【感想・ネタバレ】屋上物語のレビュー

あらすじ

さまざまな人たちが集まるそのデパートの屋上では、いつも不思議な事件が起こる。飛降り自殺、殺人、失踪……。だが、ここに、何があっても動じない傑物がいた。人呼んでさくら婆(ババ)ァ、讃岐うどん店の女主人である。今日もPHSの忘れ物が一つ。奇妙なことにそれが毎日、同時刻に呼出音だけ鳴るのだ。さくら婆ァの手が空いた時間帯に、まるで何かをつたえたいかのように……。早世したミステリー界の異才が残した珠玉の連作「屋上」推理、熱いリクエストに応えて待望の電子化!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「はじまりの物語」「波紋のあとさき」
「SOS・SOS・PHS」「挑戦者の憂鬱」「帰れない場所」「その一日」「楽園の終わり」「タクのいる風景」

デパートの屋上にあるうどん店の主・さくら婆ァ。そのデパートの屋上ではいつも不思議な事件が起こる…。飛び降り自殺、殺人、失踪。何があっても動じないさくら婆ァの名推理。

最初は明るい感じかと思ったけど、すぐにやり切れないような事件と真相が…。好みの展開で良かった。

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2025年09月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

デパートの屋上が舞台のミステリ連作短篇集。

この屋上でいくつかの不可解な事件が起こる。
屋上には、このデパート地階にある讃岐うどん専門店が出すアンテナ・ショップがある。良心的な200円台という安さで、正真正銘の手打ちうどんを提供する。だから、昼休みになると、近所のサラリーマンやOLでごった返す。

そんな人気うどんスタンドをひとりで切り盛りするおばちゃんが、この物語の名探偵役。通称「さくら婆ァ」。男前な女傑。屋上を仕切っている。

北森作品は読み始めて間もないが、読後感がやさしく、温かい。犯罪が描かれているにもかかわらず、だ。どうしてだろう、と考えてみた。
著者・北森鴻さんは、しばしば料理の達人を登場させる。<ビア・バー香菜里屋・シリーズ>のマスター・工藤も、『メイン・ディッシュ』のミケさんもそうだった。そして、このうどん屋の「さくら婆ァ」もそうだ。多くの客を唸らせている。彼らの作る料理の美味しそうなことといったら、食べてみなければ、いや読んでみなければわからない。 
このスペシャルな料理に、まずはやられる。おいしい料理に心和まない人はいないだろう。

腹は鳴くが……もうひとつ、北森作品に共通しているのは、いずれの料理人たちの心にもとげが刺さっているところだ。どこか翳がある。彼らは人に言えない悲しみを秘めているのだ。事件にかかわる人々の悲しみを、彼らも実感として知っている。そんな悲しみを抱えているからこそ、彼らは人に対してやさしくできるのだと思う。思いやりあふれる彼らの言動は、事件当事者たちの凝り固まった心を解きほぐす。名探偵とは、事件の謎を解くだけの存在ではない。被害者の心情をも理解する。ときには加害者にも。そんな彼らが悲しみや苦しみから立ち上がろうとする凛とした姿は、読み手の心に清々しさをもたらしてくれるのではないだろうか。凛とした姿と書いたが、実際の探偵役たちは、場末の小さなバーのマスターであり、女に拾われた居候のフリーターであり、デパート屋上のうどんスタンドのおばちゃんなのである。彼らの外貌と、明晰な頭脳やさりげないやさしさとのギャップが、これまた微笑ましく、やはり読み手の心をつかむ要因になっているのだろう。
また、わかったような感想。不細工。かっこ悪い。反省。べるさん、ご紹介ありがとうございました。

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2011年11月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 デパートの屋上で発生する数々の事件を、「稲荷社の使い狐」、「観覧車」、「ベンチ」など無生物の視点から描いた連作短編集。救いのない話が並び、後味が悪く、忘れがたいインパクトを与える作品。ある短編の脇役が、次の短編で重要な役割を果たす構成は見事だが、全体的な構成は少し散漫に感じる。個々の短編の完成度は高く、どれも一定の面白さだが、香菜里屋シリーズほどの深みはない。裏京都シリーズよりは上だと感じる。北森鴻の短編作品としては及第点ギリギリの出来か。★3。
○ 始まりの物語
 稲荷社の使い狐が語り手。デパートの女性店長の自殺、店長の子どもの万引き、いじめといったネガティブ要素が満載な作品。いじめられていた西尾隆一という少年の飼っていた子猫の命が助かることだけが救いだが…この少年の存在は、あとの話の伏線になっている。
○ 波紋のあとさき
 観覧車が語り手。「始まりの物語」で黒幕だった警備員の中岡という男が殺害される。中岡と仲がよかったペットショップの「るみちゃん」という少女が、宗教にはまってしまうなど、この話もブラック要素満載。事件の真相は、中岡が自身の悪巧みを原因とする事故で死んでしまったというもの
○ SOS・SOS・PHS
 「波紋のあとさき」で宗教にはまってしまったるみちゃんから、PHSを使ったSOSがあったが、宗教団体に殺害されてしまう。るみちゃんの活躍で、集団自殺を防ぐことはできたのだが…。るみちゃんの死が、この話のやるせなさを引き立てる。
○ 挑戦者の憂鬱
 「SOS・SOS・PHS」で、るみちゃんの行方を探すために働いた佐古下という男が犯人である事件。語り手はピンボール。ピンボールにハマるタクという少年が、命を狙われる。ロクさんという男も登場する。ピンボールのハイスコアを出した佐古下が、ハイスコアがある事実を隠すためにピンボール台を破壊しようとするが、動機がばれないように、タクを狙ったと見せかけたというのが真相
○ 帰れない場所
 バグパイプという楽器が語り手。『挑戦者の憂鬱』で怪我をしたロクさんという男が失踪したという事件。真相は、ロクさんは過去に人を殺害してしまったことがあり、バグパイプを演奏している姿を見て、そのことを思い出し、失踪してしまったというもの
○ その一日
 『帰れない場所』で語り手だったバグパイプをめぐる話。語り手は地蔵。バグパイプを演奏していた男が楽器を忘れてしまう。バグパイプを演奏したのは地蔵に聴かせるためであったが、バグパイプの持ち主は、妻に殺害されており、妻は愛人と愛人の子をはめて、アリバイを作ろうとしたという話。こちらもかなりダークな話。楽器をロッカーに入れなかったのは、バーゲンの日だったから
○ 楽園の終わり
 さくら婆さんのうどんの売店のスタンドが閉鎖されるという話。『始まりの物語』でいじめられていた西尾隆一という少年が体を鍛え強くなったが、少女を殺害してしまったという話。これも相当やるせない話である。最後に杜田がかつて、さくら婆さんの子どもが事故で死んだ原因を作ったことを伝える。
○ タクのいる風景
 さくら婆さんも登場しない。盛岡のデパートの屋上に出かけたタクの話。デパートの売却のために工作をするタカさんという人が出てくる。タカさんの娘の大野昌子がひき逃げされてしまったことから、タクはタカさんが犯人と推理するが、真相は、大野昌子の自殺騒ぎは、爆弾の被害者を出さないための狂言であり、ひき逃げは全くの偶然だったというオチ。これもやるせない話である。

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2015年12月11日

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