あらすじ
10年裁判の末、逆転無罪となった長銀・日債銀粉飾決算事件、著者が冤罪と見るライブドア事件、10年にわたる長期の粉飾決算事件であるオリンパス事件、現在進行中のウエスチングハウス買収後の東芝巨額粉飾決算――5大粉飾事件の深層を解明!
「想起すれば、21 世紀は粉飾決算とともにやって来た。本書で分析の対象となっている巨大粉飾決算事件はすべて20 世紀末から世紀を跨いで事件が発生し、21 世紀初頭の司法により決着が図られている。
21 世紀は時価会計の時代でもある。人類は、ベネチアのルカ・パチオリ以来、500 年間という長い年月をかけて、複式簿記による経済活動の測定及び報告の歴史を積み上げてきた。
この500 年に及ぶ企業会計は、一貫して投下資本の回収計算を目的とする取得主義会計により行われてきた。それが前世紀末頃から時価会計が出てくると、時価会計はあっという間に世界の会計制度を席巻してしまった。
(中略)
本書で分析の対象となっている粉飾決算事件は、時代が取得原価会計から時価会計に移行していく過程で事件化し、時価会計が主力となった時代に粉飾決算事件として決着している。
粉飾決算を引き起こした経営者は指弾されてしかるべきであるが、私は事件の背景に、時価会計が経営者の倫理観を毀損していった側面が見えてならなかった。時価会計導入以来すでに20 年近い年月が流れた。
人類史における時価会計導入の功罪が検討されるべき時期に来ている。私はVS シリーズ3 部作の完成版を書きたいと思うに至った。」(本書「はしがきに代えて」より)
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Posted by ブクログ
これは公認会計士である著者が複数の粉飾決算又は不適切会計事件について法的及び会計的な見地から考察し、検察、会社又は監査法人に対して鋭いメスを入れた書籍になります。
読者に要求される理解度について、さまざまな経済司法事件につきわかりやすく解説していると思いますが、それでもやはり簿記二級程度の理解はあったほうがよいですし、これに対して法律学はさほどわからずとも(それほど奥深いものではありませんから)差し支えありません。
さて、著者の主張には理解できる点も多いのですが、その一方で、いわゆる証拠構造に厳密性を欠くと感じたのもまた正直な感想であります。
なるほど経済司法事件における検察の供述証拠依存には省みるべき点が多々あると思いますが、さりとてたとえばオリンパスとアクシーズ・アメリカとのFA契約書で粉飾決算の共謀ありと認定するのはやや勇み足ではないのか。
書証の証拠としての価値は確かに盤石なのですけれども、これは非常に寡黙な証拠なわけです。
ですから、供述証拠は確かに軽薄ではあるかもしれませんが、さりとて書証から認定できる事実の範囲はふつう限定されますから、書証を補完する機能はなお失われないのです。
だからと言って、書証から認定できる事実の吟味を怠り、不必要に供述に依存することが健全な経済司法事件の在り方とは思いませんが、要するに、書面も供述も軽視すべからざる証拠なのです。
オリンパス事件に話を戻して、契約書は処分証書として概して真正に成立したものと取り扱われますから、当該FA契約書に記載された「事実と異なる買収報酬」(これは著者の表現です)という場合の「事実」とはこの場合何を指すのが不明です。
確かに、オプションの価値がゼロではないというのは不自然な契約であるとしても、契約自由の原則が妥当する以上、事実とはあくまでも当該FA契約書に記載された金額のことではないでしょうか。
ですから、やはりFA契約の実態が契約書に記載の通りであるのか、それとも裏に真実の意図があるのか、それについてやはり書面は沈黙しているのではないか、と思うのです。
著者の言う通り、粉飾に係る報酬につき何ら取り決めをしていないということはありえないでしょうけれども、それでも全てを馬鹿正直に記録するというのは、この場合ですと犯意をご丁寧に記録すると言いますのは、これほど用意周到な計画であればにわかには考えられないのです。
仮に行為者が自ら犯意を立証できる書面を作っていたとなりますと、これは極めて良心的な犯罪者だと思うわけですが、犯罪者とは概して通常人に比して良心を欠くために罪に手を染めてしまうのです。