あらすじ
「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが……。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴(ざくろ)」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、「夜警」「関守」の全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。
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Posted by ブクログ
満願という言葉、普段使わないなーと思って調べたら「満願成就」て言葉がありますよね。あーなんかそういう願いが叶うような感動的な物語かな!と読む前に思っていた私を見事にボコボコにしてきました(笑)青春系米澤ワールドではなく、ブラック&ビターの方でしたね。願いというか欲望というか……人の願いとは、行き着くところは欲望なのでしょうか?生きているから願いがあるのか、願いがあるから生きているのか?人間の本質に踏み込んでいくような作品でした。面白い!!
「柘榴」は雰囲気ちょっと湊かなえさんっぽいなーと思いました。月子の傷が深いのは何故だろうと思ってたら……そういうことね!と。全てが繋がりましたね。
「万灯」の話が一番好きでした。豊かさを知ったゆえの貧しさっていうのが心に響きました。自分が貧しいと思っているのかどうかではなく相対的な豊かさを求めてしまうと、特に今の世の中ではドツボにはまっていきそうに感じました。SNSでいつでもキラキラしたような世界に憧れてしまいますので。長老たちは同じように、国や村のことを思っているのに何故こんなことになるのか。人が一緒に生きていくうえでは争いは避けられないのだろうかと、ちょっと悲しくもありました。
Posted by ブクログ
それぞれ独立した短編集。
主人公はベテラン世代の男性ビジネスマンが多く、時代も自分が知らない昭和がほとんど。
令和では身近にあるスマートフォンやSNSといった単語、ワークライフバランスを実現しようとか多様性が大事だとか、そういう思想は一切ない。
なのに、なんの違和感もなく物語に入っていける不思議なリアルさが絶妙で、ちょっと怖い。
展開が広がる前に、すでにそういう怖さがあるのに、読み進めるごとに物語そのものの怖さが加わって、ラストまでずっと緊張は上がりっぱなしだった。
この物語に共通する怖さは、目的を成し遂げるために、とんでもないことをしてしまう人間の欲深さ。
真相には、いつもじわじわと辿り着く。
このじわじわさが、たまらなく依存性がある。
Posted by ブクログ
✩4.5
面白そうでずっと読まずに置いてただけある、めっちゃ良かった
私的推しは最初の「夜警」と中盤の「柘榴」
夜警の若者、私もミスを上手いこと隠したいと思っちゃうけど、そこまで考え及ばへん
Posted by ブクログ
6遍のミステリー短編小説は人間の不可解で複雑な心理を読むに仕込まれた内容だ。「柘榴」では精神的に疲れ果てた母親を守ために親の親権を敢えて無職の夫に姉妹が選んだ事、「満願」では夫の借金の山を自ら殺意を持って守った妻、更に妻の思いは先祖代々の掛け軸を他人に渡さないと言う先の行方を行動した心理を図ったことだ。気になる言葉は:
「学があるというのは大きな事です。この世はとかくままならぬもの。でも学があれば
世が世なら臍を噛むときもきっと少なくなりましょう」
Posted by ブクログ
人にオススメされて長らく眠らせていた《満願》。
なぜもっと早く読まなかったのだろうと後悔するのは本を読む上での避けて通れない道だ。
もともとミステリーはあまり読まないほうだが、どの話も巧みに構成されていて、ぐいぐいと引き込まれた。記憶力に自信がないので人物名を覚えるのに必死になったり、時系列の前後に置いていかれそうになったりしながらも、読み進めるうちにその世界の中に取り込まれていた。
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「夜警」
渋いおじさまの枯れたような雰囲気の中にも、罪悪感という炎が滾っているようで、その視界を通して世界を見ている気分になった。
登場人物たちの「嫌い」「警戒」といった感情がひしひしと伝わり、まるで自分がそこにいるような臨場感を覚えた。
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「死人宿」
最初は登場人物たちの関係がつかめず、どういうつながりなのだろうと注目しながら読んだ。
話が進むにつれ、霧が晴れるように関係性が見えてくるのが面白かった。「葉擦れの音」という表現がとても綺麗で印象的だった。
「夾竹桃」という植物が出てきて、知らなかったので調べたら「素手で触るな」と書かれていてどきりとした。
一人だけが死ぬという小説の“お約束”に自分も囚われ、早とちりで「一件落着」と思い込んでしまったのも印象に残った。
最後の「またもや死人宿が繁盛する」という言葉には不気味な余韻があり、噂が新たな事例を生み、さらに広がっていく様子を感じた。
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「柘榴」
この話は夢中で、まさに柘榴を貪るように読み進めた。
語り手が女性ということもあり、共感と情景がすぐに浮かんだ。
親子間で恋が連鎖するという設定には恐ろしさを感じつつも、その異常さに惹かれた。
母親としての愛と、女としての愛。その二面を一つの果実「柘榴」で象徴させる構成が見事だった。
特に、夕子と父親の約束が三度登場する場面は強く印象に残り、最後の三度目で思わず声が出るほど気味悪く感じた。
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「万灯(まんどう)」
タイトルの読み方を調べ、「数多くの灯火」という意味だと知った。
主人公の最後の独白、「街を灯す明かりに、自分の力で加えたかった」という言葉がとても印象的だった。
私は主人公のように信念のために異国へ行く覚悟を持ったことがないので、深く共感はできなかったが、彼の信念の尊さと、それでも血に濡れた手足の哀しさが心に残った。
張り巡らされた不安がじわじわと首を絞めていくような描写も見事で、最後にはまるで銃口を定められたような緊張感があった。
「スピード命」の主人公が、静かに向けられた銃口によって破滅していく構図が印象深い。
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「関守」
とても面白かった。個人的には、このホラーテイストの物語が一番好きだった。
繰り返される言葉が少しずつ真実を開いていく構成が巧みで、最後の「重いまぶたを、かろうじてこじ開ける」という一文が強く心に残った。
老婆がその目をこじ開けたのだと思うと、背筋がぞっとした。
「人の助言を舐めてかかると痛い目にあう」という教訓めいた結末も印象的で、自分にも思い当たる節があり、戒めのように感じた。
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「満願」
昭和の時代を感じる雰囲気の中で、掛け軸を「個人の誇り」として大切にする描写が印象に残った。
不貞行為が起きるのではと少しドキドキしながら読んだが、そうではなかった。
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短編集を通して、米澤穂信という作家の特徴が少し見えてきた気がする。
伏線の張り方と回収の見事さ、そして一文一文に残る「余韻」が印象的だ。
どの話も緻密に構成されており、読後に何度も振り返りたくなる。
ぜひ、ほかの作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
贅沢だな〜と思うくらい各短編が面白かった。
特に印象に残ったのは夜警と柘榴。
とても綺麗な母のもとに生まれた2人の娘は、
大事に育ててくれた母を貶め、父と暮らすためにとある計画を立てていた…という話。
後味がイヤ〜な気持ちだけれど、ずっと忘れられないインパクトがあった。
Posted by ブクログ
なんかの賞を3冠してるということで読んでみた。ミステリーは色々読んできたけど、初めての短編作品だった。ひとつの物語がサクッと終わるから忙しい時には良いかも。柘榴とか関守とかはゾクッとする終わり方で面白かった。ただ、長編の、物語にボリュームがある方が好きなんだと分かったから自分には短編は合わないのかも笑