行為によって生まれた。小さい頃から母によって性行為で子どもを生むことが「正常」なのだと教え込まれた雨音は、母の意思には反して、世界の常識に染まっていく。
性的な関係と恋愛が切り離された世界においては、ヒトではない二次元のキャラクターを恋人にすることが普通になった。雨音は、そんな社会の中で、ヒトとも、ヒトではないものとも恋愛を続けて大人になる。
物語は、Ⅰ〜Ⅲの3部構成になっているが、最初の第Ⅰ部は、古い価値観を押し付けてくる母への反抗の物語だとひとまず言える。雨音は、ヒトと恋愛をしたときには必ず相手と性行為をするが、それは、母に教えられた古い価値観、愛し合った相手の子を産みたいという欲望が、自分の中にはないことを確かめるための行為だった。

どんな残酷な真実でもいいから、私は自分の真実が知りたかった。母から植え付けられたわけでも、世界に合わせて発生させたのでもない、自分の身体の中の本物の本能を暴きたかった。
自分の発情の形を確かめたい。それには、水内くんと「セックス」をしてみるしかないと思った。(p36)

雨音にとっての性行為は、自分の身体に母に植え付けられたかつての性欲がないことを確認するための行為だった。だからこそ、本当の性欲から性行為しようとする相手に対しては、身体が拒否反応を示す。
雨音の最初の結婚相手は、雨音に対して性的な行為に及んだ。恋人に対しては、必ず同じ行為をしてきたはずの雨音は、夫からそれをされることには、拒否感を持ち、逃げ出してしまう。そして、その後に出会った新しいパートナーには、前の夫から「近親相姦」をされた経験を語り、自分と同じようにそのことに嫌悪感を抱いてくれた新しい夫に安心する。
こうやって見てくると、雨音は、すっかり新しい世界の常識に順応しているように見える。しかし、彼女は、自分が少しずつ世界からずれていることに気が付かされることになる。

私と水人は恋人で、愛し合っているからセックスしているのだと思っていた。「それってマスターベーション……というものなんじゃないかな?」という、水内くんの言葉が脳内に蘇る。
あの言葉のとおり、私は水人を使ってマスターベーションしていただけなのだろうか。いや、水人だけじゃない。誰が相手のときも、私は結局、相手の肉体を使って自慰をしていただけなんじゃないだろうか。(p159)

ヒトの恋人とは必ずセックスを続けてきた雨音は、新しい夫と生活しているときにできた恋人の水人とも同じようにセックスをした。その行為に、どこか安心感を持っていた雨音だったが、相手の水人は、それを「つらい」のだと感じていた。雨音の身体は、セックスという交尾が、古風なことになった世界に、完璧には順応できていなかった。
そうして雨音は、夫とともに千葉の実験都市へ行くことになるのである。

千葉の実験都市では、「家族システム」に代わり、「楽園(エデン)システム」という新しいシステムによって、人口が管理されていた。毎年、クリスマスの日にランダムに選ばれた人々が、人工授精によって妊娠し、出産する。人口子宮によって、男性も妊娠するようになった都市で生まれた子どもたちは、「子供ちゃん」としてセンターに送られ、「おかあさん」となった全ての市民たち「愛情のシャワー」を浴びて育つことになる。
雨音とその夫は、最初こそは、二人の卵子と精子によって、二人の子どもを生むことに拘る。しかし、夫の方は、次第にそのこだわりもなくなり、男性初の出産に成功したときには、自分たちの子を「子供ちゃん」としてセンターに送ることに、何の違和感もなくなってしまっていた。
一人残された雨音は、「楽園(エデン)システム」には、順応することができなかった。順応することができなかった雨音が、最後にするのが、母の監禁と、「子供ちゃん」とのセックスである。

「ねえ、お母さん。お母さんが私をこんなに”正常”な人間にしてしまったんじゃない。そのせいで、私はこんな形をした『ヒト』になってしまった。今度はお母さんが、私のために正常になって。この世界で、一緒に、正しく、発狂して」(p264)

白いシーツの上で、私はセックスを作っていた。作るしか方法はなかった。前のやり方はもう忘れてしまって、私の身体の中から消えてなくなってしまったのだから。
私は昔、そうしていたように身体の中の「声」に従おうとしたが、すぐにあきらめた。何の声も、身体から聞こえなくなっていたからだ。知識はあったが、身体の中からセックスというものがもう排出されてしまっている気がした。私は、あるいは人類は、「あっちの世界」でセックスを使い果たしてしまったのかもしれない。(p272)

母親の洗脳が成功していたのかどうかは分からない。けれども、雨音は、セックスが完全になくなった世界で、性的な感情や行為から完全に自由にされた「子供ちゃん」とセックスをする。そして、かつてセックスによって自分を産んだ母親を、隣の部屋に監禁するのである。彼女は、隣の部屋から漏れる母親の声を、かつて交尾をしていた頃のヒトの声として聞く。そのように、自分の行なっているセックスが、かつては正常だったのだということを確かめることで、世界に順応しきれない自分の精神を保つのである。
この物語は、終始、自分の性欲の正常さを確かめ続ける一人の女性の物語である。そして、自分にとっての正常と、社会にとっての正常が決定的にずれてしまったとき、彼女がすがるのは、母とセックスであった。それは、母が新しい常識が蔓延した世界の中で、唯一自分と同じ異常な人間で、結局のところ自分の性欲の在りかとセックスのつながり切れなかったからでもあった。。。というようなことを言いたいが、当たり前のことを難しく言っているだけの気がするし、自分でも何を言いたいのかよく分からなくなってきた。
とにかく、面白い小説だった。

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2025年11月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あらすじを読んで気になり手に取った1冊。

『その世界に1番適した狂い方で、発狂するのが1番楽なのに』

この一文がこの本の根幹であり、過去、現代、未来にも通じるものだと感じました。

違う世界を覗き見ている感覚が面白かったです。

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2025年10月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

個人に執着するから苦しみが生まれる。家族も恋人もおよそ濃密な人間関係は解体して人は個となり、一方で行政から指示されて人工的に妊娠・出産を行う。生まれた子供はみんなの子供として育てられる。ディストピアはユートピアと表裏一体。感情の入り込む余地を可能な限り排除し人生を合理化したこの実験都市で暮らせば、人は人間関係のしがらみや子育ての責任から解放される。それが幸福であるかどうかは…。

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2025年11月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

面白かった。
セリフばかりで構成されており非常にエンタメだったのでテンポよく読めた。でも正直、もう少し純文学的にゆっくり描いてくれたほうが僕は没入できた気がする。
僕はロマンティック・ラブ・イデオロギーに懐疑的なのでかなり共感して読めた。
これをディストピアと評する気は、僕にはない。
世界は常に「途中」であり、どんな世界であってもそこには大半の正常者と一部の異常者がいる。無理に自分の異常を守る必要はない。世界に迎合することを否定するのであれば、そもそも今の自分だって幼少期からの世界へ迎合により構築されているのだから自分自信を否定することになる。本当の自分などない。
あなたも、生きづらさを感じるぐらいなら、正常に発狂しましょう。

237 新しい世界が、自分の中に刷り込まれていく。生まれたばかりのころ、目に見える世界のすべてを吸収して、どんどん人間になっていったように。私は今も、世界を吸収し続けている。そして、この世界の形をした「ヒト」へと変化し続けている。

263 お母さんは洗脳されていないの?洗脳されてない脳なんて、この世の中に存在するの?どうせなら、その世界に一番適した狂い方で、発狂するのがいちばん楽なのに

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2025年11月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

なんじゃこりゃ、、、
何が正しくて何が間違ってるのかわからなくなった。

でも、無性に恋がしたくなった

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2025年10月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

狂気の小説。
一方で、女性からはユートピア、男性からはディストピアとの感想目立つと後書きにあったが、なるほどと思える。

タイトルの消滅世界とは、雨音が持つ世界が消滅していくと共に、世界そのものの消滅を示唆しているのだろうか。この世界は、ユートピアを感じさせる一方、緩やかに滅亡していくのだろう。

人間の本能、あるべき姿を、鍵をかけた部屋に閉じ込め、見下しながら飼い殺す。
雨音の心と母との関係、世界のあり方に、居心地の悪い恐怖を感じた。


これ、どうやって映像化するんだろう。

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2025年10月04日

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