あらすじ
ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持する―このことを可能にする社会的装置が「社会的共通資本」である。その考え方や役割を、経済学史のなかの位置づけ、農業、都市、医療、教育といった具体的テーマに即して明示。混乱と混迷の現代を切り拓く展望を開いていく、著者の思索の結晶。
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Posted by ブクログ
以前から勧められていたが、コモンズについて関心を持ったことを機にようやく読んでみた。日本語でコモンズをわかりやすく解説してくれている。それにも増して、この当時から気候変動問題に真正面から対峙し、炭素税の仕組みを提唱していたことには、畏れいる。
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もともとは数学の専門家だったのが、社会を良くしたいという「正義感から」経済学に転向し、36歳でシカゴ大学の教授になられたという宇沢先生の本になります。宇沢先生の教え子である岩井克人さんの本(『経済学の宇宙』)にも書かれているように、宇沢先生の心は新古典学派にあらず、新古典派およびその後裔であるマネタリスト、合理的期待形成学派について本書でもバッサリと切り捨てています。宇沢先生の言葉を借りれば、マネタリスト、合理的期待形成学派の人々は「反社会的勢力」の最たる人々、ということになりそうです。
本書からも宇沢先生の「社会を良くしたい」という熱い思いが各所からあふれ出しているのがわかります。本書で書かれていることを私なりに解釈すると、外部不経済、つまり市場の内部では評価されない害の存在を改めて認識したうえで、環境問題における炭素税の導入のように、それ(外部不経済)を内部化することが望ましいケースはありつつも、すべての領域に市場原理を持ち込むのはもってのほかだということです。その最たる例が教育、医療分野だということで、つまりモノではなく人間自身に関わる領域ということです。このあたりはマイケル・サンデルの主張とも共通するところがあります。両人とも「正義」とは何かという問題意識があるということです。
岩波新書ということで、全般的にかなり平易に書かれていて、高校生・大学生にも読めるような配慮がなされていると感じました。逆に言うと著者は若い世代に対して強いメッセージを発信したかったのかな、とも感じましたが本書は全年齢層の人が一読すべき本でしょう。
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1928年生まれの著者
2000年刊行の岩波新書
なのだが、内容は2021年現在深刻に語られているすべての経済的、SDGS的持続可能社会への道標となる考察に満ちている。
俊英としてアメリカ経済学界でノーベル賞受賞のスター学者たちの中にあっても一目置かれていたという宇沢氏が、日本に帰国、高度成長真っ只中で積み上げていった知見。
時代より早過ぎたのかなあ。
そして本書に書かれていることが、過去50年に少しでも顧みられていたならば、地球の現在はもう少しマシになっていたはず。
しかし、経済が自己増殖し続け、環境も人のコミュニティも破壊し続け、ついには崖っぷちまで来てしまった現状、理性や良心や次世代への思いやりなどを当てにしていてはその力に歯止めをかけることはできない。
藤原正彦氏などに共通する、旧制高校出身エリートの良心を感じる本。
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この本の基本的概念=「制度主義」
それは人間が豊かに生きることができる社会をめざすこと。資本主義は経済面では豊かになるが人が豊かに生きれるかと言ったらそうではない。
制度主義の重要なキーワードは「自然環境」「社会的インフラ」「制度資本」から構成される3つの社会的共通資本。
これらの社会的共通資本を「より人間的で、住みやすい社会」を前提にどう管理していくか。各国における政策の歴史や各専門分野の著名人の理論などを参考に、社会的共通資本に対してどのような変革が必要かを提言している。
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宇沢弘文先生の理論の中核本
大学時代塩野谷先生にご紹介頂いて40年漸く読破良かった
資本主義経済体制の限界・本質的問題は今日的「格差問題」
市場原理主義から漏れる「社会資本」の劣化
SDGsの問題意識に通じていると思う
宇沢弘文先生の価値観が求められる時代 コロナで加速する
バイデン大統領の理念は近いものがある 米国の力が間に合うか
1.アンチ新自由主義
資本主義のダイナミズム リスクテイクとアップサイドリターン
市場の失敗 外部経済の統制 市場化・政治規制
2.地球という枠組みが劣化すると
与件の中で成果を最大化する資本主義は新たな制約を受ける
3.農村 都市・自動車 学校教育
4.学校教育
5.医療
6.金融制度
7.地球環境
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難しいことを易しく、経済学的視点から社会のシステムについて述べている。ポスト資本主義、アフター(ウィズ)コロナの社会システムとしてかなり素晴らしい案だと思う。2000年の著作。著者の慧眼に敬服。
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宇沢『社会的共通資本とは、一言で言えば「誰にとっても等しく大事なもの」を「社会にとっての共通の財産」として大切にしようということ..具体的には、「自然環境」「社会的インフラストラクチャー」「制度資本」の三つの大きな範疇に分けられます』
教育も研究も社会的共通資本だよね。オススメ!
Posted by ブクログ
2020.24
良書すぎた。
・社会的共通資本とは、人伝的に魅力ある社会を持続的安定的に維持することを、可能にする社会的装置
・自然環境、社会インフラ、制度資本の3つで構成される。
・市場機構や、評価、官僚的な管理をされるべきものではない。
Posted by ブクログ
堅苦しい。哲学ほど難解ではないが、スラスラとは読めない。もう少し柔らかく表現してくれると読後の満足感がもっと高くなりそう。
マネタリズムはキワモノ。市場至上主義は行き詰まり、修正が必要となること。戦後から現在をカバーする大きな物語でした。
権力を行使する役割を担う人と、その際の意思決定にあたり専門家として助言する人と、そいうった人たちを選んだその時代を生きる人たちの、ちょっと笑えない壮大なコント、とも思えました。
企業価値を上げること至上主義の今の日本、やっぱ周回遅れなのかな…。取り残されてしまう人たち、疎外感を感じてしまう人たちが一定数を超え、分断が政治情勢や社会現象に顕在化するほどになってしまうのかな…。
なかなか、うまくはいかないものですね。
Posted by ブクログ
SDGsの考え方のもとになることが書かれています。初版は1994年です。
まさに2025年現在、環境問題、経済格差などの社会的問題について、この頃から声をあげていたのかと感心させられる。
まずは、本を知った経緯や読んだ経緯を。
当方エネルギー関係の企業に勤めています。5-6年ほど前になりますか。上司から読んでみろと言われ、受け取ったと記憶しています。
読んだか読んでないか記憶になくなってましたが、最近家の掃除をしていると出てきたので改めてちゃんと読んでみました。
5-6年前とは、世界情勢も自身の知識や考え方も異なり、より本の内容がスッと入って来ました。
ゆたかな社会とはどういうものを指すか。
格差のない、文化的でゆたかで自然と共存した生活をすること。これをゆたかな生活ではないだろうか。
本書では社会的共通資本を
自然環境(大気、森林、河川、海)
教育や医療、インフラ、司法、金融
と捉えている。
これらは資本主義、競争の中にあってはいけないいが、競争のないところは腐敗するので、適切な管理がいる。
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文化的で豊かな社会を持続させていくためには社会におけるどのような分野の要素、仕組みを「社会的な資本」として考える必要があり、それらの要素を管理するために必要なのはどのような視点か、著者の基本的な考えを概論的に論じた一冊。テーマは農業、都市、医療、教育、金融。本書の出版から四半世紀が過ぎ、時代はまた「資本主義のアップデート」などが各方面から議論されるようになってきたり後期マルクスの研究や再解釈も進んだりしている中で、新自由主義経済に対する独自の視点を語り続けた宇沢弘文は今後再注目される経済学者の一人ではないかと思います。
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新書で手軽に考え方がつかめてよい。社会的共通資本=みんなの資源はみんなで大切に使おうね、という考え方を1970年代から言い続けてきたところが意義深いかと。経済学の中に位置付けるのは大変だけども。
農業(自然)だけでなく、都市、教育、医療、金融制度などを社会的共通資本として取り上げていて興味深い。
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一読しただけの感想という前提で、今も議論になっていることを2000年当時から問題提起していたのはすごいなーという感想にとどまってしまう。くるま社会のところは面白かった。「会社法は誰のためにあるか」を読んだ時と同じような痛快さを感じるが、その痛快さへの乗っかり方に気をつけたいと思う。
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第1章は社会的共通資本の総論。経済学の講義のようでとても難解。第2章以降は、農業・都市・教育・医療・金融・地球環境と、個別具体的な各論で、こちらは判りやすかった。農業基本法が、個別農家と一工業事業所とを同列に位置づけていることへの問題提起をしているが、まったくそのとおり。「輝ける都市」の人間を無視した都市構想の問題も然り。地球環境での炭素税の考え方を発展させて、国連単位で炭素量に応じた基金への拠出+森林面積に応じた基金からの交付金という制度があれば、発展途上国の森林保護の動機づけにならないだろうか?
Posted by ブクログ
宇沢弘文教授の数式のない経済学。
まずここは、著者による「ゆたかな社会」についての明快な定義の引用から始めるべきであろう。
「ゆたかな社会とは、すべての人々が、その先天的、後天的資質と能力とを充分に生かし、それぞれのもっている夢とアスピレーション(aspiration: 熱望、抱負)が最大限に実現できるような仕事にたずさわり、その私的、社会的貢献に相応しい所得を得て、幸福で、安定的な家庭を営み、できるだけ多様な社会的接触をもち、文化的水準の高い一生をおくることができるような社会である。」
そしてこの実現を妨げている最大の要因が資本主義経済、とくに資源の私有を無制限に肯定するメカニズムである、というのがおそらく著者の基本的立場なのだろう。
私は、資本主義に対して、かつて民主主義についてチャーチルが語ったのと同じような感覚を持っている。すなわち、資本主義は最悪の資源配分方法である、これまで試みられてきた他のすべての方法を除いて、というような。とくに今日のようにお互いの顔の見えない巨大化した社会においては。
“democracy is the worst form of Government except for all those other forms that have been tried from time to time”(W. Churchill)
これを打破するために著者が導入するのが社会的共通資本である。
昨今、地域コミュニティなんかではコモンズの考え方がリバイバルしていたりするのをみると、著者の先見性には驚かされる。
また、実際読んでみると一部で誤解されているような意味でのマルキストでもなんでもなく、資本主義に基づかない効率的な資源配分を模索するというごく真っ当なテーマを追究していることがよくわかる。
その上で、あえて言うなら、うーん、多分宇沢先生バイトしたことないな。ていうか働いたことないんじゃないかな。
これ、今流行りの斎藤幸平さんにも感じたことなんだが。
はたらいたことない、をより簡単に言うと要するにモノに値段をつけたことがないんじゃないかなと。
例えばカテキョーだって時給の設定を間違えたら生徒は集まらない。これは何も金融資本主義のせいではない。
自分の手がける商品の性能や、世の中の需要や、自分のプライドや、そんなこんなを総動員して決めるのが値付け。働くっていうのは自分の労働への値付けという面もある。
資源配分を歪めているのは、強欲な独占資本、というほど宇沢先生の議論は単純ではないけれど、一度でも自力でモノを売れば新しい発見もあるんじゃないですか、という感想も持った。
というわけで、俗世間で働いている暇などないほどの知の巨人の考察、と考えれば極めて有益な本。
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社会的共通資本について可能な限りシンプルに定義を試み、経済学的なアプローチで課題と対策をハイレベルな見地から示している。
宇沢氏のアカデミズムの端的な集大成なのかもしれないと、初心者には大変ありがたい著作だ。
既に20年経過しており、様々な環境変化を加味する必要はあるものの、普遍的な視点も多く、参考になる。特に、社会的共通資本としての医療は、指摘されている経済性の命を守る医療のバランスの難しさが最後は医療関係者の高邁なモラルに依存する、という指摘は、高齢化社会真っ只中の日本にとって喫緊の課題だ。
最後に、各共通資本項目をまとめると、今、そして将来、人類社会はどうすべきかどうあるべきかという示唆を宇沢氏から示して欲しかった。
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宇沢弘文の伝記『資本主義と闘った男』の後に読んだため、理解しやすかった。
社会的共通資本という概念を踏まえて、炭素税のあり方や食料自給率の問題など、現在にも通じる課題が検討されている。本書で提言されている政策は納得感があるが、”経済の定常状態を想定している”という点が、受け入れられにくかったのかもしれない。
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22年前に本書が出版され、日本では宇沢氏の言葉は響いたのであろうか。
社会的共通資本に対して市場メカニズムを適用し食い尽くすことは、一時的な経済発展を将来世代の安心と天秤にかけて自分達の経済発展を優先するに等しい愚行である。
既にツケを回された"将来世代"である我々が更に自分達の子どもや孫に同じ愚行をせず、何ができるかを考え行動する事が求められる。
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2019年に出版された評伝『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』が大変素晴らしく、いつか本人の著書をしっかり読みたいと思っていた矢先、ちょっとしたきっかけで本書と出会いセレクト。
本書は宇沢弘文という経済学者が後期に提示した”社会的共通資本”の概念と重要性を平易な言葉で語りながら、ひいてはハイエク〜ミルトン・フリードマンに代表される市場重視型の経済学がこの社会的共通資本をないがしろにしていることへの警鐘を鳴らすことを目的としている。
”社会的共通資本”と書かれるといかめしく聞こえるものの、現代の我々にとってみれば”コモンズ”という言葉で置き換えた方がピンとくるだろう。道路・鉄道・電力・通信等の社会的インフラストラクチャーが該当するのは当然として、”社会的共通資本”に含まれるのは教育・金融・医療などの社会の基盤となるような諸制度、そして宇沢弘文が晩年に最も力を入れた環境問題などが、”社会的共通資本”に含まれ、これらをそれぞれの領域でのエキスパートの人的能力を活かしつつ、国家が適度な介入を行う(その点で市場に全てを委ねるハイエク・フリードマンらの手法とも、国家が全てを支配しようとする社会主義とも当然異なる)のが、著者の説くあるべき”社会的共通資本”のマネジメントアプローチである。
この背景には、特に1970年代ごろから米国のレーガン、英国のサッチャー、日本の中曽根康弘など世界各国で同時多発的に起こった市場原理主義経済への強い警鐘がある。かといって、資本主義を批判するために社会主義のような馬鹿げた理論に依拠することのではなく、資本主義の枠内でどのような是正が可能なのかという点を真摯に考え続けた点に、宇沢弘文という学者の今日的な意義があるのだろう。
直近では日本において若手の論客が資本主義の限界をマルクスの読み直しから解こうというする馬鹿げた理論が跋扈していて頭が痛くなっていただけに(それをもてはやしている一部のビジネス界の人間も同様にアホとしか言いようがない)、引き続き、宇沢弘文の理論を個人的に学びたい、と思っている。
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民主主義とは、教育とは本来…というところからそれぞれ始まり、農業、教育、医療…に資本主義の論理を持ち込むからおかしくなっているということはよく理解できる。この辺りは『人新世の「資本論」』にも通じる。
こういった分野について、資本主義からは切り離し、「社会的共通資本」として、その道の専門家が管理する=既存の行政からも切り離すのも理解できるのだが、その実現の道には踏み込めていないように思う。
恥ずかしながら、電機メーカー出身のため、工業の生産性論理を農業にも持ち込めばいいんじゃないかと思っていた。そんなことは当然誰もが考えつくものであり、結果、資本主義市場に巻き込まれて、工業部門に押されて農業が衰退しているというのは大きな気づきであった。
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内田樹さんがオススメするので、
そしてまた自分の仕事に使えるロジックかと思ったので、
名前は知っていたが、ついに読む。
経済学的にも業績を残した方であるが、
評価は難しいな。
本の内容もあまり感心しなかった。
でもまた読む返すのではないだろうか。
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農村を美化しすぎており、工業を悪く見すぎている。当時の時代背景からすれば正しいかもしれないが、現在は資本主義のスキマを埋める会社や試みも増えている気がする。農業と農村の社会的共通資本について、三里塚農社構想を挙げている。たしかに、農村に魅力を呼び戻すには、個人の活動よりも、一定規模の取り組みがあって初めて可能になることを理解した。
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ヴェブレンの「制度主義」の発想を継承しながら、「私的資本」と区別される「社会的共通資本」の重要性をわかりやすく解説している本です。
著者がさまざまな機会に発表した文章をもとにしているようで、農業、都市、教育、医療、金融、そして地球環境といった多様なテーマをとりあげ、社会的共通資本を重視する立場から、人類社会のどのような展望がもたらされるのかということが説かれています。
著者は「制度主義」の基本的性格を説明するさいに、「私たちが求めている経済制度は、一つの普遍的な、統一された原理から論理的に演繹されたものでなく、それぞれの国ないしは地域のもつ倫理的、社会的、文化的、そして自然的な諸条件がお互いに交錯してつくり出されるもの」であると述べています。さらに、「農村の場で形成される人間的な雰囲気からは、私がかつて受けたような強烈な印象を与えるような若者たちが比較的多く育つのではないだろうか」といったロマン主義的な発想が表明されてもいます。その一方で著者は、「制度主義」がデューイのリベラリズムの立場を継承するものであると説明しており、一人ひとりが異なる資質をもつ人間を尊重し、それぞれの可能性を十全に引き出すことのできるような社会を求めています。
この二つの主張は、かならずしも折りあいがよいとはいえないようにも思えるのですが、著者のなかでどのように調停がなされているのか、本書を読んだだけではあまり明確に理解することができなかったように思います。
Posted by ブクログ
ケインズ経済学
①希少資源の私有制
②所得分配の公正性
社会的共通資本
・一つの国ないし特定の地域に住む全ての人々が、ゆたかな生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置
・自然環境、社会的インフラ、制度資本
・職業的専門家によって、専門的知見に基づき職業的規範に従って管理維持されるべき
政府による官僚的管理、市場的基準に従っておこなわれるものではない
・新自由主義はケインズ経済学の反動を受けたもの。市場原理主義。制度主義とは対比的。
・自動車の社会的費用。所有者なしは運転者が負担しなければならない費用を、歩行者あるいは住民に転嫁して、自らはほとんど負担しないまま運転。社会的費用が少ないから、大きな利益を得ることができ、自動車の需要は限りなく増大。社会的費用の内部化が必要。
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社会共通資本
◯社会的共通資本とは
・制度主義は資本主義と社会主義を超えて、全ての人々の人間的尊厳が守られ、魂の自立が保たれ、市民的権利が最大限に享受できるような経済体制を実現しようとするもの。
・社会共通資本はこの考え方を具体的なかたちで表現したもので、社会的装置を意味する。
・自然環境、社会インフラ、制度資本(教育、医療他)の三つの範疇に分けられる。
・実質的所得分配が安定的となるような諸条件
・社会的資本はそれぞれの分野の専門家によって職業的規律に従って管理、運営される。政府の指示や市場原理によるものではない。
◯社会主義の失敗
・計画経済は、中央集権的な性格を持つものは言うまでもなく、かなり分権的な性格を持つものも例外なく失敗した。
・計画経済が個々人の内発的動機と必然的に矛盾することが根源的な原因
◯分権的市場経済の矛盾
・実質所得と富の分配の不平等化は止まらない。
・利潤動機が常に倫理的、社会的、自然的制約条件を超越して社会の非倫理化を極端に推し進める。
・世界恐慌後に出てきたケインズの一般理論は、マクロ経済学の枠組みを作り、その後の世界の経済成長を支えた。
◯農の営み
・農業は工業と比べると生産性に劣るため、放っておいたら縮小して行ってしまう。
・農村規模を社会的観点から望ましい規模に安定的に維持することが必要。そのため一定割合が農村にいる誘因を作る必要がある。
・農業は産業的範疇を越え、多様な自然と生態系を守り、人間的成長を促してきた。
・コモンズの管理は信託された人が行う
◯都市
・移動手段、輸送手段として自動車が爆増した。しかし社会的費用は添加されていない。これは道路の整備と保守、交通安全だけでなく、子供達が安全に使えなくなってしまったことによる損失も含める必要がある。人命や大気汚染も本来的に含める必要がある。
・日本は住める面積が狭いため、特に社会的コストが大きい。それでも自動車が普及したのは道路整備にも自動車産業にも雇用を生む力が強かったから。
◯教育
・一人一人の子供の特質を生かし、立派な社会的人間として成長き、個人的に幸福な実り多い人生をおくれるよう成長を助けるもの。
・大学に自由が必要
◯医療
・保険点数制度による診療報酬制度が問題で、医療的基準と経営的基準の乖離をもたらしている。物的なものに点はつくが医師や看護師の技術やホスピタリティにはつかない。この報酬だけでは全然足りないのだが、これを検査、投薬、輸血による黒字で補填している。
◯環境
・経済学では、ある一つのエリアでの自然資源(材木、魚の量)の推移で考えるが、実際には大気や流入物といった様々な条件関与している。
・伝統的社会では、自然は宗教の中に含まれて考えられていることも多く、自然資源を持続的なかたちで利用することは、文化であった。
・人の移動が自由になり、文化宗教環境の乖離、植民地化のプロセスによって資源の搾取が広範なエリアで行われるようになっていった。地域に根ざした知識は無視され否定されていった。
・キリスト教、哲学、経済学と、自然を人間がコントロールできるという論調を強めていった中で経済成長が重視されていった。
・環境と経済の両立 by ミル「経済学原理」
国民所得、相対価格体系、資源配分のパターン、名目所得の分配などが時間を通じて一定水準とする
・炭素税は有力だが、排出量あたりの税額を世界で統一すると途上国は大変厳しい。GDPで傾斜をつける必要がある。
Posted by ブクログ
資本主義とは?改めて疑問を感じさせてくれる一冊。特に医療システムのパートは医療崩壊の可能性が叫ばれる昨今に読むと、もっともな内容でもある。
他方で新書で経済を専門としていない読者も対象ということもあり、少々著者の理想をただ書いているだけ、という印象にもとれる内容になっているのが残念。
この本をベースに解釈を広げる勉強の場があると面白いと思った。
Posted by ブクログ
社会を豊かに保ち続けるために大切な要素を社会的共通資本として定義し、国家の管理でもなく、市場に任せるでもないあり方を論じた本。社会的共通資本は自然環境、社会的インフラ、制度資本に分かれている。
「全て」を国家が管理する社会主義か、市場の自由競争に任せる新自由主義かという二項対立に対して、「一部」はまた新しい形でのありかたが大切だと説いている。
ともすれば、「全て」「二項対立」「0か100か」で語られがちな政治・経済に対して、「一部」「折衷案」「個性記述的」に考える視点を与えてくれる。
文章は当初の入りが平易でありながら、途中経済学的議論が展開され、少しついていきにくい部分はあったが、一方で説得的でもあった。経済学の知識をさらにつけてチャレンジしたい。