あらすじ
人の世と山との境界に、夫の伊久男とひっそり暮らす老女、日名子。雪の朝、その家を十八歳の真帆子が訪れた。愛する少年が、人を殺めて山に消えたのだという。彼を捜す真帆子に付き添い、老夫婦は恐ろしい山に分け入ることに。日名子もまた、爛れるほどの愛が引き起こしたある罪を、そこに隠していたのだ──。山という異界で交錯する二つの愛を見つめた物語。島清恋愛文学賞受賞。
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Posted by ブクログ
2013年刊同名単行本の文庫化。島清恋愛文学賞受賞作。
陽介を探しに花粧山に登ろうとする真帆子は、雪の中、車道がなくなる山裾の一軒家にたどり着く。陽介は幼馴染みで、好きだったのに遠ざかって別の高校に通っていたが、1年前の雪の日に父親を刺し殺して行方不明になっていて、花粧山に行きたいと書いていたことを知って、大学に合格した真帆子は山に向かっていた。
一軒家に住む伊久男と日名子の老夫婦は、人の世界と山の境にいて、思い詰めて山に向かおうとする人たちを迎え入れて休ませ、ある者はそこから戻り、ある者は山に入って帰ってきたり、帰ってこなかったりするという話を聞かせ、1年前に陽介が来て山に向かったが帰ってこなかったことを教えると、真帆子は山に入る決心をする。
老夫婦は止めるのだが、真帆子に同行することを決めて、知人に飼い犬を預ける。後半は山を登る途中での「天神事件」の関係者だという日名子の打ち明け話で、一気に主人公が変わってしまう。
日名子は旧家の息子に見初められて嫁いで12年たって、夫が連れてきた同僚の伊久男と恋に落ちて家を出たが、その元夫は自分の両親、姉とその子を日本刀で殺し、日名子たちの家に押しかけてきて母親を殺し、日名子に襲いかかるが伊久男ともみ合うところを日名子が刀で反撃したため逃げ、花粧山で車が見つかった。その後日名子と伊久男は、あちこちを転々とするが、結局山に戻ったが、山には入ったことがなかった。
真帆子は山の上で陽介を見つけ(亡霊じゃない!)、罪に向き合うように諭して山を下りるが、日名子と伊久男は雪崩に飲み込まれてしまう。陽介が刑務所から戻るのを待ちながら、真帆子は山裾の一軒家で日名子たちの代わりを務めている。
ここ数年仕事で修験道の資料を読んでいるが、昔は山は畏敬の対象となる聖域であって、けっして楽しみで登るものではなかったのだが、日名子の感覚はそれに近いものがあると思う。
Posted by ブクログ
島清恋愛文学賞受賞作品。あさのあつこさんと言えば、今まで児童書作家のイメージしかなかった。
最近、恋愛小説も書かれるのだな。と思っていたけれど、この作品はいろんな意味で深い。愛する人と死をわかつまで一緒にいるという覚悟を、真綿で首を絞められるよう問われる気分。深く熱い熱量がじわじわとくる感じ。あさのさんの懐の深さを感じました。
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山と人間の関わりは深く、昔からだと言われてる。人の魂は、山に帰り、山には神様がいると信じられてきた。そんな神聖な山をテーマに、女の情愛と山を見事に書き上げている傑作である。
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人の踏み込めない領域で起こること。
ファンタジーと括って良いものなのか、神々の仕業か、はたまたその領域で起こる自然現象なのか。
自分に理解できないことを脳内補完しがちだが、「わからない」とする方が潔い。
理屈ではない。
人の力、意思でどうにもならないことはいくらでも存在する。
科学者が立ち向かうのなら兎も角、只人が無意味に抵抗したところで事実が捻曲がる。
山で起こることも人の中で起こる恋愛感情も、根底では同じなのかもしれない。
世界観を丁寧に丁寧に綴られた一冊。
素敵な本だった。
Posted by ブクログ
日名子のゆったりとした語り口に添って、発せられる一言一言に真剣に耳を傾けた。山という異界で交錯する二つの愛を見つめた物語。島清恋愛文学賞受賞作品。なんという恋愛小説だろう。心を震わせる名作。
Posted by ブクログ
「BOOK」データベースより
「離さない。絶対に離さない。もう二度と、行かせたりしない」ここから人の世が尽き、山が始まる。そんな境界の家に暮らす老夫婦の元へ、一人の娘が辿り着いた。山に消えた少年を追っていると言う。しかし山はそう簡単には、人を受け入れない。人でなくていいのなら、越えてしまえ―。狂おしいほどの想いにとらわれ、呼ばれるように山へ入った人々の赦しと救いを描く慟哭の物語。
バッテリーのような青春物では無いなかなか珍しいあさのあつこです。ファンタジーです。