あらすじ
LAの若き青年探偵“IQ”は、音楽界の大物が命を狙われているという事件に挑むが……新世代の“シャーロック・ホームズ”登場! ミステリ賞を多数受賞した鮮烈なデビュー作
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Posted by ブクログ
LAのロングビーチで探偵を営むアイゼイア・クィンターベイは、頭文字をとって“IQ”と通称されるほどのキレ者。とある事情でまとまった金が必要になったIQは、かつて同居していた腐れ縁のドッドソンと共に、〈ラッパーを襲う巨大ピットブル事件〉の謎を追うことに。18歳のときに目の前で兄を亡くし天涯孤独になったIQは、ドッドソンの誘いで“悪さ”に手を出し、取り返しのつかない事件の加害者になってしまった過去を持つ。罪を犯した2005年と、償いのため街の人びとの悩みを解決しようと奔走する2013年のエピソードが同時進行し、IQという探偵が生まれたわけを解き明かす、ポップな探偵シリーズ第1作。
「現代アメリカの黒人文化に造詣が深い作者によるヒップホップ小説にして、シャーロック・ホームズに倣った思考術を操る探偵小説である」とか、「スキップのあだ名“マゴット”って元ネタ『ハマースミスのうじ虫』かな?」とかは言い尽くされているだろうから、私はアイゼイアとドッドソンの関係性が最高なBLとして読みましたよという話をします。
アカデミック・デカスロンの地区チャンピオンで、ゆくゆくはハーバードに進学するはずだった優等生のアイゼイア。対して、地元のギャングに所属する若きクラックの売人ドッドソン。同級生ながら本来は交わるはずがなかった二人が接点を持ったきっかけは、アイゼイアの兄・マーカスの死だった。両親が死んでから兄と二人で暮らしてきたアイゼイアは、一人になっても今のアパートメントを離れたくないばかりに、家賃をアテにしてドッドソンを同居に誘ってしまう。
ドッドソンはすべての元凶であり、こいつのせいで何人もが血を流すことになった正真正銘のクズなんだけど、なんとも言えずカワイイやつ。162cmのオシャレさんで、服道楽に金を費やすかと思いきや、料理が趣味でフードチャンネルのアイアン・シェフやチョップドをよく見てたり、アイゼイアの予測に反して綺麗好きだったりする。アイゼイアに初めて食べさせた手料理のチキンガンボを、8年後にまた作って出したのに気づいてもらえずがっかりしちゃうんだよ? 完全に萌えキャラじゃん。アイゼイアにいつも推理を先回りされて悔しく思っているが、他人の感情を汲み取るコミュニケーションの面ではドッドソンのほうが優れていたり。兄の死から目を逸らしたいと思っているアイゼイアの気持ちを察して、優しい労わりから強盗をやろうと持ちかけるやり口なんかサイテーでサイコー。このドッドソンのワルなんだけどお茶目なキャラ設定のおかげで、二人の同居生活が「悪質だけどていねいな暮らし」になっていく、その描写がほんとうにツボ。
2013年時点では殺し屋にも一目置かれるような探偵になっているアイゼイア。2005年のまだカッコ悪い頃の姿を記憶しているのはドッドソンとデロンダくらいだ。ドッドソンはアイゼイアは常に上から目線で自分をバカにしていると感じているらしいが、同居時代のアイゼイアはドッドソンの世慣れた振る舞いに少し憧れていたような心中の描写があり、それを表に出さないようにしているところにニヤついてしまう。ドッドソンお手製のBLTサンドで、兄が死んで以来失っていた、食べ物を美味しいと思う気持ちがアイゼイアに蘇ってくるくだりもすごくない? BLじゃないっていうほうがおかしいよ、こんなの。2013年のドッドソンの家に行ってテレビの録画見ながら「なぜここで鑑賞することに同意したのか、そもそも、なぜそんなものを鑑賞すると言ってしまったのか、アイゼイアは自分でもわからなかった」って一文もなに? ありがとうね。
ドッドソンがやらかしたド級のバカ失態のために、アイゼイアが不本意ながらピストルを握ってしまうクライマックスは心で感謝の涙を流しながら読んだし、二人の和解の会話はもう…こんなに気が利いてていいのか。ここまで全然触れてこなかったけど、ピットブル事件をめぐる推理と音楽業界の裏事情も勿論めちゃくちゃ楽しみました。ネットフリックスとかでドラマ化したらすごい流行るんだろうなぁ。その前に表紙にドッドソンも描いてくれ。たしかに全くバディものを期待しないで読んだ私はものすごいお得感を感じられたけど、絶対アピールしたほうがいいでしょ。
Posted by ブクログ
シャーロック・ホームズのトリビュートものは映画なりドラマなりで多くある。この書籍もその一つ。
登場人物の心情を深く掘り下げ、行動に理由づけるところがコナン・ドイルのシャーロックらしい。
テンポの良い展開だったが、登場人物の描写が丁寧で散りばめられた付箋がしっかり回収されていくところはミステリーとして楽しい。続編もあるとのことなので読んでみたい。