【感想・ネタバレ】アートは資本主義の行方を予言する 画商が語る戦後七〇年の美術潮流のレビュー

あらすじ

「『資本主義の終焉』を読み解くヒントが、現代アートにここまで隠されていたとは驚きだ!」……水野和夫氏(日本大学教授)推薦! 現代アートは理解できない……。美術館に行ってもそんな感想をもつ人は少なくないかもしれません。ましてや一見ガラクタに思える作品の価格がじつは数億円、と聞けば、なんとなくうさんくさい……と感じる人すらいるでしょう。しかし、じつはアートこそが私たちの生きる現代資本主義を体現する存在、といわれたら、どうでしょうか。まさにアートの「価値」と「価格」の関係にこそ、モノの値段が決まり、ときにそれが暴騰・暴落する資本主義の本質が隠されている、と山本さんは語ります。山本さんがオーナーを務める東京画廊は、日本初の現代美術画廊であり、当時まだ無名だったルーチョ・フォンタナやイブ・クラインという、いまや数億円の価値がつく現代美術家たちを発掘した目利きの画廊。だからこそ、その言葉にはただの画商とはひと味も、ふた味も違う切れ味と重みがあります。そして、その「価値」と「価格」の関係は時代背景によっても大きく変わる、と山本さん。本書において敗戦後から現在のグローバル化にまでいたる社会変化とアートの潮流が論じられるのは、まさにそれゆえです。西欧から日本の「もの派」へ、さらには中国や韓国へ……。そうしてアートの「周縁」が時代とともに移動していく様は、グローバル化のなかで次の投資先を求めて資本が移動していく様と重なることでしょう。ならば、その先に資本主義はどこへ向かうのか。そのなかで、日本美術はどのような存在感を発揮できるのか。戦後アート論としても、資本主義論としても多義的な読み方ができる、どこにもない美術論です。 【目次】第1章:資本主義の行方と現代アート――絵画に見る価値のカラクリ 第2章:戦後の日本とアート――東京画廊の誕生とフォンタナの衝撃 第3章:日本発のアートと東京画廊の歩み――脱欧米と「もの派」 第4章:時代は西欧からアジアへ――周縁がもたらす価値 第5章:グローバル化と「もの派」の再考――世界と日本の関係 第6章:「武器」としての文化――美の本当の力とは?

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

ポッドキャストで著者のインタビューを聞いて、興味を持ち手にとった。
東京画廊の歩みが、そのまま戦後日本の現代美術の流れの中の大きな潮流であるので、それがエピソードとともに語られていると、より理解が進むように感じられた。

もの派が、戦後のどういう社会的、文化的な文脈から出て、現代でまた取り上げられることにどのような意味があるのか、日本の明治維新以前の精神構造とどのように繋がっているのか。
美術史の流れの中にお金というファクターを入れて見ることにより、各国及び日本が、アートや文化的なものを、どういうものとして扱い力を入れているのか。(著者の考えから見ると、日本はアートが経済に及ぼす影響、国の価値を高めるために利用する考え方において、そもそもあまりわかっていないし長期的な視点も欠けていると言わざるを得ないのが、納得だし残念)
これら、見えていなかったカラクリを解き明かしてもらったような感じもあり興味深かった。

また、イスラム国の文化財破壊についての見解は、目から鱗だった。




0
2025年11月08日

Posted by ブクログ

アートと資本、資本主義の関係を論じるなんてすごすぎ。著者の豊かな教養もすばらしい。目からうろこの一冊でした。

0
2018年01月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

アートは「美術」であると共に、「商品」である。
=アートという「商品」を人々が評価し「価値」をつけるから。

絵画の値段はあってないようなもの

絵画は究極の投資対象(伸び代が大きい、しかし時間は掛かる)

その社会での文脈によって絵画の価値は異なるからこそ、伸び代が生まれる。
(旧時代では価値のなかったものが、新時代においては価値を持ちうる。)

——

モノには「使用価値」と「交換価値」がある。

・使用価値:商品が日常の中で使われることで生み出される価値。
・交換価値:他の商品と交換するときの価値。

希少性と有用性は相反する。
=使用価値と交換価値は相反するものである。
この、使用価値と交換価値の乖離が資本主義社会の一つの特徴

つまり、使用価値が低いがゆえに、交換価値が高いという絵画は、資本主義社会の特徴を体現したものである。
(「商品」と「作品」がパラレルな形で価値の転換を体現している)

——

近代以前の絵画は何か(神)を伝えるための存在であった。
・神の存在が疑われたこと
・近代理性に対する懐疑と否定
により、現代アートが誕生した。

神から離れ、理性に対して不信感を持つというのは、ニーチェ、キルケゴールやショーペンハウエルから実存主義のサルトルに至る、近代から現代に続く哲学の至上命題。
→価値を転換することで、アトム化(孤独化)された個の存在が生まれた。
 →近代以降の「不安」 cf)芥川龍之介が「漠たる不安」により自殺する

すべての価値が絶対性を失い相対化する中で、唯一、芸術はその価値の転換を体現しがら、美という新たな求心性を持つ。

cf)文学においてのサルトルやボーボワールなどの実存主義
  絵画においての抽象表現主義などの現代アート

近代以降の西欧に起こった合理主義に疑問符をつけ、素朴な人間の生の存在や感覚に信を置く。

———

日本は高度経済成長期とバブル経済期でソフトパワーによる外交策に失敗した。
cf)1990年に日本人がゴッホとルノワールの絵画を250億円で落札。その金で『雪舟』(現在はボストン美術館蔵)を買い占めていれば日本の美の評価が変わっていた。

歴史的に見て、ギリシア文化やローマ文化、中国文化のように世界の覇権をとった文化が周囲に影響を及ぼし、さらなる統治を広げた。

覇権の変遷は絵画のマーケット変遷にも当てはまる。
フランス、イギリス→ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア→(第二次世界大戦)→アメリカ→中国

アートや学問は根本から基準を覆すことできる。だからこそ支配者はアートや学問を迫害する。
cf)中国の文化大革命、ナチスドイツによる『退廃芸術』の制限

日本は公共事業を中心とする「ハコモノ政策」で、外交ができない。
cf)フランスのポンピドゥー・センターやイギリスのテート・モダンが好例。

これからは、文化と経済、政治が有機的に結びつかなかければならない。

ーーー

村上隆の『スーパーフラット』
:日本の伝統的な絵画から、最近のアニメや漫画に至る独特の「平面性」、日本における正当美術とポップアートの区別の無さや、日本社会自体の階層性のなさといった、あらゆる場面での日本の平面性をひとまとめにした概念。

日本のオタク文化とアニメ・漫画文化の特徴を抽出し、そこに『新ジャポニズム』と新たな価値づけして売り出した。
=自らを言語化することで客観的に捉え、マーケットの中でどう位置づけるのか。

芸術活動や表現活動はお金が必要、だからこそ芸術家にもビジネスの感覚が必要。
加えて、歴史性と物語性が現在のグローバルな時代には重要。


———

「美」は距離感から生まれる。
:対象から離れてその関係性をあらためて見直したところに、「美」という概念が生まれる。

対象から離れることは、生活から離れ「用」の世界から離れるということ。
つまり有用性から距離をとること。


ーーー
<メモ>
漫画文化は、平安末期から鎌倉時代初期に生まれた『鳥獣戯画』、江戸時代の浮世絵や美人画、近代の藤田嗣治の少女の絵、それらに連なる。

0
2017年07月10日

Posted by ブクログ

アートの価値と価格とは何か?どうやって決まるのか?美術と経済という、一見相容れないものがいかに本質的につながっているかがわかった。戦後日本の美術史を通して資本主義とグローバル化を再考するアプローチはとても興味深かった。

0
2016年07月13日

Posted by ブクログ

日本で初めて現代アートを扱いはじめた画廊の二代目の方だけに若い頃からさまざまな芸術家や文化人と触れており、その蓄積が本著の考え方の基礎となっている。閉塞した社会にとって文化がいかに重要かをあらためて認識出来ました。

0
2025年01月03日

Posted by ブクログ

アートは経済、特に資本主義と密接に絡んでいるからこそ、いろいろのものが見えてくる。
価値観や思想、哲学、様々なものが込められ、今や音楽より批判精神が宿っているように個人的に思っている。
そしてアートから外れるが、最後の方に書かれている、低金利、成熟社会、高度消費社会、縮小する経済、少子高齢化、さらに自然災害に伴う原発事故など、日本の状況はある意味、資本主義社会の最先端というか、資本主義社会の未来であるという、日本を課題先進国との指摘は重く受け止めた。

0
2023年02月11日

Posted by ブクログ

アートと資本主義という相反しそうなものの理解が深まったと同時に、画廊という自分が触れることのない世界を知れて面白かった

0
2020年04月12日

Posted by ブクログ

言ってることは変わらないけど相変わらずおもしろい。ピカソがなぜ偉いか?の話は書いてない。でもそれもお話を聞いたときから時間が経っているってのがあるかも。たぶん取引情報とかから相場が作られるメカニズムがインターネットで格段に進歩していそう。

0
2017年09月19日

Posted by ブクログ

アートと資本主義は、一見相反するようなものに思えるのですが、アートは資本主義そのものを体現していることを説いた本で、非常に興味深く読ませていただきました。

高級時計を例にとるとわかりやすいのですが、資本主義経済では「使用価値」が低いものほど「交換価値」が高くなり、アート作品はその典型例だと説明しています。
そして、良い画家というのは作品を作る才能と同時に、その作品にどんな価値があるかを客観的に判断できる能力ある人で、千利休はその典型例で、当時中国一辺倒だった価値観を、日本独自の文化の価値体系を作った偉大な芸術家なのです。

また、マーケットの視点で見ると、マーケットは常に”中心”から”周縁”に移動するのが、資本主義の道理であり、アートも同様に近代ではパリからヨーロッパの周縁に伝播していきました。そしてその中心も欧州から米国に移っていったのですが、それからは日本を通り越して、現在は経済と同様に中国がアートの中心になっているのですが、経済、アート共に、中国の次の世界が育っていないのが、世界の閉塞感につながっているのです。

このように、アートの視点から世界経済を的確に観察しているの視点は、非常に勉強になりました。

0
2017年06月11日

Posted by ブクログ

切り口が斬新な本だと思いました。
芸術を鑑賞する力をもっと身につける方法を鍛えても良いのではないか。という提言は腑に落ちました。というのも、アート=創作力の方にフォーカスが当りがちです。とかく創作に全く興味がない自分は、鑑賞する方が好きなので、こういうことを述べている本と出会えて心強かったし、良かったと思いました。

この本で一番インパクトがあった記述は下記の部分でした。強い印象が残ったので、そのまま抜粋して書いてみます。

「ISISは、資本主義的な価値観とは正反対の価値観を持っています。憎き資本主義に対するアンチテーゼとして、歴史的な遺産や芸術品を破壊するということは、彼らにとっては必然的な行為。皮肉なことに、彼らが遺産を破壊すると欧米にある芸術品が高くなる。」

という部分です。

著者の方はこの本が初めてのようですが、他にも出版されたら読んでみたい。と思わせる個性が凄く有りました。

0
2016年09月18日

Posted by ブクログ

アート、特に現代アートはさっぱりわからなくて少しでもわかりたいと思って読んだ本。
一見全く訳がわからないアート、なぜ数億円もするのかわからないアート、それらにもちゃんと意図が、理由があり、それをすごくわかりやすく説明してくれている。
まずは本物の作品をわからなくてもたくさんたくさん見て、アートを視る感覚を身につけたい。

0
2022年05月06日

Posted by ブクログ

平易な文章で画廊とアート、アーティストの発掘、アートの価格の推移、アーティストによる自作の解説と価値の構築などを業界構造を述べてある。

0
2016年11月16日

「ビジネス・経済」ランキング