あらすじ
売れないギタリストの多聞は、音楽誌に穴埋めコラムを書いて生計を立てている。最近、離婚して、妻のつくった借金を抱えて困窮していた。ある日、彼のもとに仕事の依頼が入る。カリスマ的な人気歌手、実菓子のロングインタビューだった。義理と借金のためやむなく引き受けたものの、二人は幼い頃同じ家で育ち、しかも、多聞の亡父と亡兄はともに実菓子の夫であった。二人はかつて共に住んでいた田舎の家で再会し、インタビューを開始する。実菓子への憎悪と愛情という相反する二つの感情を抱えていた多聞だったが、実菓子は多聞の知らなかった過去を語りはじめた。かつて多聞の家とともに村の二大勢力と言われた実菓子の実家の忌まわしい過去。二人の母が突然姿を消した謎。実菓子が10歳の時に起こした冤罪事件と、二度の結婚の秘密。数々の出来事の裏に隠されていた凄惨な真実が解き明かされたとき、あらたな事件が起こる――。
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Posted by ブクログ
まるで昭和初期を舞台にしたような過去話とドロドロの人間関係が、読んでいて鬱な気分にさせてくれます。重苦しくて、晴れ晴れとした気持ちになる内容ではないのですが、じっくりと一言一句漏らさずに読み通したいと思わせる求心力にも似た力を作品から感じ、没頭して読んでいました。
序盤、不動の死の原因とされている実菓子の存在とその態度に、多聞と同じく彼女に対する苛立ちを覚えました。しかし過去の話を読み進めていくと、虐待に起因する「自分に対する興味のなさ」に基づく一連の言動なのかと思い、少しずつ印象が変わっていきました。
多聞も名家の次男坊(かつ、終盤で明らかになるある要因から?)のため、兄の影で存在をないがしろにされながら成長していました。実菓子とは憎み合っていましたが、私から見れば似た者同士のようにも思えます。
また、実菓子は母音のみで歌い上げるヴォカリーズの歌い手という設定ですが、これは過去に助けを呼びたい時に「あーあーあーで良いから(叫べ)」と言われたことが何か関係しているのでしょうか。
ヴォカリーズの収録時、そばにいる多聞に対してずっと「助けて」と叫んでいた? あるいは、偏見なく普通の女の子として私を見て欲しいという叫び?
こうした、節々の設定から人物の思いや関係性の想像が止まらなくなる(解釈が正しいかは別としてですが(汗))のが、遠田潤子作品の魅力の一つと(あくまで個人的にですが)思っています。本作は今まで読んだ中で一番その妄想が掻き立てられ、最も興味深く読むことができた作品でした。
ただ、ごんぎつねが多聞と実菓子の関係を暗喩している点は……それを連想させる結末はあまり心に響きませんでした。けれど、実菓子にとって多聞と音楽を綴ったことが「バケツ」ではなく「人」として生きている実感が得られた唯一の時間で、多聞のギターがその象徴だったのかも? と思うと、多聞のギターを買い戻していたという行動がとても感動的なものに思えてきます。
ハッピーエンドというには多聞と実菓子はあまりに多くのものを失いすぎましたが、ゼロからのリスタートを予感させられるラストは、あとがきにもありますが清々しさを感じました。最後の二人の姿が「雪の鉄樹」のラストシーンと重なり、それを読んだ時の気持ちも思い出し、一層感慨深い心境になりました。
Posted by ブクログ
重い。閉鎖的な村で、封建的な旧家が2軒。
大人たちの最低な振る舞いにむかむかする。でも、読むのをやめられない。
多聞はちょっとお人好しすぎやしないか。
Posted by ブクログ
重い、やはり。
最も身近で最も濃密なコミュニティーである家族というユニットだからこそ渦巻き、振り払うことが難しい厄介な感情の数々。
村という閉鎖空間を舞台に、その陰鬱さと対照的に今作も著者の筆は冴え渡っている。
個人的には、最後のドンパチの部分はちょっと作品の格を損なっている気がして蛇足かなと思ったし、嘘の応酬こそが核とは分かりながらもその繰り返しがややくどいかな、とも感じた。
「ごんぎつね」があのような形でラストに活きてくるところはまさに遠田潤子氏の真骨頂であり、さすがの腕力だ。
Posted by ブクログ
「鳴いて血を吐く」の加筆修正、改題した作品とのこと。蔵や、ギター、閉鎖的なムラなど既視感があったのはそれか…
藤屋と斧屋の二軒の旧家が濃厚かつ執拗に代々の人間にのしかかる。入り組んだ話が更にもつれ正しい事は何か分からなくなる。それぞれの言い分はあるものの全体に哀れで悲しく苦しい。
遠田さん、これほどの作品を書いてすり減らないのかな…読んでるだけで疲弊してしまう。
Posted by ブクログ
田舎の村の二大旧家、藤屋と斧屋。後者は廃れ、前者は健在。斧屋に生まれた実菓子が藤屋を狂わす。人気歌手となった彼女にインタビューすることになった藤屋の多聞。父親も兄も実菓子に殺されたようなもの。しかし本当にそうなのか。
彼女はそんなに酷い女ですか。最低の女ですか。凄まじい美貌の不幸な少女。男たちが勝手に、彼女をわかってやれるのは自分だけだと思い込んでいたように感じます。彼女は思わせぶりなことなんて何もしていない。冷めた目をしているようでいて、周囲のことをよく見ている。彼女は人をかばって嘘をつく。みんな彼女に救われていたのに、気づかない。結局、相手のことをいちばん考えていたのは彼女なのでは。
『雪の鉄樹』と『アンチェルの蝶』と同じくらい重くて暗いけど、その2作ほどの圧倒的な余韻はありません。信頼していた人が急に変わる様子など、ついていけない部分があります。それでも、たったひと言、彼女が聞きたかった言葉が明らかになったときはたまらない。