【感想・ネタバレ】完璧じゃない、あたしたちのレビュー

あらすじ

<すべて“女と女が主人公”の短編小説集> “私”も“あたし”も自分に似合わなくて困ってる「小桜妙子をどう呼べばいい」 セックスの妙をめぐる、女二人の哀切滑稽な別れ話「Same Sex,Different Day」 これぞ究極のシスターフッド!? あるお屋敷で起きた痛快復讐劇「ばばあ日傘」 十九歳、世界一みじめなスナックのアルバイトで――。「ときめきと私の肺を」 都会の不安な夜に出会った、不機嫌で魅力的な女の子「東京の二十三時にアンナは」 ほか全23編を収録。 名前をつけるのは難しい、でもとても大切な、女同士の様々な関係を描く。 読者の熱い支持を得たWeb連載小説に、書き下ろしを多数加え単行本化。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

本当にどの短編もよかった。王谷作品の恋愛は、自分が相手を好きすぎて困るとモダモダしたり、相手が自分のことを好きになってくれるだろうかとモヤモヤすることはあっても、人を好きになることに真っ直ぐなので気持ちがいい。

多分登場人物たちが自分の気持ちに常に正直なんだと思う。一般的な考えでは、不道徳で非常識で恥ずかしいようなことを思っていても自分にも誤魔化さないので、心と頭と体がつながっている健全さを感じる。王谷作品のこういうところすごく好き!

あとデティール組み方が怒涛で多彩。まずいのど飴の表現が「十円玉と雑草とユンケルとフリスクを混ぜたような味」という畳み掛けで、そのまずい味の感じ、舐めてないけどわかるよね……。三重、四重と重ねたデティールはお手のもので、どの短編にもハッとする表現がいくつもあるので読んでいて本当に楽しい。

以下、話がしたくなる短編。

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「ばばあ日傘」
これはみんな好きですよね!?冴えなくて鈍臭いご令嬢と、美人で頭がよくて口が悪い女中さん。

女中さんはご令嬢の家の使用人の家系に生まれて、ご令嬢のお友達役から大人になれば女中として仕える境遇にずっと不満がありご令嬢を嫌っているけれど、もう本当に素直じゃないシスターフッド!

運命を共にする系です。ずっとお嬢様の悪口言いながらお世話するんでしょう……。

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「Same Sex,Different Day.」
同性間で性関係を結ぼうとしたとき(いや異性間でもあるかもしれませんが)発生するタチネコ問題ですが、これ不運にもお互い一致している場合、どう折り合いをつけるのか(つかないのか)というところがとてもリアルでした。

というのが、商業BLでは葛藤はあれど大体どっちかが折れて結ばれる展開がお約束なので、どれだけ相手のことが好きでも、そこを折り合うことはできず別れるというところに現実を感じました。

性の不一致って恋愛成就に至るまでのスパイスではないし、相手への愛の証明でもないし、個人アイデンティティに関わるので深刻な問題だよなあと。

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「北口の女」
これもみんな好きじゃない?!?薬物問題で芸能界を追われた大物演歌歌手とその付き人と歌手の原石女の三つ巴で、地獄に行ける人と行けない人のお話。どうしても地獄に一緒に連れて行ってほしかったあの最後の叫び!ぐるっとひっくり返る仕掛けもありとても好きなお話。泣いた。

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「しずか・シグナル・シルエット」
女性が女性を好きになったとき、ライバル(男)にライバル認定されないというつらさを出してくるこの視点!いやなるほどなと思いました。

雑貨屋の可愛い女性店長さんを狙う二人の女が、どちらも破れるんだけれど、「恋のライバルにライバル認定されたのは初めて」と酒を飲む最後は、ライバルではあったんだけれどほのかな連帯があって、よかった。

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「姉妹たちの庭」
いやー!グロかった!もう誰も住んでいない惑星で、女性型の性処理アンドロイドだけが稼働していて時折迷い込む男の相手をプログラミング通りにしている。

またこのアンドロイドが、年齢別に子ども・10代・20代ぐらいの3台が稼働していて、つまりそれってそういうことじゃん……?

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「だがその速度は」
「あなたのこと考えると無駄になる」

これはどちらも、能率・合理主義で無駄を嫌主人公が、無駄を愛する女に出会って恋に落ちるお話。

「だがその速度は」では、新店舗の開店シュミレーションの役になりきることで段々と自分を取り戻し、恋に落ちるのがいい(ただしこの女は食えない感があるので成就するかは不明)

「あなたのこと考えると無駄になる」では無駄を愛する靴職人に反発するけれど、色々と試した結果かっこ悪くても「靴が作りたくて……」と訪ねて行くの本当にいい。自分で訪ねて行くのがいいんだよ……!

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「カナちゃんは足が無い」
「北口の女」と同じ徹底的な献身を捧げる女が出てくる。足の無いカナちゃんに下女のように尽くす主人公。どんな無茶を言われても「はい」と言って要望を叶える。

このカナちゃんが苛烈。多分主人公のことが好きで気を引きたくて滅茶苦茶なことを言っているのに、主人公が全部「はい」と言うから無茶がエスカレートしているように見える。

だから本当は望んでいないことでも、主人公が「はい」と言えば引っ込みがつかなくなるんだろうけど、でも吐いた唾は飲まないし、主人公をちゃんと地獄に連れて行くし手放す気もない。あのシーンで手を握らせるのは本当に強烈だった。

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「タイム・アフター・タイム」
大人になるって、大人になるってそういうことだよ!!!子どもの頃に怯んでできなかった選択肢を選べるってことなんだよね。

「友達になって!」というたった一言。子どもの頃には言えなかったけれど、これが言えるようになったなら大人になった甲斐があるってもんよ。

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女だから感じさせられる理不尽な話や、女がするのはタブー視されているセックス話など、ここには上げなかったけれど、女として生きているとぶつかる様々な壁の話が収録されていてとても面白かったです。

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2025年09月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

たくさんのレズビアンの表象、ストーリー展開、読みやすい文量。とても好きだった。読んでよかった。

2025/11/17
「Same sex, Different Days. 」すごくよかった…
主人公がただレズビアンなのか、「抱かれる」がいやだから、「抱く」ことができるレズビアンになったのかわからないし考えないようにしてる、みたいなの、すごく
身体の相性、というか、身体の役割?が合わないことで他が順風満帆でも別れてしまった2人。さびしい。2人をくっつけた固有名詞も、2人を思い出すトリガーだったのにそうでなくなってしまった

2025/11/22
「十本目の生娘」すき…
金髪のお姉さんが指に触れてくれたことで初体験を終えた感覚になった。十本はただ自分のセクシュアリティじゃないからたのしめなかったんだよな。

「だからその速度は」もすき…
ロールプレイングしてみることで気づく相手の魅力、なかったはずの「私たちの今まで」が浮かび上がること。せっかちな主人公が、恋の速度に合わせてゆっくり歩いて終わるシーン。とってもすき…。せっかちすぎて、ゆっくりの方がいいとわかってるのにずっと早く次の展開!ってやってしまう、わたしとは大違いでとてもいい。※自己否定ではない!

「あなたのこと考えると無駄になる」もすごいすき…恋に落ちる女の子たち、とてもいい。無駄と言えば無駄でしかないシラフでのおしゃべりから始めたいと思うこと、それができる相手であること、わたしもそれを望むなあ。これすごい好き…

2025/11/26
「ヤリマン名人伝」もよかった。セックスを趣味だと語れないこと、けどそれは女だからかもしれなくてそれは絶対に社会のせいだということ。みんなにセックス楽しむ権利があるよ、相手との合意の上に。

2025/11/27
「東京の二十三時にアンナは」すごいすき。読み終えて余韻で鳥肌立ってる。見知らぬ街も、いい出会いによって、その記憶と結びつくいい街になる。毎日完璧ないい街なんてないけど、「今夜の東京はとてもいい街」。最高だ

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2025年11月27日

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