【感想・ネタバレ】人口と日本経済 長寿、イノベーション、経済成長のレビュー

あらすじ

人口減少が進み、働き手が減っていく日本。財政赤字は拡大の一途をたどり、地方は「消滅」の危機にある。もはや衰退は不可避ではないか――。そんな思い込みに対し、長く人口問題と格闘してきた経済学は「否」と答える。経済成長の鍵を握るのはイノベーションであり、日本が世界有数の長寿国であることこそチャンスなのだ。日本に蔓延する「人口減少ペシミズム(悲観論)」を排し、日本経済の本当の課題に迫る。週刊ダイヤモンドの2016年〈ベスト経済書〉第1位。

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Posted by ブクログ

10年くらい前の本ですが、課題や問題点は今と変わらず。想定より早く人口減少にさらされており、やはりイノベーション、それも世界を変えるレベルじゃなくても、より良い生産性が必要になってくる、と改めて感じた。
何となく思っていることを言語化してくれる本だと思いました。

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2025年02月16日

Posted by ブクログ

少子化が叫ばれる日本の出生率は2023年に1.20まで低下した。アフリカ諸国の6.0と比べると圧倒的に低く、先進国の中でも最低レベルを推移している。一方で平均寿命は男女共に80歳を超えているから、相対的に少なくなる若年層の負担は今後暫く増加していくのは間違いない。何より寿命は誰にでも訪れるから、出生数が減少することは将来に渡り人口が減っていく事を表している。
18世紀のイギリスの古典経済学者であるマルサスが著した「人口論」は食料生産力の増加を超える人口増加は人々を経済的貧困に陥らせる事に警鐘を鳴らし、人口抑制策の導入の必要性を説いたが、今の日本の未来はその反対側の方向へと向かっている。だが世界レベルで見れば地球上の人口は100億を近い将来超える勢いがあるし、既に食糧不足を危惧する声は大きくなって、日本でも最近昆虫食に注目が集まるような状況だ。
日本の様な人口の減少が今後何を引き起こすかについては、自然に考えつくのは経済活動の停滞に伴う、経済規模の縮小の懸念であり、昨今GDPでドイツに抜かれたことからも、それを思い浮かべる人は多いだろう(実際は円安に伴う影響が大きいだろうが)。だがドイツも出所は低迷し、日本と大きくは変わらない。違いは移民を受け入れる政策にある。移民を受け入れてまで経済拡大を望むか、人口減少による経済縮小を受け入れつつも、日本人としての道を歩み続けるのか。人それぞれ考え方の違いはあるだろうから、議論が分かれるところだ。
では経済の拡大は望めないのか。本書では過去の日本が高度成長期に労働人口の増加率を遥かに凌駕する経済成長を遂げたことに注目する。それは技術革新・イノベーションの力であり、必ずしも人口の増減と経済規模が単純比例しない事に触れる。また、その背景には人々が裕福な暮らしを望み、モノを欲しがる気持ち、所謂需要が旺盛であったことが、市場の拡大を生み、日本が世界有数の経済規模になれた事にも言及する。人間の欲は無限で、他人よりも豊かな暮らしがしたい、美しい服を着たい、美味しい物を食べたい、といった欲望が経済の拡大を引っ張る要因である事を説明する。
だが人間的な裕福が必ずしも経済規模だけで測れるかと言えばそれはノーだ。現在進行形の人口減少がこのまま続けば、勿論何もしなければ経済規模は縮小し、世界での順位は下がり続けるだろう。だがしかしそれがそのまま不幸な事だとは言い切れない。昨今量より質が問われる時代であり、更には個人の嗜好が重要な時代に入る。私にとっての幸せと他人の感じる幸せの尺度は異なる。それぞれにとっての幸福度は、国の経済規模だけでは測れない。
そうした様々な考え方と議論の中で、読者が何を考え、何を幸福・豊かさの基準とするか。我々一人一人に問いかけてくる一冊である。
また最終的にはこれからの超高齢社会や人口減少は社会が変わる節目であり、そこに新たにビジネスやイノベーションが巻き起こるチャンス・機会とも捉える事ができる。そうした意味でその時代を生きる我々の周りには凡ゆる検証機会ときっかけが溢れているという事を教えてくれる。ただひたすらに産めや増やせやで人口も生産も増加させた時代は終焉したのだから、新しい時代の新しい考え方、価値観を持つ事が重要になってくる。

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2024年07月09日

Posted by ブクログ

人口減少は大問題だが、それが経済停滞の言い訳にはならない。国内外問わず需要を創出するイノベーションと生産性向上することで、経済は人口と関係なく成長可能。
経済成長の是非まで言及されており、徹底して客観的な分析姿勢が窺える。そのため、納得感が高い良書であった。

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2022年01月21日

Posted by ブクログ

ライフネット生命創業者の出口さんのオススメ本。
●レビュー
・人口と経済の関わりを、歴史、海外との比較、経済学者などの論考への分析などの多面的に検討する画期的一冊。
・人口は増えたほうがいいとか、減ったほうがいいとか、単純な議論ではなく、双方のメリット、現状の問題点などを洗い出している。
・人口減少に伴う諸問題(GDP減少懸念、高齢化、長寿問題)に対する解決策は、イノベーションと移民受け入れですって結論は割とシンプル。

●ほか
・マルサス、アダム・スミス、ケインズ、ミル、漱石、老子、内藤湖南など引用が豊富。
・GDPのメリット(経済のサイズを測るに便利な指標である点)とデメリット(家事の価値など)は参考になった。
・高度経済は実は内需が支えていた、ってことを仰られていて、その点、野口悠紀雄さんとかが仰ってたこと(キャッチアップモデル、人口増加、圧倒的円安、1940年体制とかだったかな)に対してもう少しデータに基づいて話してくれると嬉しいです。

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2017年10月10日

Posted by ブクログ

日本は少子高齢化により人口が急激に減っている。働き手は減り、地方都市は消滅の危機にある。もはや日本の衰退は不可避ではないかという論調が多いが、そのようなことはない。経済成長をもたらすものはイノベーションであり、人口が減っていくからといって、衰退が避けられないというものではない。以上が、本書の骨子中の骨子だと理解した。
それでは、そもそも経済成長って必要なのか、必要だとすれば何のために必要なのか、という問いも本書は投げかけている。この問いに対しての、私なりの理解を下記したい。

経済成長をもたらすものがイノベーションであるとすれば、イノベーションのないところに経済成長は起きない。では、イノベーションが起これば、どのような良いことが起こるのか。端的で分かりやすい例は、平均寿命の伸長である。平均寿命の伸長には、多くのイノベーションが与っている。それは、例えば、新しい薬の開発であったり、新しい治療方法の開発であったり、あるいは、国民皆保険や乳児に対しての予防接種というような社会システムもイノベーションとして考えても良いかもしれない。これらのイノベーションが平均寿命の伸長という果実をもたらしたのである。経済成長が起こっているということは、どこかの分野で、このようなイノベーションが起こっているということであり、一般的にイノベーションが起これば社会を良くするものである、これが経済成長が必要な理由の一つである。
また、成長か平等か、という議論が別にある。経済成長の結果、世界の多くの国で所得格差が広がっているのではということが言われている。しかし、格差を是正するためには、やはり成長による原資が必要となる。そういった面からも経済成長は必要である。ただし、これは成長した「から」格差が是正されるという関係にはなく、それはそのための対応が必要な事項である。

たしかに、このようなことは言えるとは思うが、事はそれほど簡単ではない気もする。少子高齢化により、高齢者人口が増大したことにより、社会保障費により多くの原資が必要になっている。経済成長により、国の富が増えても、そのうちの多くの部分を、追加の社会保障費に費やさざるを得ない状態が、今の日本の状態ではないだろうか。個人から見れば、折角、給料が増えても社会保険料や税金の増加により、それがなかなか実感できない、そういう状態かと思う。「イノベーションが経済成長をもたらす。従って、必ずしも人口減少は、あまりに悲観的に考える必要はない」という本書の考えは、少し楽観的かな、とも感じる。

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2024年03月09日

Posted by ブクログ

過去の日本や欧州、アメリカの過去のデータから分析しているので内容が凝縮されている感じでした。戦前の日本は、平均寿命や寿命のジニ係数(不平等度)から見れば、大いに問題があった等、色んな意見に関してこうだったと調査結果を載せている内容は良かったと思います。
経済成長といっても吉川氏は何が何でも成長ではなく、成熟した先進国においてもそれぞれの経済に合った経済成長という意見なのも好感がもてましたね。

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2021年05月08日

Posted by ブクログ

人口問題から経済学を見るなんて面白い発想だなと思って手に取ったのだが、全くの勘違いであった。面白い発想どころか人口問題とは経済学のメインストリームであることを本書で初めて知った。
10年前にベストセラーになった藻谷氏の「デフレの正体」を著者が意識したかどうかはわからないが、経済成長は人口ではなくイノベーションによって決まる、が本書の主軸だ。確かに直接の因果を突き詰めればそうかも知れぬが、イノベーションは人間がなすものなれば、その数が多いほどイノベーションが生まれる確率も動機も高くなると見るのが自然だろう。さらに言えば経済成長と人口増減の相関を見るなら両者の微分をスケールを標準化して比較しなければ結論を出せないと思うのは理系人間だけ?
また国債を日本人が持っているから安心だとの説(今で言うMMT?)に対する反証として、株と外国人株主で喩えているがこれもナンセンスだ。国債を企業活動に例えるなら、社債をその会社の従業員だけで保有している状態を想定すべきだし、その場合は会社は社債を返すために従業員の給料を下げる手段が取れる、という意味で社外の債権者に返済するのとは意味が異なるだろう(それが解決策だとは思わないが、増税で国債を償還するのはそういうことだ)。
このように首をかしげる内容も少なくないのだが、「経済成長の飽和点=ゼロ成長社会」が存在するかどうかの命題は、「これ以上の寿命の延びを望むかどうか」に置き換えられるという説明は納得できる。言われてみれば不自然なテクノロジーで寿命を無理やり延ばす様子は、どうでもよいイノベーションでさして必要のない商品を無意識的に購買させられる姿と重なる。100年前なら葬式で「それは寿命でしたな」と慰められる状態も現在では短命と嘆かれる。つまり「寿命」には生物学的な定義などなく、人々の観念上の概念に過ぎないのだから、「これ以上長生きしなくともよい」との合意が形成されればゼロ成長社会が到来するのかも知れない。ただしその世界は旧共産圏のような色のないものになるだろうが、それも人々の総意なら皆Happyであろう。

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2020年04月19日

Posted by ブクログ

筆者が本書で主張していることは、「人口減少・高齢化時代の中で経済成長を遂げるために必要なものはイノベーションである」という1点に尽きると思われる。

人口減少については経済力が失われるという悲観的な議論になりがちであるが、著者はイノベーションによって経済成長は十分可能であるという見方をしている。

ただし、イノベーションを起こせるかは企業次第であり、日本企業に対して注文も付けている。

著者はマクロ経済学の専門家であるため、企業がどのようにしてイノベーションを起こすかまでは踏み込んでいない。企業家が考え、実践すべきことだろう。

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2019年08月17日

Posted by ブクログ

 生産性の向上を如何に成すか、が本書のテーマ。

 人口が増えずに生産手段の機械化(人力からブルドーザー)によって経済成長をした、という箇所は分かりやすかった。

 ただし、機械化が益々進み、更にAI・人工知能が加われば、人(労働者)はさらに不必要になるだろう。現在でも消費者と労働者のバランスが崩れている(本来は一人の人間において不可分)というのに、これから益々歪な在り方が進むのだろう。

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2019年04月28日

Posted by ブクログ

ジニ係数の定義。再分配を考慮したジニ係数は当然低い。再分配を考慮しない年齢別ジニ係数はとくに高い。平均寿命に関する格差も挙げられていて、昔は裕福さに比例した格差があったが今は格差はあまりない。19世紀末の平均寿命はアメリカと日本はほぼ差がないが、1945年まで日本は横ばいで50代?だったのに対し、アメリカは70近く?まで伸びている。衛生管理や病院の復旧度合い。GDPは不完全な指標だが、これほど重要で情報を持つ指標はほかにない。料理を自分で作るとGDPは増えないが、外食するとGDPは増える。お金の移動のない価値創造に対して、換算がされない。こういった指標は昔は戦前ヨーロッパで研究されていた。今は国連がやっている。需要の飽和により不況が発生する。経済活力の源は人間の欲、ぜいたく、恋愛。イノベーションによりGDPは上昇する。

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2019年02月24日

Posted by ブクログ

少子化が日本の課題であることは間違いないが、少子化が経済の衰退を必ずしももたらすわけではない。
無知による悲観でも楽観でもなく、問題を正しく認識することが必要。

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2019年01月11日

Posted by ブクログ

日本において進行する超高齢化と人口減少問題については、毎日のように新聞紙上にて論ぜられ、それにより国家の増大する一方の歳出に対する懸念は論を俟たない状況です。

筆者は、昭和期の高度経済成長が、労働人口の増加ではなく、生産性の向上により実現されたことを、GDP伸び率と人口伸び率の差を示して指摘し、人口減少社会でも生産性を向上させることにより経済成長を達成できると説きます。

中国製造2025やドイツのインダストリー4.0等、製造業でのイノベーションを喚起する国家的取り組みが世界的にも大きく注目されている中、日本では特定の業種(例えば自動車)で、革新的取組への意欲(自動運転、電動化など)が見られますが、それはグローバルな競争への対処であって、独自性に乏しいような気もします。

グローバルなシュンペーター型競争市場で頭角を現す企業が出現することにより、更なる経済成長を達成する期待はあるものの、一方で日本では企業が現金をため込み健全なリスクテイクが行われていない状況があります。

労働力不足を補うための外国人単純労働者の受入れが叫ばれていますが、停滞する日本企業をグローバルな市場へと連携させる外国人プロ経営者の招聘、というのも状況の打開への起爆剤となるかもしれません。

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2019年01月02日

Posted by ブクログ

私の理解では論旨はこんな感じ。
①「人口減少は大きな問題だが、だからといって経済成長できないわけではない」
②「経済成長はよいことである。最大の成果は寿命が延びたこと。人は幸せになった」
③「日本自身の経験に照らしても、成長ドライバーは人口ではなく『イノベーション』」

まず①については、「観光立国論」のデイビット・アトキンソン氏の意見が対極だろう。氏は「日本の奇跡的な経済成長は(日本人が思っているような)国民性やらなんやらではなく、要は急速な人口増によるもの」との立場。もちろん、だからこそ構造改革を、という点で両氏は通底している部分もあるが。

②について、成長を追わずに身の丈にあった暮らしを、といった意見を真向否定。ときにノスタルジックに語られる江戸時代についても(人骨などから判断できるとおり)栄養失調で寿命は短く、都市部は過密、今のほうがずっと幸せ、とすっきりしている。

では③、吉川先生が言う成長のための「イノベーション」とは何かと言えば、いわゆるサプライサイドというよりはつまりは「需要を作り出す工夫」のことと解釈した(大人用紙おむつや通勤用のグリーン車などを例示)。日本企業は内部留保貯めこんでなにやってるんだ、ちゃんとビジネスに使いなさい、と。

閉塞感に満ちた我が国に、理論とファクトで「人口減少は危機、その上でポジティブな未来はある」と訴える姿勢はすがすがしい。
とはいえ現状の財政を支えられるほどのイノベーションがありえるのか、企業が外需に目を向けるのは仕方ないのではないか、具体的なアイデアは、といった点は「それは下々の(笑)実務者が考えなさい」と割り切った本。

ともあれ、人口減問題のマクロ的理解として基本書と思う。

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2019年01月01日

Posted by ブクログ

経済学から見た人口論に関する総合的議論。寿命との関係性で考えるのは興味深い。日本では生物学的な寿命の延長が限界にきている。次は健康寿命、QOLが課題。それには膨大なプロダクトイノベーションが不可欠。先進国の経済成長を生み出すのはそうしたイノベーション。

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2018年10月09日

Posted by ブクログ

2018.02.03 読書中
日本だけでなく海外も含めて、過去の人口増減に関する歴史や諸説について、文献などを引用しつつ解説されており、なかなか面白い。新書の中でも、非常に中身の詰まった本だと感じる。

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2018年02月04日

Posted by ブクログ

吉川洋 「 人口と日本経済 」経済成長と人口の関係についてのエッセイ。著者の結論は 「経済成長と人口は関係ない」「需要は必ず飽和する」「経済成長するには プロダクトイノベーションが必要」

*マルサス/人は豊かになれば子供をたくさんつくる→食料の供給は 人口増加に追いつかない→人口は 食料不足、非婚化により抑制

*ケインズ/投資は人口などにより決まる→人口減少=投資減少=不況→失業。投資に代わり 消費が有効需要を支える必要あり→所得を貯蓄にまわす富裕層から 消費をする一般大衆へ所得配分

目からウロコだったのが
*ヴィクセル/最適な人口=1人あたり福祉水準を最大にする人口
*人口知能時代の人の所得=労働所得+AI所有による所得


*GDP=1年間で作り出す価値を価格で評価したもの→人口増加により増えるものではない→豊かさの尺度としては不十分

イノベーション→先進国の経済成長→一人あたりGDPが増加

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2018年01月25日

Posted by ブクログ

久々に当たりの新書。
人口関連の知識も多く勉強になる。
また、生産労働人口とGDPに相関性が無いというのは驚きとともになるほどなと。

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2017年11月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 解するに、日本に蔓延している「人口減少ペシミズム」とは、一つは国富の源泉たる労働人口の減少、もう一つは人口減少と同時進行する高齢化に伴って増大する社会保険料負担の2点に由来するのだと思います。

前者の「国富の源泉たる労働人口減少」が真実なら、後者の社会保険料負担増加は必然なので悲観するのも無理はないですが、本書では前者のテーマを歴史的・統計的に論駁します。
日本だけを見ても、人口と労働生産性が比例しないケースがたびたびあった。つまり両者は比例せず、別の要素が関わっていると解釈すべきである。とすれば、人口減少の中でも国富(本書ではGDPにフォーカス)を増進させることは可能であり、そうなれば社会保険料負担率も低減できる。

乱暴に要約すると本書の趣旨はそんなところでしょうか。
ただ、マクロにとらえれば人口減少の中でもGDPの伸長は図れても、ミクロに見た場合に問題はないのか、という点が若干気になりました。つまり格差拡大が進むのではないかという点が。

しかし論理構成は明快で、参考になる統計情報も豊富。大変勉強になる1冊でした。

本書の結びでは(上記の論理展開から)、企業は人口減少から将来を悲観して守りの経営を行うのではなく、積極的にイノベーションを起こしていくべき、と提言しています。
これは昨今のキャッシュ経営に対する苦言ではなく、またバブルの頃のように営業CFがマイナスなのに更に銀行から借金して投資せよ、と言ってるわけでもないと思います。
それは、「極端に守りの経営を行うのではなく、しかるべき研究開発を進め、前向きに経営すべきだ」という至極まっとうな提言だと私は受け止めました。

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2017年07月18日

Posted by ブクログ

本書の主題を一言で言えば、経済成長は人口の伸びとは関係ない。ゆえに人口が減少するから経済が必ず縮小するとは限らず、イノベーションによって1人あたり所得が増えれば経済成長も可能である、というものです。

 まず理屈としてはそうだろうな、確かに100%衰退するとは限らないだろうなとは思いましたが、本書の説得力があったか、と言われるとそこは微妙でした。まず本書の主張の大前提が過去の経済学の知見であること。ケインズ、シュンペーター、マルサスなどの主張が織り込まれているのですが、実は足元で起こっていることはこれまでの経済学のフレームでは説明できないことかもしれないということです。本書では人口減少だけがトピックになっていますが、AIやIoTといった情報技術の発展が同時に起こっており、これらの現象はわれわれを別の次元の社会に導いているのかもしれません。つまり18世紀の産業革命が近代経済学の生みの親だとすれば、現在の情報通信革命は、今の経済学が前提としている多くの「あたりまえ」を覆し、全く異なる経済学の誕生を望んでいるのかもしれないということです。

 産業革命時の英国は、国力を測るのにストックではなくフローで計測すべきだと考えましたが、これは当時画期的な発想で、それまでは国が蓄積している財貨(ストック)の量が国力を表す指標だと考えられていました。現在のわれわれはGDP統計に代表されるフローこそが国力をあらわす指標だと固く信じていますが、100年後の人類からすれば「何を馬鹿なことを」と思われるようなことなのかもしれません。そういう感覚がうっすらとあるものですから、本書のようにいわゆる伝統的な経済学者の論考だけを持ってこられても、(確たる反証はないのですが)どうしても心の底から納得できない自分がいました。

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2023年04月28日

Posted by ブクログ

まさしく人口と経済の関係性を説いた書。

歴史的に過剰人口が問題だった事に触れ、マルサスの「人口論」やリカードの自由貿易論、ケインズの人口減少による投資・需要減少論、ビクセルの最適人口論、ミュルダールの子育て支援論をあげる。一方日本では人口減少と急速な高齢化によって社会保障・財政への負荷や地域社会の消滅(地方消滅)が指摘されている。ただ経済成長に関しては労働生産性(つまり資本蓄積と技術進歩・イノベーション)増加でどうにかなると語る。労働力供給と生産性向上、消費財の普及と人口移動による世帯増加が高度成長の源泉だったことをデータも交えて振り返り、4次産業革命でのAI普及でもイノベーションが鍵になることを述べている。

豊さの中で富裕層の出生率が低下するのはギリシャもそうらしいが、人口の原理とは裏腹に平均所得上昇と出生率低下、平均寿命の延びがセットで来た。平均寿命の話で、都市化の進展が寿命に悪影響であることや戦前日本の所得不平等→乳児死亡率(所得と相関)高→平均寿命短の関係を(寿命)ジニ係数を使って明らかにしたり、戦後日本は所得向上・医療改善・皆保険によって寿命を勝ち得たことを示した。ソ連の話はトッドと関係がありそう。最終章では経済(集団的物資代謝→贅沢によって加速・蜂の寓話)と経済成長(GDPという価値点数的指標の成長)について語る。先進国の成熟経済は需要の飽和(ロジスティクス曲線)に常に晒され、成長率低下圧力がかかっている。
筆者はシュンペーター的なプロダクトイノベーションを推す。ミルのゼロ成長論からの所得平等・定常状態幸福論には、筆者は江戸時代の栄養不足や災害対応を用いて鋭く反論する。最後に筆者は、そのような経済成長も平均寿命の延長に帰着すると主張する。経済成長がいいかどうかはもっと生きたいかという死生観と関わってくるのだろうと結論付けて終わる。

流石東大教授といった感じで文章も分かりやすくデータの繋がりもしっかりしていて読みやすかった。ただ一般向けということでやりにくさは感じた。平均寿命と所得の関係などは非常に興味深かったので詳しい本があれば読んでみたいと思う。戦前日本については戦死者や災害死の割合、そもそも日本を先進国に入れて議論していいのかという話もある。一人当たりの所得などを鑑みずに議論を展開しているのは紙幅の問題もあるだろうが、尽くされていないと感じた。題名通り日本経済と人口に絞って書いても良かったとは思う。 2021/2/6

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2022年03月23日

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人口と経済は切っても切れない関係だと思うが、労働人口の増加と生産性の劇的な改善により、これを乗り越えるべきだというのは賛成。
具体案がないところが経済学者らしい。

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2020年11月28日

Posted by ブクログ

人口減少が日本経済の衰退になるか。
これは、難しい問題である。と私自身も感じてきた。
この本によると、人口減少は必ずしも日本の衰退には繋がらないとのこと。
イノベーションを起こすことで、成長も可能とのことだった。
一部賛成するが、やはり人口の維持は必要な気がする。
疲弊する地方、いなくなる人口。経済の分野では必ずしも必要ない部分になるのかもしれないが、私たちは人間である以上、活気が必要だ。人間としての情が必要だ。と感じた一冊。

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2020年10月18日

Posted by ブクログ

人口減少は重大な問題ではあるが、経済学の視点に立って、人口減少ペシミズム(悲観主義)への警鐘を鳴らした本。グラフの読み取り、資料の分析方法も勉強にある。

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2020年03月18日

Posted by ブクログ

人口問題の学術的入門書。人口問題を解決するのは民間企業(民間法人)である…らしい。社会のために貢献しなくてはならないか。

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2019年07月26日

Posted by ブクログ

人口減少、市町村消滅危機と将来に対して、ペシミズムに考えがちな現在に対しての一つの提言が成る程と思える説得力がある。

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2019年05月22日

Posted by ブクログ

本書は日本経済への悲観論に対して、主にシュンペーターのイノベーション(新結合)を中心にした解決を紹介しているように見えた。

オビに「悲観論を乗り越える」とあるが、「悲観論」を「(能動的)ニヒリズム」と読み替えたほうがわかりやすいと思う。なぜなら「悲観論」のもう一端は「楽観論」となってしまうので。楽観論という語句が与えるフワフワした印象は、本書による「日本経済の悲観論への批判」という性格を表していないと感じる。

また本書全体を見ると、結びの4章では、副題にある通り「長寿、イノベーション、経済成長」について著者の主張が明確に書かれているものの、新書サイズという点で割り引いてもかなり物足りない結論に感じる。

本書を雑にまとめると「単に経済成長という数値を高めることを目的としたばかりに、マルサス、アダム・スミス的に捉えすぎて悲観的にならざるを得ない状況だが、様々な数字から見ると先細りという帰結に限定することはできない。また経済成長について視点を転じるためにスチュアート・ミル、マンデヴィル、とくにシュンペーターの視点からも捉える必要があるのではないか」という感じか。
ベタといえばベタな内容。

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2018年10月30日

Posted by ブクログ

期待していたよりも大局的な内容。人口減少=経済衰退ではない。イノベーションによる生産性向上が重要。というものだがもっとミクロな議論展開がないと説得力に欠ける。長寿が悪ではない、というのはその通りだと思った。

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2018年01月31日

Posted by ブクログ

人口減は経済成長の大きなマイナス要因ではない。人口減でもプロダクトイノベーションで成長可能との主張。
人口と経済成長の関係がそれほど強くないことは意外であったが、著者の分析から納得。
労働分配率を下げ、投資を回避して成長へのリスクを取らない経営者の姿勢が、日本の成長を阻害していると思う。

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2018年01月24日

Posted by ブクログ

人口を切り口に経済を考察する。
経済音痴の私には難しく、眠くなるページが多いが、所々なるほどと思うところもある。
それにしても三連休はよく読書した。


以下は読書メモ:
18世紀の学説では、人は豊かになれば子供をたくさんつくる。生物も、食料が増えれば数が増える。
しかし、19世紀末から先進国では豊かさの中で人口が減り始めた。
人口増加に代わって人類が経験したことのないハイペースで平均寿命が延びた。

経済成長を牽引するのはプロダクトイノベーション、それによって生み出されるモノやサービスが平均寿命の延長に貢献してきた。

人口が減ってもイノベーションによる経済成長は可能。寿命は生物学的限界かもしれないが、イノベーションにより「生活の質」をあげていくべき。

日本経済の将来
労働力人口 年率 -0.6%
多くの経済学者の考える潜在成長率 0.5%だが、筆者の可能と考える成長率 1.5%、そのためには年率2.0%の労働生産性の伸びが必要
一人当たりGDPは年率2%なら35年で2倍
現在30歳の人の生涯所得は現在65歳の人の2倍になる計算
問題は日本の企業がプロダクトイノベーションを成せるか。現状は日本企業は投資ではなく貯蓄に回している。
日本経済の将来は、日本企業がいかに「人口減少ペシミズム」を克服するかにかかっている。

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2017年10月09日

Posted by ブクログ

子供の頃人口問題といえば人口爆発とか過密化とか習ったため、人口減少がそんなに悪いこと? 増え続ける人口を支える(望ましい)雇用が本当にあるの? と疑問で、少子化はともかく高齢化=長寿化は基本的にはめでたいことなのに…と素朴に思っていた身としては、そうそう、と膝を打ちたくなる話だった。少なくとも数がいりゃいいのではなく、イノベーションを創出するような高度人材じゃなきゃだめなんじゃないの、安い人件費で再び世界の工場になるような低所得を受け入れるんでなければ、と思っていたのよね。ただし、リクツでは人口減少⇒経済衰退ではなくても、「人口減少ペシミズム」に陥って、縮こまって投資、しかも近視眼的でない挑戦的な投資を惜しんでいたら、イノベーションなんか生まれないから、日本経済の先行きはやはりあまり明るくなさそう。そういえば、消費が落ち込んでいるのは何となく将来の不安に備えての節約のせい(そして節約自体が習慣化してしまったせい)というニュースを最近やっていたが、好景気と言われつつも企業が何となく将来の不安に備えて内部留保を貯め込むのを優先したツケが個人消費に回ってきたって感じなのも、投資抑制マインドが成長を阻害する構図に似ている。そうして先行き暗い感がますます強まり、さらに少子化が進みそうだわ。
それにしても、20世紀半ばまで「人間五十年」だったのだなあ。

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2017年07月03日

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