【感想・ネタバレ】鳥たちのレビュー

あらすじ

「私たちはまだ呼ばれているのかもしれない。あの土地にしみついた死の匂いに」――それぞれの母親を自殺で失った大学生のまことパン職人の嵯峨。まこは日々、喪失感に怯えては嵯峨の子を欲しがり、そんなまこを嵯峨は、見守っている。お互いにしか癒せない傷を抱えた二人。少しずつ一歩ずつ、捕らわれていた過去から解き放たれ、未来へと飛び立っていく。大人になる直前の恋と、魂の救済の物語。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

よしもとばなな氏は1987年に『キッチン』でデビュー。
その後ヒットを連作。父親は批評家の吉本隆明氏。
なお本作は2014年の作品。

・・・
主人公の女子大生まことは、彼氏の嵯峨の子を宿すことを夢見つつ演劇に没頭する。

まことと嵯峨はどちらも親を自殺で亡くした遺児。彼らはいわゆる新興宗教のような共同生活を米国で送っていた。そのトップが亡くなり、それを追うように嵯峨の母親が後を追い、そしてまことの母親も、ある日ふつっと自死してしまう。

彼らはその後日本に送還され、施設を経て世に出るが、その経験の衝撃の大きさ故周囲からは浮いてしまう。

まことは子どもより死を選んだ母親への複雑な気持ちを克服できずにいるが、嵯峨との会話や大学の担当教員の末長教授との会話などから徐々に過去ではなく将来へ目を向けるようになる。

・・・
やや重苦しい雰囲気の作品、というのが印象でした。

そして章立てがなく、数行の空白を区切りとして置く以外には特段切れ目がない構成となっています。

このため、読者は常に主人公まことの視点で、日常が日常故にだらだらと続くような感覚が読んでいてありました。

なお、日常というのは、学校での演劇のこと、級友や面倒な先輩のこと、彼氏の嵯峨のこと、そして母親の死とそのわだかまった気持ち・それを起因とする悪夢のこと。

また、このまことというのが、過去の親の自死を精神的に克服できていないため、嵯峨に強くあたったり、時に上から目線で同級生を眺めたり、やや必要以上に「自分は周囲と違うんだ」感を出すような記述になっていました。

私なぞは、読んでいて感情移入がどんどん解けてゆき、むしろ冷静に数歩下がってこの女性主人公を見るような気分になりました。とりわけ筆者自身によるあとがきがややファンタジー的な書きぶりで、これを読んだあと、本作の感想はちょっと揺らいでしまったのは事実。あとがきは読まなかった方がよいかも、と密かに思いました。

ただ、自死遺族の気持ちを綴るという意味では貴重な作品だったと思います。

私の高校時代の友の一人も、奥さんと子ども一人を残して、自死してしまいました。かれの子ども、妻、両親はこの主人公と似たような気持ちになるのかもしれない、と思いつつ読み進めました。

・・・
ということで、よしもと氏の作品でした。実は初めてだったかもしれません。

本作後書きを読み、更にwikipediaを読むと、大分印象が変わったのは事実です。

優先度はやや下げたうえで、今後もトラックしてみたいと思います。

0
2025年04月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「よしもとばなな」と名乗っていた時代の、最終盤のころの作品か。
先日読んだ、宮本輝との対談のなかで触れられたいた作品。

その後の「ふなふな船橋」「不倫と南米」といった作品より、より昔読んだ、ばなな作品のトーンをまとっていて、懐かしい。

まこと嵯峨、信頼関係でむすばれた若い二人、近親の死が身近くただよう雰囲気もデビュー当時の作品を思い出させる(もう、かなり遠い昔で、かすかな記憶だが)。

ストーリーも、あまりない。というか、物語の起伏もあってないようなもの。
設定と、会話、彼らを包み込む世界の空気感を楽しめれば、ばなな作品はOKだ。

「ここに出てくる人たちは脇役も含め、みんな「鳥たち」なんだと思って、このシンプルなタイトルにしました。」

と、著者あとがきに記されている。
鳥に、どんなイメージを抱いているか、個々人で差がありそうだけど、自分は、主人公のふたりは、作中でも、すこし触れらた、「ニーム」のようだと思った。

「ニームは寒さに弱いから、冬は当然家の中で育てる。」

そんな植物のような二人だった。

見事な、言葉遣いに絶えず感心しながら読んだ。
どんな形容詞も、ただ使ってない。「優しい」も、そのままでもいいのに、どんな風に優しいのか補ってある。うまいなあ、そういうところ。

0
2024年11月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あとがきにあった、
『多分この小説は、昭和の偏屈なおばさんから
平成の偏屈なおばあさんへと移行していく過程での
私が全身で見聞きした
「日本が病んで終わっていくことに抗う表現を
細々と続ける」全ての表現者への「応援そして評論」
のようなものなんだと思っています。』
という筆者自身のこの言葉に尽きる小説。

自分はばななさんほどには多分、今の日本が
そこまで病んでいるとは思っていないのだと思う。
そして、オカルトチックな精神論に嫌悪感はないけれど
距離は保っているのだと思う。
だから登場人物たちに共感ができない。
特にまこちゃんやその周囲の女性たちの
他人との距離感が気持ち悪いとさえ思う。
いきなり妊娠だの人の生死だののデリケートな話題を
初対面だったり男性だったりの前でさくさく言うのは
自分の中ではあけすけを飛び越えて非常識で
デリカシーが無いと感じるからだ。

美紗子は頭が良い感じがするのでまだ
仲良くなれそうな気はする。
末長教授も良い人だ。
ただ、実際に自分の近くにいたらどうだろうか。
この本の中ではまだしも、という程度かもしれない。

ハードな人生を送ってきたからと言って
自分個人としては、それは人より『足りない』のであって
既に経験して自分が勝っているとは思えない。
だから、まこちゃんが同年代の友人に対して
かわいい、若い、無邪気と感じること自体が
どうも上から目線に感じてしまう。
寂しい、と留まっているように見えるまこちゃんだけれど
実は私よりも余程自分に自信がある幸せな人なのかもしれない。

寂しさが重くも淡々と綴られる中で
最後にふっと軽くなれた気がするのはほっとする。

嫌なことはできるだけさくさく終わらせて、
残りの時間でしたいことをするというのは本当にそう思う。
したいことだけをして生きていくのは
特に現代ではもう無理だと思うから、せめて
できるだけしたいことに時間を多く割くように努力するしかない。

教授が言っていた、本の命が繋がれていく感じは好きだ。
自分も本に呼ばれることがあるし、そうして
なぜだか引き合い遺すことに関われたら素晴らしいだろうと思う。

まこちゃんが言っていた、
女の人が恋しくてたまに無理してでも会う、というのは
まこちゃんと唯一共感できるところかもしれない。
正直会うとぐったりすることもあるけれど
男友達では埋められないなにかが女性と会うことで
埋まる感じはよくわかる。

魂は汚い餌で生きていると餓鬼になってもっとごみをあさりたくなる、というのも
そうだろうなと思う。
多分本人は気がついていないのだろうけれど
どんどんそっちの方へ進んでいってしまうのだ。

寂しいことがいつかただ楽しい思い出に変わる
というのはとても慰められるし
事実でもあると思う。
一言でいうなら日にち薬なのかもしれない。
人はそうして生きていくのだと思う。

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2019年12月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

色鮮やかな表紙に惹かれた一冊。けれど、読んでみたらとてもずっしりな本で読み終えるのにとても時間がかかった。
一気に読める感じではなくて、少しずつゆっくり消化しながら進めていくのがいい本。

2人のことはどこか他人事のようで、でも葛藤している姿は自分と重なることもあった。
過去から未来へ。

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2018年03月30日

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