あらすじ
日本がいちばんきらきらしていたあの時代、
ぼくは、ひたすら地に足をつけたいと願った。
その後ぼくは、「世の中の仕組みはどうなっているのか」とか、「どうやったらもうちょっとうまく生きられるようになるか」というような本を何冊か書くが、そのとき気づいたことを最初から知っていればまったくちがった人生になったと思う。でもそれは、ものすごくつまらない人生だったかもしれない。(「あとがき」より)
バブルの足音からその絶頂、そして崩壊まで、1982年から1995年までの長い長い“80年代”の青春。
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Posted by ブクログ
2021年5月30日記述
80s エイティーズ ある80年代の物語
橘玲氏による著作。
2020年7月発行。
この作品は2018年1月太田出版より発行されたものです。
橘玲氏の過去に関して振り返った本。
橘玲氏の主張、文章を初めて読んだのは小林よしのり氏がかつて運営していたわしズムという雑誌に投稿していた文章だ。
あれからいくつかの著作を読み、自由になるには経済的独立を果たす必要があること。
闇雲に保険に入ってはいけないこと。
自動車は最高の贅沢品であることなどを学んで実践してきた。
(要するに買わなかった。その分を貯金できたと言える)
それからも橘玲氏は参考にする著者の1人として見てきた。
思い返すとその過去はあまり知らなかったので本作は興味深い。
当時の雑誌という世界が見えてくるようだ。
本書は正確には1970年代末から1995年頃までを含んだ期間を描写している。
印象に残った点を示していくと
振り返ってみれば、バカな頃が一番面白かった。だけど、人はいつまでも
バカではいられない。そういうことなのだろう。
わざわざ「記憶」を強調するのは、それが無意識の中で自分に都合よく書き換えられることが分かっているからだーそれも非常に頻繁に。
元妻は再婚して子供もでき、今はシリコンバレーで暮らしている。
渡米する前は、息子と3人でたまに食事をした。
「ぼくは普通のサラリーマンになる」といっていた息子は、社員10人ほどのIT関係の会社を経営している。
僕の方も新しいパートナーと出会い、独立して「本を読む事と原稿を書く事、そして時々サッカーを観る」というシンプルな生活をしている。
なんの変化もない毎日だが、その代わり1年の内数ヶ月を旅にあてている。
僕が社会人になってはじめて出会った3人に共通するのは、メインストリームでは生きられないことと、成功への執着ではないだろうか。
それを、夢という言葉に置き換えてもいい。
夢を持つことは確かに素晴らしいが、それは人生を蝕んでもいく。
世間知らずの当時の僕は全く気づかなかったけれど、そこには確かにこの社会の「ほんとう」があったのだ。
世の中の主流からはじき出された人達は、大企業で出世するとか、医者や弁護士になるとかの世間一般の「成功」からは見捨てられているが、だからといって金持ちになることを諦めたわけではない。
というか、逆にそれだからこそカネに執着したりする。
今から思うと、佐藤さんは日本の社会にそういう人達がたくさんいることに気づいていて、彼らのための「情報誌」を作ろうとしていたのだろう。
大学を出たばかりの僕には全く理解出来なかったが、それは確かにある種の慧眼ではあった。
カルト教団の引き起こした異常な事件
「Windows95」が予告する光り輝く
未来との間には、気の遠くなるような距離があった。
オウム真理教とは何か、というのはもちろん諸説あるだろうが、僕の理解ではそれは「仏教原理主義カルト」だ。
教祖の麻原彰晃は、一部の若者たちを虜にする強烈な魅力を持っていた。
信者の多くは「精神世界系」の若者達だった。
もちろんこれは現在から振り返っていえることで、渦中にいる時は一体何が起きているのか全く分からなかった。1989年6月には中国で民主化を求める天安門事件が起き、その後、中国共産党は鄧小平のもとで大胆な経済自由化に踏み出すのだが、当時の論調は中国から難民が「盲流」となって日本に押し寄せてくると煽るものばかりで、中国の驚異的な経済成長が始まることを予想した人は殆どいなかった。今も日本や世界の「未来」について自信たっぷりに語る人がたくさんいるが、その御託宣を信用する気になれないのはそんな経験があるからだろう。
本当にとんでもない事が起こっている時は客観的な判断などできないのだ。
人生は、日々の積み重ねの延長線上にある。
だから、簡単には変わらない。
欧米では「差別とは合理的に説明できないこと」という定義が新しい基準になっている。
「努力によって知能は向上する」という教育幻想が蔓延した社会では勉強ができないのは(親と子の)自己責任にならざるを得ない。
なぜなら、努力すれば勉強はできるはずなのだから。
このように遺伝の影響を否定することは、いっけん親切なように見えても実はものすごく残酷なのだ。
「バブルの時代」を回顧する時は、六本木や銀座のクラブ、地上げや株の話になることが多いが、今の時代との一番の違いは「頑張って働けば結果が出る」という体験ではないだろうか。
市場が縮小していく中では、どれほど働いても成功はまれで、やがて仕事は長時間の苦役になってしまう。
(就職で)よく知らない人の方が気楽に紹介できるのは、それが「負けないギャンブル」だからだ。
「他人とは違う」というのは傲慢さの裏返しであり、世間から半分落ちこぼれた自分を正当化する言い訳でもある。
Posted by ブクログ
近年、主に資産運用の領域において、ヒット作を連発している著者の原点ともいえる作品。
ロシア文学を専攻し、80年代に早稲田大学を卒業しながらも、ロシア文学を学んだ影響か、まともな就職ができず、小さな出版社へ。そこで学んだ出版ノウハウ、出版以外の事業ノウハウなど、いろいろな内容が今の彼を織りなす要素となっており、その変遷が見られたことはとても良かった。
論旨的に極端な意見の持ち主であり、とっつきにくい人間といったイメージを持っていたが、著者に対する見方が変わった一作。