あらすじ
二〇歳に満たない少年兵を布張りの練習機で敵艦に体当たりさせる特攻作戦が行われた太平洋戦争末期。整備士の深田隆平は練習機が特攻に使われるとは思いもせず、悪戯心で操縦席に武運長久の祈りを刻んだ。あと数日で終戦と噂される中、そんな隆平のもとへ特攻隊員と思しき若者から匿名で感謝の手紙が届く――。実体験をもとに綴る奇跡の邂逅譚。
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あまりに不平等な人生
ドキュメンタリー風の小説。作者自身の体験がベースになっている。自分が最後に整備し、
メッセージを残した練習機が特攻に使われたことを知り、本作がなかばライフワークの
ような存在になったというが、たしかに行間に作者の気迫のようなものがが感じられた。
ちょっとした偶然や行き違いがもとで、運命的な出会いや別れを体験するというのは
よくある話。まして戦時中ともなれば、ワンタッチの差で生死が分かれてしまうことだ
ってざらにある。生き残れるかどうかはまさに運次第。
前途ある若者が、上層部の理不尽な命令一本で出撃を命じられ、あっけなく散っていく。
一方で無謀な作戦を立案し、大勢の若者を死なせた指揮官がなんの責任もとらずに戦後も
のうのうと生き残り、天寿を全うする、というのは全く合点がいかない。どうして人生は
かくも不平等なのか。いざというとき、本来なら責任をとるべき人間が、全く責任をとら
ず、全くお咎めなしというのは日本人の特性なのか?
太平洋戦争しかり、原発事故しかり、そして今回のコロナ禍しかり。一部の人間のエゴや
保身のために無実の国民が犠牲になるのはもういい加減にしてほしい。
Posted by ブクログ
2014年に山口新聞に連載された古川薫氏の小説。最後の特攻となった「神風特別攻撃隊第三竜虎隊」とこの特攻に使用された練習機を整備した深田隆平の物語です。本書の主人公である深田隆平は古川薫本人であり、実際にあった出来事をベースにしているようです。太平洋戦争をテーマにした作品はたくさんありますが、終戦間近の雰囲気をここまで強く感じる作品も少ないと思います。第一章に登場する宮古島で出会ったタクシー運転手の気持ちも痛いほど伝わりました。戦後80年経った現在の私たちは平和を努力して維持しないといけないと感じました。