あらすじ
どの藩の経済も傾いてきた宝暦八年、奥脇抄一郎は江戸で表向きは万年青(おもと)売りの浪人、実は藩札の万(よろず)指南である。戦のないこの時代、最大の敵は貧しさ。飢饉になると人が死ぬ。各藩の問題解決に手を貸し、経験を積み重ねるうちに、藩札で藩経済そのものを立て直す仕法を模索し始めた。その矢先、ある最貧小藩から依頼が舞い込む。三年で赤貧の藩再生は可能か? 家老と共に命を懸けて闘う奥脇がみたものは……。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
面白かった!
最初から先が気になってどんどん読み進めた。
藩札掛として貧乏藩を立て直す話だったんだけど、主人公の聡明さと覚悟が伝わって来て痛快だった。
殺陣の描写もあって楽しかった。
清明の人生どうなっちゃうの〜って気になってたら、最後はああやっぱりね……でもどうすんの……って終わり方だった。
そしたら主人公が全く私と同じ気持ちで終わってて、すげ〜ってなった。
すげ〜ってのは、私は小説を読んでて登場人物に感情移入したことがほぼ無いんだけど、これは人が人に向ける感情において、私の気持ちと差異がないのがすごいなって思った。
私が青山文平を読んでる理由はそこだな。
前読んだ『乳付け』でもそうだったけど、そんなこと人生で経験したことないが、そうなったら嫌だなって思う感情を自然に思わせてくれる文章、感動する。
『乳付け』では主人公のお乳が出なくて我が子の乳を別の乳母に頼むんだけど、その乳母が旦那の昔馴染みの美女で、うまくいかない自分がたいへんよそ者に感じられて寂しいって描写。
そんな状況になったことないけど、もしなったら自分は悔しいし悲しいし寂しいし、お世話になってるのに乳母に出てって欲しくなっちゃうなって思った。
多分状況は違えど、人生で似たような疎外感を覚えることはあるんだろうね。
その気持ちを読み手に感じさせるための文章力? 表現力?があるのかなと思った。
Posted by ブクログ
とてつもなく貧困な北国の小さな藩が、藩札(藩内で通じる紙幣)を通じて経済再生を図る物語。
江戸中期の地方経済なんて全く未知の世界で、せいぜい年貢とか冷害とかそんな言葉を知っている程度だったが、船舶すぎる知識でも十分に楽しめた。
まず登場人物たちの設定や背景や描写が良い。主人公なんて女たらしの修行をしている剣術免許皆伝の男。さらには脱藩してその藩をつぶすきっかけすら作っている過去があるという、情報が多すぎて混乱する設定。それなのに小説の中ではすんなり分かりやすく入ってくる。勿論、主人公以外の登場人物たちも生き生きと働き、いきいきと命を落とす。
そう、この小説では命の落とし方もまた大切な描写の一つであり、そもそも「命を落とす」ことができるのが武士の強みと言い切ってはばからない。
鬼となって命を張るのはまずスタートライン、その上で同命がけで動くのか…つまりタイトルの「鬼はもとより」なのである。
命を軽んじる傾向は良くないと思うし、今に当てはめることにも違和感はあるが、それにしても現代政治家どもの覚悟のなさを嘆かずにいられなくなる。
そして、命を懸けずとも、もっともっと真剣にやれることはあるだろうと、自分を叱咤激励できる、そんな良い小説だった。
やっぱ青山文平は面白い