あらすじ
近代天皇制に織り込まれたさまざまな記号を丹念な取材と世界的視座で読み解く。
全く新しい視点から天皇制を捉え直し、第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『ミカドの肖像』(1986年12月小学館刊行、1992年2月新潮文庫上下巻、2005年4月小学館文庫)を収録。
なぜ、皇族の土地にプリンスホテルが建っているのか? なぜ、オペレッタ「ミカド」は欧米で人気があるのか? なぜ、明治天皇の「御真影」は西洋人の風貌になったのか? いくつもの「?」の裏に隠された「近代日本」と「天皇」の不可視のシステム。近代天皇制に織り込まれたさまざまな記号を、丹念な取材と世界的視座に立つ壮大な考察で読み解いた、前代未聞の日本論。
本書には巻末に文庫にはない、山口昌男氏との対話「“視えない天皇制”を視る」(『週刊読書人』1987年1月5日初出)や、本田靖春氏との対話「『ミカドの肖像』余聞」(『潮』1987年4月号初出)を収録。また、高階秀爾氏による文庫版解説(新潮文庫版)のほか、天皇制をめぐるノンフィクション全般を俯瞰した柳田邦男氏の「天皇の空白部分」(1993年6月文藝春秋刊『同時代ノンフィクション選集第8巻所収)を収録する。
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Posted by ブクログ
『ミカドの肖像』は、猪瀬直樹によるノンフィクション。1987年度大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品。古い本だが、こと細かく事実が書かれているので、読めば新しい発見がある。
西武グループは戦後、皇族の領地を安く買い取って、プリンスホテルを建てていったという。西武グループの創始者、堤康次郎は、戦後土地を買い漁った。終戦時は今と違って、土地なんて買っても儲からないと思われていた。何故堤は、資産価値なんてないと思われていた土地を買い漁ったのか。堤の評伝では、理由が曖昧にぼかされているけど、著者は、本当の理由を探った。
堤は、企業家や政治家などの有志が集まるグループにコネで所属し、グループが発行していた雑誌を読んでいた。堤が読んだ雑誌には、アメリカの最新の動向が書かれていた。当時のニューヨークは、都市開発が盛ん。土地を買って資産を増やした人が多かったという。著者は、この雑誌を読んだことで、堤康二郎の土地に対する過剰な執着が生まれたのではないかと推定している。つまり、日本も都市開発が進めば、ニューヨークみたく地価が高騰するんじゃないかという予測。
戦後、GHQの政策によってお金と権力を取られた旧皇族から、西武グループは土地を安値で買い占める。プリンスホテルを各地に建設し、リゾートを作る。都心のオフィスに通うベッドタウンも開発したし、ベッドタウンの終点には遊園地も開発した。ベッドタウンから都心まで鉄道を敷いて、土地を使って金を儲けたわけだ。
戦前は、天皇が権力の頂点であり、象徴だった。戦後、日本はアメリカ型の大衆社会に転身する。戦後の主役は、消費し、娯楽にふける欲望全開の大衆だ。経営者であり資産家である堤一族は、戦後の大衆社会で、強大な権力と富を手中におさめることになる。まあバブルが弾けて堤帝国も没落するわけだけど。
というような、堤家と天皇家の関係を綴った第一部に続く後半では、西洋で流行したオペラ『ミカド』の詳細、明治天皇の御真影が何故ヨーロッパ人の顔つきなのか、といった謎が解き明かされていく。
一ページあたりの情報量が膨大で、読むのに時間がかかる良書。最近の本は1ページあたりの情報量が少なすぎると思っている人にはうってつけの本。