あらすじ
ドイツ軍の電撃的侵攻の前に敗走を重ね、機能不全に陥ったフランス軍。危険だがもはや無益に等しい偵察飛行任務を命じられた「私」は、路上に溢れる避難民を眼下に目撃し、高空での肉体的苦痛や対空砲火に晒されるうち、人間と文明への《信条》を抱くに至る。著者の戦争体験に基づく小説。
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Posted by ブクログ
❐1939年・1940年ごろ
『戦う操縦士』の現実でのある一日。思考ではサン=テグジュペリ(以下サンテックス)の半生を巡る。
❐1940年
パリ陥落のためフランスとドイツの休戦協定締結。サンテックスはアメリカに向かう。
❐1941年
『戦う操縦士』執筆で、アメリカ参戦を促す。
真珠湾攻撃・アメリカ参戦。
❐1942年
『戦う操縦士』刊行
第二次世界大戦でフランスはドイツに苦戦していた。
フランス空軍で操縦士だった大尉のサンテックスは、デュテルトル中尉、機銃員と共にアリアス隊長からアラスまでの偵察飛行に任じられた。
…すみません、画像として飛行機の希望がわからない…。縦に三人乗り??サンテックスが操縦、デュテルトルが通信とか機械確認、機銃員が攻撃??
物語は、基地を飛び立ち、退去命令されたフランス一般人の混乱を見たり、ドイツ機に銃撃されたりしながら基地に戻るまでなので現実時間はほんの数時間かな?
しかしその飛行の中でサンテックスは、いろいろなことに思いを馳せる。
一応小説なのかな。戦争だし命がけなんだけど小説の書き方として「現実⇒思考⇒現実⇒過去⇒現実⇒思考」となるので全体的に浮世離れしているような、常に生死の境にいるとこんな「時間が止まった感覚・心は彼岸へ」になるのだろうか。
印象的だったところ
偵察に行くときに「気をつけろ」とは言われるけど、空の接触なんて一瞬、ドイツ機と上下離れていたらお互い気が付かないことだってあるし、気がついたら撃ち落とされてるんだよー、という現場の声。
何ページか忘れたが「人間とは関係の結び目だ」ってところ。
P80あたり:
サンテックスの同僚が爆撃機からパラシュート脱出して大怪我した時に「爆撃された時は困りましたよー。乗組員は誰も答えなくて(即死していた)、自分は翼の上に出てなんだかくつろいだ気持ちになってしまったんです…」
P144あたり:
退避勧告が出た村で、行く当てもないのに全てを捨てて出ていくのか、どうしたって残るのか悩む村人たち。
P184から:
飛びながら幼年期のことを思い出していた。顔も覚えていない、むかし子守だったポーラの手紙を楽しみにしていた。そのポーラの思い出と現在のドイツ機からの攻撃が重なる描写。
<聞いたかい、ポーラ?敵の攻撃が激しくなってきたそうだ。それでも私は、この夕暮れのあおさに驚かずにいられない。実に素晴らしいのだ!その色はどこまでも深い、それにどこまでもつづく果樹、あれはスモモだろうか。(P188)
P209あたり:
幼い弟の死の床で、自分を呼んで「遺言」したこと。
本書はアメリカ参戦を促す糸があったということで、終盤はフランスを離れてフランス国家のこと、人類のことや個のこと、宗教のことなどの哲学論文のようになります。
<これまで私はいくつもの冒険を生きてきた。郵便飛行航路の開拓、サハラの不帰順地帯、南米大陸…それに比べて、戦争は信の冒険ではない、せいぜい冒険の代用品と行ったところだ。冒険というのは、それが築き上げる絆や投げかけてくる問題、そしてそれに触発されて生み出されるものがいかに豊かであるかにかかっている。コインの表か裏かで決めるような単なる運任せのゲームを冒険に帰るためには、生死をかけるだけでは駄目なのだ、戦争は冒険ではない。戦争とは病気だ。チフスのような病気なのだ(P96)>
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第二次大戦における作者の操縦士としての体験に基づきながら、自由な精神性が失われる「戦争」に対する強烈な批判と理不尽さに対して行動=戦う情熱を示している。「したがって、私が戦うのは、それが誰であれ、… 他の思想に対してある個別の思想だけを押しつけるものだ」(P296)のくだりが響く。
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敗北感漂うWWIIの戦禍を掻い潜り
「なぜ自分が死ななければならないのか」と問い続ける自伝的小説
目的を意識して行動する昨今の私達とは違い、志願して上記の命題に辿り着き、戦線でその問題の解答を得た作者の知見に胸を打たれました
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偵察機パイロットの話。作者の小説の中で総合的にいちばん好きです。昨今の情勢を見るに、この本の平和の定義が染みます。ラストの締め方には賛否あるみたいですが、個人的には秀逸だと思います。
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星の王子さまで有名な著者の体験をもとにした戦記。舞台はWW2、フランス。敗色が濃厚なフランス軍の偵察機に乗り込み、敵国ナチスドイツ陣地を偵察する決死のミッション。飛行機乗りならではの俯瞰視点、空戦、地上戦などの戦闘シーン。高度を下げて危険な偵察で砲撃されるシーンは迫力もあるけど、なんともファンタジックな表現が印象的。
FPSゲームのバトルフィールド5のキャンペーンが短かかったから欲求不満だったけど、この本で臨場感ある戦場の爆音、爆風などを追体験。
実際の戦場を見た著者の死生観、戦争観なども興味深い。
いっそゲーム化してもイイぐらいのボリューム。
Posted by ブクログ
サンテグジュペリの最後の作品。
出された当初は戦争真只中といふこともあり、民主主義からの返答と呼ばれてゐたやうだが、本人はそうした思想やらイデオロギーやらをもつてものを書いてゐたとは到底思へぬ。
ただひたすらに空を求め、彼にできること、さうせずにはゐられぬことを粛々とこなしてゐたにすぎない。それがばかげた作戦であらうと、とち狂つた戦争であつたとしても、彼は空を飛び、作戦をこなす。最後まで、空を目指し、そして考へ続けた。
軍人である以上、命令は絶対であり、ただ従ふより他ない。そして、相手を殺すといふことは自分も殺されるといふこと。無条件に死を受けれいることだ。しかし思想とは常に行動だ。考へることそのものが行動だ。彼にとつてそうせずにはゐられないもの、存在に対する慈しみだ。
この世に産み落とされてしまつた以上、誰かと関係せずにはゐられない。生まれ落ちた場所で、たくさんの人間と出会ひ、取り返しのつかない、体験と記憶を積み重ねていく。それが愛となり、犠牲となり、絆となる。存在とはさうしたものの積み重ね、結び目でしかない。その結び目は目に見えず、いとも簡単にほどけて消えてしまふ。しかし確かに存在する。
どんな人間であつても、その絆をもつといふ点では共通する。この名においてより集団として存在することはできない。
彼はさう信じてそして自らそのために死んでいつた。マルローが敗北のわかつてゐた戦争の中で《希望》と呼んでゐたもの、彼はそれはどんな時でも飛ぶことだつた。
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解説にあるように、これはまさにイニシエーションの、通過儀礼の本だ。
こんなあからさまに素直な言葉を重ねていけるものかと驚いた。
人は肉体でもなく精神でもなく、行為だ、というあたりは感動した。プラトンよりもアリストテレスよりもデカルトよりも《人間》なのだ。
出撃というイニシエーションを通して全く世界が別のようにみえるその前とその後を描いている。
後半は正直言って、ちょっと長い。これは時代の、状況のズレによるものなのか、前提とするものが少し違うし、重ねるべき言葉の量も違うのだろう。
人は行為のなかにある。
Posted by ブクログ
著者の実体験に基づく小説。フランス軍の偵察機パイロットとして戦争に参加する。海外文学の翻訳本としては読みやすいと思います。「光文社新訳文庫」。
「人が死ぬことができるのは唯一、それなしでは自分が生きられないもののためにだけだ」
印象に残った言葉です。
「ちいさな王子」が表の名作ならこちらは影の名作といったところでしょうか。
Posted by ブクログ
戦争への怒りを表しながらも、
祖国のために行動することが重要と説く。
そして、行動を起こすためには、
人としてどうあるべきかを、
自身の戦闘経験を踏まえて表現した作品。
先に「最終飛行」を読んでいたので、
時代背景が理解しやすかった。
最終部で「神」についての言及が増えるのは、
キリスト教を文化とするアメリカに
参戦を呼びかけるためと思われる。
Posted by ブクログ
1940年ドイツに侵略され敗北しつつあるフランス軍の偵察機に乗り、もたらした情報を有効に使う友軍がいない中を、帰還がほぼ絶望的な命令に従って出撃して生還した飛行を振り返るサン・テグジュベリの小説。この物語がフランスが降伏した後、亡命したアメリカで執筆されたことを差し引いたとしても、自由や平等について記された言葉は重い。「私は信じる。<人間>の優越こそが唯一意味ある<平等>を、唯一意味ある<自由>を築き上げるものだと。…<平等>とは<同一性>ではない。<自由>とは個人を<人間>よりも賞揚することではない。したがって私が戦うのは、それが誰であれ、<人間>の自由をある個人にーあるいは個人からなる群れにー隷従させようとする者だ」
Posted by ブクログ
「人間の土地」や「夜間飛行」と同じスタンスで
読み進めていましたが、本作は負けると分かっている
戦争での不可能であろうと思われる任務である
偵察飛行を遂行し、帰還するまでが描かれており
その中で著者が思い巡らしたことが
書かれてるのか?と思っていたものの途中から
違和感を覚え…
「結局のところ、なぜ我々はいまだに戦って
いるのだろうか?《民主主義》のため?(中略)
ならば《民主主義陣営》のほかの連中も一緒に
戦ってくれればいいじゃないか!」(P179)と
他国を攻める姿勢になり、名指しはしないものの
アメリカを非難します。
すでにアメリカではベストセラー作家であった
著者のこの作品の目的は「祖国の立場を弁明し、
民主主義という大義を共有するアメリカがヨーロッパの
戦争に参戦するよう促すことである。」(P312)
でしたが、本作の発売前にアメリカは参戦し、
その後、「アメリカの読者はこの作品を、今や
戦友となったフランスの勇気ある戦いの記録として
熱狂的に受け入れた。」(P312)ということでした。
とても素晴らしい作品ですが、今後こういった
目的で書籍が作り出されることがないことを
願うばかりです。。
Posted by ブクログ
人は何のために生きて、何に命を賭けるのか。
人間とは?個人とは?
戦争体験から生まれた思考はとても哲学的で、はっとさせられる記述もあり、すぅっと読めます。
やはりサンテグジュペリは面白い。
ぜひ。
Posted by ブクログ
ほぼ死の宣告と同じような無謀な飛行機偵察任務を命じられ、何のために死ぬのかも分からぬままに飛び立った主人公が死という犠牲の意味、人間とは何かなどを死線をくぐることで悟っていく物語。
敵の集中砲火の中をぎりぎりでくぐり抜ける偵察任務はサン・テグジュペリの実体験をもとに描かれているだけあって非常に生々しく緊迫度が高いが、この話は任務より任務中の主人公の内省、そしてその思考が哲学的に高まっていく様子が主な内容になっている。
難しいところもあって読んで全部理解できたとは到底言い難いのだが、人間は「さまざまな関係の結び目」であり、戦友、軍、祖国という「自分が結ばれているもの」のためにこそ戦い、死ぬのであるという悟りに主人公が徐々にたどり着く過程は熱かった。
この小説はあっさり敗北したフランスの立場を擁護し、アメリカの参戦を促すという第二次世界大戦中での明確な目的を持った本であったということだが、ここで展開される哲学には普遍的な響きがある。それはサン・テグジュペリ自身が死地へ赴き、命を懸けて獲得したからこその哲学の強度なのだろうと思った。行動こそが自分だというようなことが作中にも書いてあったが、実際の体験に深く裏打ちされたテグジュペリの〈信条(クレド)〉が最後に燦然と提示される時、その力強さには胸を打たれた。
Posted by ブクログ
いつかの『新潮』で山内志朗が面白いって言ってたから読んだ。
第二次世界大戦下で敗北が決定的なフランス。そのなかで敵地での偵察非行に向かう主人公。負けがわかっている(何も守るべきものがない)中で「何のために死ぬのか」という命題を問い続けた筆者の葛藤を自伝的に描き出した小説。
自分には内容が少し難しかったけれど、「人間は関係の結び目である」とか身体ではなく行為の中にその人が宿るみたいな印象に残るフレーズが多くて面白かった。
Posted by ブクログ
ヒトラー『我が闘争』に対する「民主主義からの返答」として高く評価される。という書評が気になってしょうがなかったので、「ちいさな王子」に続いて読んでみた。
1940/5/23の、電撃戦直後のフランス軍偵察飛行1日のお話。
両世界大戦とも早々に降伏しておきながら、戦勝国然としたフランスには、決していい感情は持ってなかったが、負け戦ながら、懸命に抵抗する姿勢に感銘を受けた。また、「民主主義陣営の中でも最強のやつ」としてアメリカの参戦を待ち望む雰囲気が、よく分かった。
P302 最後の一文
明日も、われわれはなにも言わないだろう。明日も、傍観者たちにとっては、われわれは敗者だろう。敗者は沈黙すべきだ。種子のように。
P296
私は信じる。《人間》の優越こそが唯一意味ある《平等》を、唯一意味ある《自由》を築きあげるものだと。私は《人間》の権利が各個人を通じて平等であると信じる。《自由》とは《人間》の上昇にほかならないと信じる。《平等》とは《同一性》ではない。《自由》とは個人を《人間》よりも賞揚することではない。したがって私が戦うのは、それが誰であれ、《人間》の自由をある個人にーあるいは個人からなる群れにー隷従させようとする者だ。
P67
ある女性を美しいと思うとき、私には言うべきことはなにもない。ただその女がほほえむのを見るだけだ。インテリ連中はその顔を説明しようとして、分解してからそれぞれの断片を分析するが。もはやほほえみそのものは見ていない。