あらすじ
「神狩り」以来42年ぶりにデビュー作で星雲賞を受賞した表題作をはじめ、オタク文化と暴走する奇想が脳を揺さぶるSF、全3篇。
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Posted by ブクログ
アイドルもソシャゲも声優も私の知っているそれを大きく逸脱していました。けれど、異形だったり人を殺してたりといった要素は、人を選ぶのかもしれませんが、嵌る人には嵌るのだと思います。
そして、宇宙規模にまで風呂敷を広げつつも、きちんと論を展開し、過去に遡って全ての謎に説明付けてしまう手法は流石だと思いました。
Posted by ブクログ
表題作『最後にして最初のアイドル』、『エヴォリューションがーるず』、『暗黒声優』の三篇が収録された、SF界の新星(僕自身あまり“通”ではないのだけど)草野原々氏による短編集。デビュー作にして、問題作。
ともすれと児童書と見まがうような、かわいらしい表紙に騙されるなかれ。本書は三篇が三篇とも、「ガチ」のSFである。
以下、ネタバレあり。
一篇目、表題作は元々「ラブライブ」の二次創作として書かれた短編を改稿したものらしい。僕はあまり明るくないのだけれど、その面影はあまり残っていないように思われる。精々、主人公がスクールアイドルをやっている、くらいのもので、最初に読んだときは「パロディなんだな」程度に感じたくらいだ。
草野氏はこの作品を「アイドル百合SF」だ、なんて言っていたけれど、とんでもない。百合を期待して読むと一篇目から大やけどする。僕はした。
あたまの方は、まあ百合と言えなくもない。美しき少女たちの友情だか偏愛だかが繰り広げられる。素晴らしい。死んだ主人公の脳髄が、親友に引き抜かれて冷凍保存されるところまでは、まあ良しとしよう。百合の範疇だ。けれど、一体どこに「肉屋の廃棄物」と比喩されるアイドル主人公がいようか。あまつさえ、体中からパイプの飛び出まくった老婆とのカップリングなど。ビジュアル化した時点で、ユリスキウス一門のみならず、平常な感性を持つ者ならば、まず目をそむけたくなるような光景に違いない。これを百合などと、とてもとても…。
とはいえ、ただのグロテスク偏愛小説には収まらない。彼女らがこのような姿に変貌してしまっているのは、地球に起きた環境の変化が大きく関わっているのだけれど、主人公・みかは、放射能にさえ適応しながら、どんどん形質を変化させてゆく。一見突拍子もない設定なのだけれど、理路整然と並べられる理論や、科学的考証に基づいた説明などが、それに説得力を与えている。気が付けば、草野氏の独特と呼ぶにもあまりある世界に浸りきって、最後のページに辿り着いてしまう、そんな短編が『最初にして最後のアイドル』なのだ。
その他二篇についても書きたいのだけれど、ひとまずは軽くですませておきたく思う。
三篇とも、サブカルチャーのパロディに氏のエッセンスを注入して、既存の言葉に新しい定義を与えることから始まるSF小説で、骨子はよく似ている。序盤でばらまいた設定が終盤に大きく広がり、そして物語を通じて描かれたテーマに結論がもたらされる、といった風である。
『エヴォリューションがーるず』は、あるソーシャルゲームの虜となったOLが主人公。このゲームは、昨年一世を風靡した「あるアニメ」のパロディだろうと思われる。ガチャ廃人となった主人公が、ゲーム世界の中に入り込み、ガチャによって「タンパク質」などの形質を獲得して進化してゆく…というのが大筋だが、こちらもまた全く色気のない話である。
一篇目と比べるとやや百合っぽさは上がったかな、という感じはある。(可愛くない)ガールズたちの、お互いへの思いや感情のぶつけあい、そして終盤のスケールの大きな理論展開は見どころである。
『暗黒声優』は、声優という言葉に独自解釈で全く新たな意味を吹き込んだ小説であると言えよう。この世界における声優は、のどからぶらさげた袋によってエーテルを操り、熱や光、果ては重力まで操ることができる、宇宙船の操縦士のことを指す。前二篇と比べると、俺たちの戦いはこれからだ、感のある終わり方ではあったが、能力バトル、宇宙旅行、百合、なんでもござれのスペクタクルだ。個人的には、お気に入りの一篇である。
どれほど魅力を伝えられたかは不安だが、とりあえず満足したので、筆をおきたい。