【感想・ネタバレ】小さな黒い箱 ディック短篇傑作選のレビュー

あらすじ

謎の組織によって供給されるその金属の黒い箱は、別の場所の別人の思考へとつながっていた……。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』原型短篇である表題作、タイムトラベルをテーマにした後期の傑作「時間飛行士へのささやかな贈物」、近未来アメリカを描く政治風刺連作「待機員」「ラグランド・パークをどうする?」、書籍初収録作「ラウタヴァーラ事件」をはじめ、政治/未来社会/宗教をテーマにした全11篇を収録。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

小さな黒い箱
「アンドロイドは…」に出てくるエンパシーボックスが宗教として駆け出しの頃の話。まだ信者も少なく、小さなカルトでしか無いが、「アンドロイドは…」では太陽系全域に信者を持つ大宗教になっている(キリスト教かよ)。
「アンドロイドは…」では謎の老人は売れない役者だと暴かれていたが(メディアの嘘かもしれんが)、それよりも着目すべきは箱を送りつけてる組織だろう。
共感中の怪我まで「共感」できる道具を家庭用品から作れるとあるが、これはどんな宗教への入信も自分の家からできますよって感じのメタファーかな?

輪廻の車
やったんだろ?17歳の子と。やらせてもらったんだろ?抗生物質だけじゃなくて、やらせてもらったんだろ?このスケベ!!

ラウタヴァーラ事件
臨死体験中に見る悪夢ってマジ最悪だね。怖すぎだし救いもないし。かわいそう。

待機員
人が真面目に生きてない世界で、大事な事は機械が決めて人はそれに従う。そうなれば優秀な人材は機械から離れた位置で仕事をする。だからバックアップ大統領選をアホの田舎者に選出したのかな?優秀な人材をバックアップとして持っているのは勿体無いもんね。

ラグランド・パークをどうする?
歌った事が現実になる能力、ドラえもんの「ウソ800」に少し似てるけど、それよりすごい。
神の力にも匹敵する力だけど、それほどの力を1人の人間が握るのは怖いね。自分の能力に自覚してたら本当に神になれたのに、自己をもっと上手く認識研究する事ができたらよかったのにね。

聖なる戦い
ドラえもんの「バイバイン」がかけられたガムが自販機で売られる。それに気づいたスパコンが核攻撃を試みる、事に気づいた人間が止める。止めてる間に攻撃の根拠をスパコンに聞くが要領を得ない←ココが人類敗北の原因やろ。スパコンとのコミュニケーションをしっかりしとけば負けなかった。何事にもおいてもコミュニケーションを怠ると負けると言う教訓。

運のないゲーム
マッチポンプ詐欺師サーカス団。小さいロボに働かせた方が生産性高くないんか?罠で捕まえたロボは回収すんのかな?

傍観者
好きに生きさせてくれ、人に迷惑かけない限り。生き方を強制しないで。学校の校則とかも生き方の強制だよね。

ジェイムズPクロウ
人だけの社会になったらまたどうせ戦争するんでしょ?共生できないのが人間っぽいよね。

水蜘蛛計画
面白い。SF作家が予知能力者だと誤解して誘拐するとか。しかも後々作家はみんな処刑されるのかいな。作者自身の作品名も出てくるし、少し複雑だった。過去を変えたせいで今が変わったが、変わったのは人の記憶だけなのかな?最後のメモはオークションでフィリップが落札して、この話を執筆したって感じかな?

時間飛行士へのささやかな贈り物
永遠の命なんてささやかでもなんでもねえ!つらすぎる!

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2023年07月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『ブレードランナー』として映画化された『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が有名なフィリップ・K・ディックの短篇傑作選の第5集。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の元(創作のきっかけ)となった作品が表題の「小さな黒い箱」です。全11作品。

今回はじめて読んだフィリップ・K・ディックなのですが、彼の作品には映画『ブレードランナー』しか触れたことがなく、ゆえにディックはもっとハードボイルドなSF作家かとイメージしていました。どっこい、その作風にはユーモアとウイットがふんだんに感じられました。

SF作家をプレコグ(予知能力者)とみなす短編があって、舞台となる未来世界から時間旅行をした未来人が1950年代のSF作家の集まりにまじるのだけれど、レイ・ブラッドベリがでてきたり、アシモフを探したり、そこでの主要人物で未来に連れ去られるのが実在のSF作家だったり、ずいぶんくだけたことをやってるなと思いました。ノリはもはや同人誌です。

SF作家をプレコグとみる、なんていうのは、たとえば最近、IT企業が未来予測のためにSF作家を雇うなんてのが実際、現実にあったんじゃなかったでしたっけ? となると、ディックのイマジネーションと論理力、それら自体がまさにプレコグ的であり、自分でそれに気付いて「SF作家=プレコグ短編」を書いたようなもので、なんだかおもしろい。自己言及性が生じていますから。

またモノレール交通システムがよくでてきます。1950年代のアルヴェーグ式モノレール(ゴムタイヤモノレール)の登場で、それ以降はモノレール交通システムが普及していくと見られていたようですから、この近くの年代のSF小説作品での未来世界ではモノレールが走っていたりするのでしょう。アニメ化や実写映画化された漫画『映像研には手を出すな!』の舞台となる未来世界でモノレール交通システムが普及しているのは、そんな昔のSFへのオマージュなんだなあと納得しました。昔の時代に思い描かれていた未来世界の断片的実現を、創作世界で何十年もたった今やっているのでした。オマージュは、愛ですね。

特に好みの作品を挙げるとすると、次の二つになります。「ラウタヴァーラ事件」と「時間飛行士へのささやかな贈物」。二つとも、生から死への直線的な道理からはずれている作品です。前者はエイリアンによる蘇生が呼んだ過去の追体験が物語られていますし、後者は閉じた時間の輪のなかにいる者たちが自分たちの葬儀に参列するなどの奇妙な時間の送り方が描かれている。こういった死生観みたいなものを、ほとんど考えたことのないような分解の仕方をして再構築して物語ってみせるようなのものは、どうやら僕はおもしろいと感じやすいのかもしれません。不意をつかれるのに似てもいます。

SFは、現代物理学はもちろんそうですが、いろいろな理工系の知識に明るくなければ本格モノって書けないような印象があります。そればかりか、哲学や精神医学にも並大抵以上の知識をもって物語を構築していくようなイメージがあります。僕なんかはSF始めは「SF=すこしふしぎ」の藤子F先生で、藤子っ子としてSFに触れていますし、その後に手塚作品で『火の鳥』を手始めとして子どもの頃にいろいろ読んだものでした。そういった漫画作品と、『スターウォーズ』『スタートレック』といった映像作品が土台にあります。でも、SF好きのひとって、そういう子どもの頃の刷り込みを超えて、柔軟にいろいろと新たなSFにも対応できるような頭をしている気がします。少なくとも僕自身はそういうタイプだと思うんです。まあ、面白いですよね。

世の中には、こういったSFという世界も豊饒なものとして存在しているわけで、まだその片鱗しか知らないような僕にとっては、わくわくしてきますし、楽しくうれしい気分になります。

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2021年02月07日

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