あらすじ
自分には血のつながった兄がいる。後年その異母兄を訪ね邂逅した瞬間を鮮やかに描く「兄」。十歳の時に住んでいた奇妙なアパートの住人たちの日常が浮かぶ「トンネル長屋」など、まるで物語のような世界が立ち上がる――。自身の病気のこと、訪れた外国でのエピソード。様々な場面で人と出会い、たくさんのいのちの姿を見つめ続けた作家の、原風景となる自伝的随筆集。新たに五篇を収録した完全版。
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Posted by ブクログ
作者あとがきより
「小説にしてしまうとあまりに小説になりすぎる」という思い出や経験を……「これ以上書くと創作の領域だというぎりぎりの分水嶺あたりをうろつきながら」書かれたそうだ。
書かれたもの総て「いのち」にかかわること。
「いのち」とは? 命でも生命でもなく。
前のエッセイ集は「命の器」
「どんな人と出会うかはその人の器次第」と書いてあった。
これはグサッと刺さる。
解説の行定勲監督は
「どの登場人物にも嘘がないのは、「どれだけの人生に触れ、そのどの急所に目を向けてきたか」にあると思う。」
「真実は一つではない。その出来事のどんな側面に何を感じるかで違ってくるという宮本さんのものの見方」と。
このエッセイ『いのちの姿』の解説なのですが…宮本輝さんを読むヒントでしょうか。
今までに読めた小説に関わる背景やきっかけが興味深い。
そういえば 私は『泥の河』を小説だと思っていなかったような気がする。創作は作り事でも「嘘がない」からかもしれない。
Posted by ブクログ
宮本輝の初期の小説にはいるも”死”の影があったのはこういう訳だったのかとちょっと納得した。
なにせ幼い頃から事件の末の死、災害による死、トンネル長屋での死、著者の父が”お前には行くところ行く所で厄介ごとに遭遇するちゅう星まわりみたいなのがあるのかもしれん”と言わしめたように。
でも、それは言い換えれば作家になるべく星まわりとも言えよう。
さまざまな経験、体験(家庭環境、結核、パニック障害、阪神大震災、シルクロードの旅、)をその繊細な感受性でとらえ骨太の純文学へと昇華させていったんだなとこのエッセイを読んで改めて感じた。
父親違いの兄がいてひと目顔だけでも見たいと思ってその家のまわりを何度も行き来した章と
おでん屋の夫婦の章(元ヤクザの夫が殺されて生まれたばかりの男の子をお豆腐屋さんに養子に出す)がとりわけ印象に残った。
Posted by ブクログ
未収録だった五篇を収録した完全版。京都の料亭・和久傳発行「桑兪」というエッセイ誌に10年にわたり連載されたもの。
かつての仕事の出会いが縁で小説「水のかたち」に挿入されるきっかけとなった経緯。人との出会いの大切さを感じた。
小学校四年生、トンネル長屋と呼ばれる長屋で一年間過ごしたエピソードなどは、まさに事実は小説より奇なり。
また、映画監督・行定勲氏の巻末に寄せられた解説も素晴らしい!