あらすじ
どうしても就職活動をする気になれず、内定のないまま卒業式を迎えたマヒコ。 住むところも危うくなりかけたところを、東京の下町にある築100年の銭湯「刻(とき)の湯」に住もうと幼馴染の蝶子に誘われる。 そこにはマヒコに負けず劣らず“正しい社会”からはみ出した、くせものばかりがいて――。 「生きていてもいいのだろうか」 「この社会に自分の居場所があるのか」 そんな寄る辺なさを抱きながらも、真摯に生きる人々を描く確かな希望に満ちた傑作青春小説!
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Posted by ブクログ
自分の人生を改めて考え直すきっかけとなった...と言えば言い過ぎかもしれないけど、銭湯刻の湯を軸にした日常系小説かと思いきや、ものすごく深みのある小説でびっくりしました。
読み終わった後も心の中がなんだかグチャグチャとしてしまっているんだけど、今まで読んできた小説とは違った角度から自分の思考にいろいろなことを伝えてきて、今はなんだか謎の焦燥感に包まれています。
みんな何かを抱えていて、物語に登場する一人一人の口から語られる過去の出来事はとても壮絶で、、、
主役のマコもマコでそうなのだけど、マコは自分なりにその抱えているものと戦って、みんなを自分なりに助けようとしている姿はとても素敵で。
結果的に刻の湯で1番必要な存在だったのではないかなと。
マコが変わっていく姿は序盤がとても頼りない存在だっただけに笑、なんだかとても勇気づけられました。
過去にあった出来事がなければ、皆それぞれがまた違う人生を歩んでいたのかもしれないけど、刻の湯での出会いをきっかけに変わっていく姿はこれまで登場人物たちが壮絶な人生を歩んできたことを肯定してくれるようなそんな物語になっている気がしました。
過去にあった壮絶な出来事が今の彼らを形作ったことは確かで生きづらさを感じる人生を歩んできたのかもしれないけれど、それでもいづれそれと折り合いをつけて、自分なりの人生を歩んでいくことができるのであれば、それはそれでまたいいのかもしれないなぁと。
そうした自分が形作られていくのは過去の出来事があったからこそだと思うので。
ゴスピくんがオフ会で自分の似たような人たちと出会ってみたけどむしろ場違いに感じたというような部分があったかと思います。僕もそこにとても共感してわかるなぁと思いました。
趣味が合う人と同じ趣味について話していても全然楽しくなくて、一人で楽しむ方が自分にとっていいなと思うことがよくあるからです。
Posted by ブクログ
近所の銭湯「みどり湯」(目黒区緑ヶ丘)の待合スペースにおいてあったサイン本。
「パニック障害は天才がなる病気ですよ。治らないほうがいいですよ。小説を書けなくなります。病気があなたを作家にしたんですよ」
作家宮本輝は、25歳の時から心の病と戦っていた。
仕事ができなくなり、引きこもり、文筆業を志し、31歳で芥川賞を受賞した。
その後も病は氏に襲い掛かった。
その時、担当医にかけられたのがこの言葉。
それからの氏の活躍はここに記すまでもない。
「メゾン刻の湯」の作者も、若くして心の病と戦っている。
苦しみ抜き、自分と向き合い続ける中でしか、見えないものがある。
この小説は、命を削って書かれた美しい人間の生き抜くドラマがある。
大学を卒業しても就職が決まらず、刻の湯に転がり込んだ主人公マヒコ。
自分に自信が持てず、さげすんでばかりいる彼が、刻の湯で春夏秋冬を仲間と過ごし、大事なものに気がついていく。
彼が変化したわけではない。
彼は彼のままで、彼にしかできない使命を果たしていくのだ。
抗いようのない運命に道をふさがれそうになっても、道半ばに倒れたように見えたとしても、また自分の足で歩いていけばいい。
そして疲れたら、広い湯船につかればいい。
読むと生きる力が湧いてくる一書。