あらすじ
人当たりがよく、優しい言葉をかけ、魅力的な人柄。だけど、よくよく付き合うと、言葉だけが上滑りしていて、感情自体は薄っぺらい……。このような人格の持ち主を「サイコパス」と心理学では呼ぶ。近年、犯罪者の脳の機能や構造などが明らかになり、サイコパスの正体が明らかにされつつある。本書では、最先端の犯罪心理学の知見にもとづいてサイコパスの特徴をえがき、ヴェールに包まれた素顔に迫る。
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Posted by ブクログ
「このような(相手を魅了する)特徴を備えた者だからこそ、サイコパスは、連続殺人事件のような特異な事件を起こすことができるのだ。連続殺人事件を犯すためには、数多くの被害者を言葉巧みに誘い出して魅了することができなければならない」
恐ろしい、シリアルキラーというイメージのサイコパス。本書では、サイコパスの特徴、原因などを科学的に解説するが、サイコパスの責任能力の議論では「自己とは何か」を問うたり、人類全体の遺伝子プールとしてサイコパスが現代にも存続している可能性に言及したり、ヒトラーを選んだようにサイコパスを指導者に選ばないようにする必要性を訴えたり、と単なる科学的な側面だけでなく哲学や社会についても考えさせられる良い本であった。
サイコパスの発生率が一般社会で1%であるのに対し、組織内の指導的地位にいるものに占める割合は、4%にも上る。アメリカやカナダではビジネス・スキャンと呼ばれる職場用サイコパス・チェックリストを用いる会社が増えており、その結果、上司のサイコパス特性が強かった者は、職場のストレス、仕事・家庭の軋轢が大きく、仕事の満足度が極めて低かった。また、ホワイトカラー犯罪や企業犯罪とも関連が深い。このような問題に対して、組織の問題性に焦点が当てられる事はあっても、個人のパーソナリティ、特にサイコパス特性に言及される事はないが、組織の分析と同時に個人の分析も重要である。これからの企業や組織の危機管理対策の一つとして、健康診断やストレスチェックと同様に、ビジネス・スキャンなどを用いて、心の健康状態の実施を考慮する余地はある。これにより、リスクの高い者を相応しくない地位につかせることを効率よく回避できる。
サイコパスを反社会性と能力の高低から「成功したサイコパス」「よいサイコパス」「凶悪犯罪者」「軽犯罪者」の4パターンに分類している。かつて高校の或る同級生に違和感を感じていたが、まさしく「よいサイコパス」に該当する事にゾッとした。対人因子(表面的な魅力、尊大な自己意識、他者操作性、病的な虚言癖、長続きしない婚姻関係)、感情因子(良心の呵責や罪悪感の欠如、浅薄な情緒性、自己の行動に対する責任のなさ)、生活様式因子(衝動性、刺激希求性、行動コントロールの欠如、現実的で長期的な目標欠如、無責任性、寄生的ライフスタイル)全てに当てはまる。彼は開業医の家に生まれ、生育環境が良かったためか、幸い反社会性因子を持つことなく「個性的で魅力的な人」と見なされていたが、付き合いが長くなればなる程、周囲の人は彼の他者操作性や数々の嘘に疲れて彼から離れていった。サイコパスは遠い世界の話ではないと実感した。
サイコパスは遺伝プラス環境の2つの要因があり、遺伝的特性を持つ者が必ずサイコパスになる訳ではない。40年間の長期追跡研究では、「父親の不関与」「身体的ネグレクト」「父親または母親が犯罪者であること」「世帯収入の低さ」などが環境要因として有意に差があり、特に「父親の不関与」に関しては6.5倍もの差があった。しかしながら、サイコパスの形成には生物学的要因の方が大きい。環境要因についても、自分が選ぶ環境は本人の遺伝子が選んでいるという指摘は目から鱗の考え方だった。
死刑制度は「罪を恐れない」「罪の効果がない」サイコパスに対する抑止効果はない。また、恐ろしいのはサイコパスに対し適切でない治療を行った場合、却って再犯率は上がり、学んだ事を悪用し次の犯罪に役立てている。適切な治療を施す仕組みを整えて欲しいと思う。
Posted by ブクログ
心理学的視点からだけでなく、脳科学的、生物学的、社会学的側面など様々な角度でサイコパスというものを分析している。そのため、終始新鮮な気持ちで読むことができる。
Posted by ブクログ
興味本位で取り上げられがちなサイコパスをしっかりとエビデンスに基づいて解説した良書。筆者の広範な知識となによりも実践に裏打ちされた解説は説得力がある。アプローチの方法も多様で飽きさせない。
Posted by ブクログ
学術的視点から綴られた、サイコパスについての一冊。
著者による考察もあるが、ほとんどが研究の歴史と結果や事実の紹介です。
淡々と驚きの真実が語られ、情報量の多い新書という印象を受けました。
日本で起きた最近のものを含む犯罪もサンプルとされています。
18歳になった男性に脳スキャンとDNA検査を義務付ける「ロンブローゾ・プログラム」によって、潜在的な犯罪者が隔離・治療を強制される未来を想像しました。
提唱者エイドリアン・レインに興味を持つ切っ掛けになりました。
Posted by ブクログ
学術的なサイコパスの定義と世俗的なサイコパスの解釈の違いがあることは覚えておかなければならない。 人口の約1%がサイコパスだと言われているのだから。
Posted by ブクログ
こういった犯罪系の分野にうとい自分にとって、専門分野としても勉強になったし、何より読みやすかった。ミクロな視点とマクロな視点、科学的なエビデンスや哲学的な考察など、色んな角度からの視点が書かれており、何度か読み返したいと思えた一冊。
P231
■マクロな視点から見たサイコパス
病気を克服し生命を守ろうとして医学が進歩したが、超高齢化社会や人口増加に歯止めがかからない。幸福を追求しようとして産業が発展したが、環境破壊や地球温暖化は悪化の一途である。自らの国を守ろうとして多くの兵器を開発したが、地球を破壊するほどの核兵器を保有するに至った。人類はまさに、地球と言う乗り物、知恵と言う毒針で何度も何度も続けるサソリのようである。サイコパスも、鋭い毒針で周囲の人々を刺し続けるサソリである。
しかし、サソリの毒がサソリという種の繁栄のための武器であったのと同じように、また、人間の知恵が、人間という種の繁栄のためには必須の武器であったのと同じように、サイコパスの得もサイコパスの生き残り戦略のためには「適応的な」ものであったのだ。だからこそサソリもサイコパスも、滅びることなく存続し続けている。
■進化論的な意味から見るサイコパスの存在意義
サイコパスのように利己的にしか生きれないものは、他のおとなしい者を出し抜いて生きていくことができる。それは進化論的な意味では、生き残り策としては効果的だったのだろう。そしてそれは、悪意を持ってそうしていると言うよりは、そうするようにできているというだけのことである。
サイコパス特性の全てが「悪」で、人類に会をなすものとは言えない。強いリーダーシップや冷徹な判断力が、我々の生存や進化に役立つこともある。社会には果敢にリスクを取って前進したり、外敵と戦ったりするものも一定以上は必要なのだ。サイコパスがどの社会にも1% 程度はいるということは、それが進化にとって最も適切な割合であるとして神の見えざる手によって配分された結果なのかもしれない。
■現代においてどうしても気ををつけるべきこと
P238
進化論的な意味からはサイコパスの存在には人類にとってそれなりの意味があり1つの個性として共存するしかないことを述べたがしかしやはり、核兵器時代の現代においてはどうしても気をつけなければならないことがある。それはシリアルキラーによる犯罪でも身近な隣人のサイコパスによる迷惑でもなくサイコパスを指導者として選ばないと言うことだ。いかに表面的にカリスマ的魅力があり、響きの良い言葉を操り、強い言葉で感情揺さぶられようとも、その正体を見極める目を養わないといけない。
乱世では革命家として国民から熱狂的な支援を得た指導者が、平和な夜になると独裁者に変貌遂げる事は、洋の東西を問わず珍しいことではない。ヒトラーを選んだドイツ国民はもうほとんどが死に絶えているかもしれないが、この民主的の時代でもサイコパスの弁舌に乗せられて彼らを指導者に選んでしまう国は歴然として存在している
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サイコパスは良心や共感性が欠けている。その例として著者が出会ったサイコパスや日本で起こった事件、有名な人の例が取り上げられていて、とても興味深くおもしろかった。サイコパスについての研究や治療についても触れられていて、サイコパスとは一体どういうものなのかがわかりやすく説明されている。
Posted by ブクログ
巷で何かと話題になる“サイコパス”を科学的にアプローチした一冊。
統計的に見て1%のサイコパスが存在していると考えると映画や本などのフィクションの存在ではなく、身近にあるものとして考えた方が現実的。
併せて他人事ではなく自省することも必要だと感じた。
発達特性のように多様性を理解しつつ、対応していくことが大事。
著者の原田先生が仰るように、偏った捉え方をせず多角的に見ていくことの重要性を再認識。
Posted by ブクログ
科学的視点で見たサイコパスの話から最終的には哲学の話へ。
人類が生き延びるためにサイコパスという存在は必要かもしれないという考えは理解したが、やはり残虐な殺人や動物にひどい苦しみを与え殺してもなんとも思わない彼らは恐ろしいし本当に世の中に必要な存在なのだろうかと思わずにいられない。
脳の病気だから仕方ないですむのだろうか。
Posted by ブクログ
サイコパスは"良心が欠如していること"と定義されるようだが,犯罪者になる悪い面ばかりでなく,成功する場合もある由.ビジネスの場での事例などが詳細に示されている.症状としては,他人の表情を見分けることができないとか何例が出てきて,治療方法も紹介されているが,難しい感じだ.最後に出てきた「サイコパスを指導者として選ばないこと」が重要だとあったが,安倍は大丈夫かな?
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いや、存外面白かった。
サイコパスに正面切って接して来た著者。
綺麗事ではない、サイコパスは、欠けている。それは、もう気持ちとかの問題だけでなく、欠けているのだ。そうしてそう言う人間は一定の割合で現実に存在している。
その怖さ。
だが、この著者のすごいと思ったのは、元々人間というのは過酷な環境にあり、その中でサイコパスというのは一つの利点でもあった。環境は穏やかになって来たからこそ目立つ、あるいは不適合とされるのであって、英雄と呼ばれる人間にもサイコパスの要素が見られることは多見される。
人間という種を考えた時に、サイコパスは、それだけで排除されるものではない。
うーん。
やってはいけないのは、サイコパスを、指導者にすること。
なるほど。
Posted by ブクログ
サイコパス=犯罪者ではない。成功して社会に馴染むサイコパスもいる。サイコパスは身近にいる存在。心理学用語とサイコパスについて理解を深められる良い本でした。
Posted by ブクログ
サイコパスとは良心を欠いて生まれた人々。専門家によれば、程度の差こそあれ人口の1%は該当するという。スティーブ・ジョブズやトランプ大統領に関する考察も参考になるが、サイコパスの原因についての科学的知見や、その存在に対する歴史的視点を踏まえた捉え方が参考になった。
Posted by ブクログ
サイコパス→良心や不安、抑制が働かず社会的な悪とされる行為や振る舞いをしてしまう。
サイコパスの原因は生まれも育ちのどちらも関係。しかし遺伝によるものが強いと数々の実験から伺える。
一般社会にもサイコパスは存在する。人口の1%
もしかしたら自分もサイコパスかも
妊娠中の飲酒、喫煙、薬物摂取は体内の子供に致命的ダメージ
スティーブンピンカー→人類はどんどん平和になっている(暴力が減っている )
→サイコパスがより目立つように
→これから、サイコパスという性質により淘汰圧がかかるのかな。
サイコパスは自身がサイコパスである自覚や行動や発言に問題があるかもしれないという自覚がない事が多い→サイコパスっぽいなと思ったら自分から距離を取る、話を鵜呑みにしない、客観的事実に基づく、プライベートなことを話さないなどの対処が必要
Posted by ブクログ
・凶悪な殺人鬼はサイコパスの中でもごくわずか。
・服役を終えても再犯率は高い。
・刑務所では模範囚となる。
・頭のよいサイコパスは多い。
・他人から信頼されるテクニックを持っている。
・共感するフリがうまい。
・どこの国でも昔からある一定の割合で存在する。
・存在し続ける理由は社会にとって必要だからか?
・本心から他人を思いやることはない。
Posted by ブクログ
人口の1パーセントいるという、良心や共感が欠如したサイコパス。公立の小中学校だと、濃縮されて数パーセントはいるだろう。つまり、クラスに一人はいる現実に、どう向き合うのか、気分が重くなる。「おわりに」に書いてある、サソリとキツネの物語は、意義深い。
Posted by ブクログ
サイコパス解説本。著者の原田氏は真面目な精神科医であり、本書は中野氏の本の100倍はマシ。ただやはりどうもなあサイコパスってそんなにいるのかしら。100人に1人って多すぎな推測でしょう。それにジョブズ氏やトランプ大統領など現実の人をサイコパスと決めつけるのはどうかなあ。もっとサイコパスな政治家いたでしょう?毛沢東やポル・ポトならわかりますよ。治療も紹介されているけど、治療されてしまったら、その人はそもそもサイコパスじゃないんでは??との疑問は消えない。サイコパス的性質を持つ人が大勢いて、中には環境によってその性質が顕在化したけれども、良い環境下ではその性質から抜けうるというのであればわかるんだけど。