あらすじ
建材会社社長の高梨修一郎、50歳。先代社長の娘と離婚し、現在は一人暮らし。取引先の粉飾決算によって経営危機に陥り、事態収拾を図るとともに引退を考え始めていた。今、脳裏に浮かぶのは、怒涛のように過ぎ去った日々の記憶。18歳で会社に入った高梨と、先代の女社長の間には、何年経ったとしても、絶対に誰にも言えない秘密があった――。心を締めつけ続ける「孤独」を緻密に描いた傑作長編。
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Posted by ブクログ
運命に翻弄された男の、深い深い孤独を描いた物語。
主人公の修一郎は、家族を失って孤独ながらも、人との縁に恵まれ中堅会社の社長にまで上りつめる。しかし彼の心は癒えることはない。社長になったのも自分の意思でもなく、、「運命に縛りつけられている感じ」。小説中、2、3度しか出てこないが「命の支え」というのがかなり大きなキーワードだと思う。彼が孤独なのは「命の支え」が何もないからだ。とりあえず自分に託された「会社」を守るために一生けんめいに努めてきたが、それさえもなくなると…?
少し前に平野啓一郎の作品「空白を満たしなさい」で、人がどんな瞬間に自死を選ぶのか考えさせられたが、それとも通ずるものがあった。「命の支え」がないと、人は簡単に、ちょっとしたきっかけで死んでしまう。反対に、この話の中に出てくる”堀越夫妻”のように、およそ考えつく限りの不幸が重なり、絶望の淵に立たされ、自分(たち)には生きる価値などないとさえ思っても、小さな「命の支え」がそばにあれば、生きることができる。というか、どんなに死のうと思っても自死の扉は開いてくれない。
最後のシーン。彼が振り返ると、「光のない海」が見える。それは現実には海ではないのだが、彼にとってはまったく光の見出せない海ということか。そこからやってくる女性。彼女が「いのちの支え」になるのか?
なんだかとても悲しい小説でした。